息子の誕生日に『SLAM DUNK』と『DRAGON BALL』を全巻プレゼント。スペクタクルリーディング『バイオーム』で1人2役を演じる中村勘九郎――表現者と父親、2つの顔

歌舞伎の枠に収まらず、映画やドラマなどでも目覚ましい活躍を見せる中村勘九郎が、この春、新たに挑戦するのは“スペクタクルリーディング”と銘打つ朗読劇『バイオーム』。宝塚歌劇団で多くの名作を手がけてきた上田久美子が書き下ろし、『麒麟がくる』『精霊の守り人』の一色隆司が演出。さらに日本を代表する演劇人が集結する、謎多き舞台の全貌とは――。2人の息子を持つ名優の、父親としての顔にも迫った。

摩訶不思議な舞台になると思う

――『バイオーム』のオファーを受けた率直な感想は?

最初に朗読劇と聞いて台本を読ませていただいたんです。上田(久美子)先生がお書きになった物語はものすごくて、「本当にこれ、朗読なの……?」っていう感じ。まだ稽古が始まっていないので、どうなるのか僕にも想像がつかないです。朗読劇は一度経験したことがあるのですが、それは無観客で収録したもの(『劇場の灯を消すな! Bunkamuraシアターコクーン編 松尾スズキプレゼンツ アクリル演劇祭』で、井上ひさしの『十二人の手紙』より『泥と雪』を朗読した)。大竹しのぶさんと手紙のやり取りを朗読する内容で、稽古も場当たりで一度読んだくらいでした。その時は瞬間的に出る感情を表現する楽しさがありましたが、今回は本当にどうなるか……。

――スペクタクルリーディングという名前がついていますが。

まだ何がスペクタクルなのかわからないのですが、演出の一色(隆司)さんのお話をお聞きすると、カーテンに映像を映したり、舞台機構も使うそう。朗読劇に馴染みがない方も楽しめるような、摩訶不思議な舞台になりそうです。

――声だけで表現する難しさは?

やっぱり体と共に表現するものよりも、声だけで情報を伝えなければいけないので、その部分はしっかり意識しながら演じなければと思います。ただ、このメンバー(花總まり、古川雄大、野添義弘、安藤聖、成河、麻実れい)が揃っていて体を使わないのはもったいないとも感じるので、そこは見てからのお楽しみになるかと思います。「朗読劇だと思って行ったら、すごいものを見た!」みたいになればいいですね。

8歳を演じることは、不安でしかない(笑)

――植物の世界と人間の世界が複層的に描かれる作品で、勘九郎さんが演じるのはルイとケイという8歳の男の子と女の子ですね?

あえて子供っぽくしなくてもいいとは言われていますが、40歳の私が演じることは不安でしかないです(笑)。ルイとケイは、欲の塊のような大人の世界で生きる子供たち。僕たちもかつて子供だったはずですが、いつの間にか欲や感情に流されて、純粋な心が失われていっていると思うんです。うちの次男が役と同世代なので、子供から出てくる言葉や行動は、演じる上でよく研究したいと思いますね。

――他のキャストのみなさんは人間と植物の対称的な2役を演じられますが、勘九郎さんが演じるルイとケイは?

僕の場合はどちらも人間ですが、対称的ではあると思います。ルイはえらく大きなお屋敷で生まれ育った政治家一族の1人息子なんですけれども、拠り所が植物なんです。お父さんのことは好きですが、お母さんからは愛されていないという思いがすごくあり、おじいさんも威圧的。逃げ場がない状況のなかで植物との対話に安らぎを見出すんです。そんなルイを、ケイは冷静な目で見守る存在です。

――2人の間で会話があるということですか?

ルイとケイで喋ることが多いですね。2役を1人で演じなければいけないので、それは大変ですよ。落語のようにするのとも違うし、顔を右と左に向けて演じ分けるのも違う気がしますしね。なんだかとてつもなく難しいものを提示されています。

――植物が大好きなルイと勘九郎さんに、共通点は?

私は真反対な性格でして。土の上で裸足になることはもちろん、海に普通に入っていけないくらい汚れたりするのが苦手。植物は嫌いではないですし、妻に花をプレゼントするのは好きですが、虫がつきにくい花を選ぶようにはしますね。ルイやケイではなく、僕には大人の役をやらせた方がよかったかもしれません(笑)。

――舞台や映像作品にも積極的に出演されていますが、その経験を歌舞伎にフィードバックすることはあるのでしょうか?

歌舞伎は独特の演出や手法があるので、他の作品で経験したことを持ち帰るのは難しいんです。ただ、さまざまな作品で場数を踏み、度胸を試される経験を積むことは、中村勘九郎という役者が成長する上で大いに役立っていると思います。今回も才能豊かな共演者の方たちと一緒に作品を作り上げていくことが楽しみですし、いろんなものを吸収したいと思っています。

父親になって実感した、父の日の喜び

――舞台が上演される6月には父の日があります。勘九郎さんの父の日の思い出はありますか?

子供の頃から父に手紙を書いたりプレゼントをしたりしていました。僕は白い花が好きなので、かすみ草の花束をプレゼントしたこともあります。あとはネクタイだったり、弟と奮発してゴルフクラブを贈った思い出もありますね。

――勘九郎さんがお子さまたちに祝ってもらうことは?

父の日って、母の日に比べておろそかにされがちなイメージがあるじゃないですか。でもうちはありがたいことに、今のところ祝ってもらえています。自分が父親になってみると、父の日をお祝いしてもらえるってすごくうれしいんですよね。それを実感しているところです。

――どんなプレゼントを?

息子たちは最近料理に目覚めまして。父の日だったり誕生日だったりイベントがある時には必ずなにか作ってくれます。コロッケを作るのがとてもうまくて、最近も作ってくれました。中身をなめらかにしたいようで、長男が必死に茹でたじゃがいもを漉していました。「そんなにやったらトロトロになりすぎるんじゃない?」とも思ったのですが、そこに次男が好きなバジルを混ぜたら、それが本当に美味しかったんです。

ただ、2人ともやりたがりな性格で。この間は長男のほうが先にキッチンに立っていたら、次男がすねてずーっとぶつぶつ言ってました。「せっかくエプロンもして手も洗って準備したのに、僕はできないんだ……」って。「いいよ、やりなさいよ」と言ってもすねていて、ちょっと大変でしたけどね(笑)。

――逆にお子さまたちの誕生日などに、勘九郎さんはどんなプレゼントをするんですか?

僕は「週刊少年ジャンプ」で育ってきたので、彼らにも英才教育としてジャンプを読ませているんです。子供の頃は『DRAGON BALL』が大好きでしたし、学生時代は『SLAM DUNK』、『幽☆遊☆白書』、『みどりのマキバオー』なんかを読んでいました。そして桂正和先生が描く漫画のちょっと大人なシーンはこっそり読むという(笑)。そういった部分も漫画から教えてもらいました。子供が成長する上で大切なことは全部ジャンプに詰まっていると思います。長男の9歳の誕生日には『SLAM DUNK』を全巻プレゼントしましたし、今年の5月の次男の9歳の誕生日には『DRAGON BALL』をプレゼントしました。

――では今後、父の日に期待することは?

ジャンプについて息子たちともっと喋れるようになれたらいいですね。子供の頃の純粋な気持ちは薄れてしまったかもしれないけれど、大人になってもずっと変わらないことはジャンプへの愛。今でも弟と回し読みしていますし、ジャンプの発売日の月曜日が楽しみで仕方がない。合併号が嫌い、ということも変わらないです(笑)。息子たちは最近、『僕とロボコ』にハマっていてギャグ漫画に目覚めたようなんです。いつかは僕が知らない新しい作品をプレゼントしてくれたら、最高です。

中村勘九郎

1981年10月31日生まれ、東京都出身。十八代目中村勘三郎の長男。1986年1月に歌舞伎座にて初お目見得。1987年1月歌舞伎座『門出二人桃太郎』の兄桃太郎役で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。2012年2月新橋演舞場『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精などで六代目中村勘九郎を襲名。歌舞伎にとどまらず、舞台『おくりびと』、『真田十勇士』、大河ドラマ『新選組!』、『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』、映画『禅 ZEN』、『清須会議』、『真田十勇士』、『銀魂』などに出演。

スペクタクルリーディング『バイオーム』

その家の男の子はいつも夜の庭に抜け出し、大きなクロマツの下で待っていた。フクロウの声を聴くために……。男の子ルイ(中村勘九郎)の父(成河)に家族を顧みるいとまはなく、心のバランスを欠いた母(花總まり)は怪しげなセラピーに逃避して、息子の問題行動の奥深くにある何かには気づかない。政治家一族の家長としてルイを抑圧する祖父(野添義弘)、いわくありげな老家政婦(麻実れい)、その息子の庭師(古川雄大)。力を持つことに腐心する人間たちの様々な思惑がうずまく庭で、古いクロマツの樹下に、ルイは聴く。悩み続ける人間たちの恐ろしい声とそれを見下ろす木々や鳥の、もう一つの話し声を……。

日程:2022年6月8日(水)〜12(日)※配信あり

会場:東京建物Brillia HALL

公式サイト

https://www.umegei.com/schedule/1042/

撮影/小田原リエ 取材・文/松山梢 スタイリスト/藤長祥平

ジャケット¥67,100、シャツ¥36,300、パンツ¥41,800(以上セブン バイ セブン/サカス ピーアール☎03-6447-2762)

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