『トップガン マーヴェリック』の俳優ヴァル・キルマーの実人生が、「アイスマン」と重なる5つの理由
2024年11月15日、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて、『トップガン マーヴェリック』が放送されます。
前作『トップガン』から、アイスマンは「イヤミなやつ」のようでいて、「実はイイやつ」「本当に大切なことを言っている」「見終わったら大好きになっている」と称賛されるキャラクターでした。そして、今回の『トップガン マーヴェリック』におけるアイスマンの姿、「ヴァル・キルマーとトム・クルーズとの再共演」そのものにも感動があります。
何より、トム・クルーズに匹敵するほど、ヴァル・キルマーの俳優としての実人生もまた、『トップガン マーヴェリック』のアイスマンという役に重なることを知ってほしいのです。
ここからは、ヴァル・キルマーの実人生をたどったドキュメンタリー映画『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』(U-NEXTで独占配信中、執筆時点)の内容を、5つのポイントに分けて紹介しましょう。
ナレーションを担当しているのは息⼦で俳優のジャック・キルマー。その話しぶりは、父親の言葉を「代読」しているようにも思えました。ヴァル・キルマーは2014年に咽頭がんを患い、克服はできたものの、放射線治療と化学療法で声を失ってしまい、機器の⼿を借りてようやく言葉を絞り出せる状態になっています。
ヴァル・キルマー自身も「僕が感じているよりもひどい声」と自虐的な発言をしているほど、その声は聞いていて確かに苦しそうですし、「(チューブのついたプラスチックがあるから)のどの穴をふさがないと話ができない」「呼吸と飲食か(一度には)どちらかしかできないんだ」という状況も語っています。
ちなみに、『トップガン マーヴェリック』劇中でのアイスマンの声は最先端のAI技術を駆使して再現したもの。実際の咽頭がんに侵された後のヴァル・キルマーの声とは異なっています。AI技術のプロジェクトに参加した理由を、ヴァル・キルマーが説明する動画も公開されており、「変わらぬ創作魂をまだ持っている」という言葉などに彼の信念が感じられます。そして、ヴァル・キルマーの「(咽頭がんを克服できても)以前のように声を出せなくなった」姿は、『トップガン マーヴェリック』劇中における、「余命わずかでしゃべるのもつらい」と語るアイスマンの姿に重なります。
それでも、後述するアイスマン=ヴァル・キルマーの優しさが見えること、劇中のマーヴェリック=トム・クルーズとの関係性にも感動があるのです。
ちなみに、ヴァル・キルマーは自身が演じたアイスマン役について「父に阻害されていたという裏設定を作った。その生い立ちから完璧主義者となり、クールでイヤミな面が表れる」と説明。このことを知ってから『トップガン』での彼の態度を見ると、より「なるほど」と納得できるかもしれません。
脚本や作品のクオリティーについて、自分の意見をはっきりと口にするからこそ、ひょっとしたら現場ではよく思われなかったこともあるのではないか……とも思える一方、俳優の立場から作品をよりよいものにしたいと願うという姿勢は、やはり誠実だと思えました。さらに、1995年に出演した『バットマン フォーエヴァー』『ヒート』などでも、やはり正直なもの言いをしている様が、ユーモラスかつ辛辣(しんらつ)なため笑ってしまうのですが、後には「(演じてきた役に)不満なんてないですし、運よくここまで来れました」「特に評価の高い役に不満を言えば、何様だと怒られるでしょう」と謙虚な発言をしていたりもします。
現実のヴァル・キルマーが「言葉が強く、聞いていてハラハラするけど、実はちゃんとしたことを言っている誠実な人」であることも、どこか『トップガン』『トップガン マーヴェリック』のアイスマンと重なるのです。
ヴァル・キルマーは、その役を分析するのはもちろん、マーク・トウェインが借金返済の一環として世界中で講演活動を行っていたことが、まさに自身もまた借金を返すために同じように世界を巡って公演していることと重なっている、と語っているのです。「役と同じような行動を実際に取っている」もしくは「現実の自分が演じる役と一致しているようにも思える」こともまた、その後の『トップガン マーヴェリック』のアイスマンに通じていることでしょう。
また、ヴァル・キルマーが少年期に兄の1人を亡くしていたこと、それがとてつもなく大きな喪失感であったこともたびたび語られています。そんな事情を踏まえ、『トップガン マーヴェリック』で大切な人を再び失うことを恐れるマーヴェリックに対し、助言をするアイスマンを見ると、より思うことがあるかもしれません。
※以下からは『トップガン マーヴェリック』の重要なシーンに触れています。ご注意ください。
アイスマンが、文章をタイピングしながらかたくなに訴えるのは「任務の話をしたい」ということ。さらには、マーヴェリックのかつての親友であるグースの息子・ルースター海軍大尉に対して「まだ時間はある」「特訓してやれ」とも助言します。
しかし、マーヴェリックは「俺は教官じゃない。戦闘機乗りだ。海軍パイロットだ。ただの仕事じゃない。俺の生き様だ。それをどう教える?」「あいつを任務に行かせたら、生きて戻らないかも。でも行かせなかったら、俺を許さないだろう」などと返答。
それに対し、アイスマンは「自分の声」で返します。「軍にはマーヴェリックは必要だ。あいつにもマーヴェリックは必要だ。だから、俺は戦った(推薦した)んだ。だから、お前もまだ軍にいる」と。
いずれ軍ではパイロットが必要ではなくなる(無人機に代わる)上に、教官としての自信をなくし、さらには親友に続きその息子まで失ってしまうことを恐れるマーヴェリックに対して、「必要」であることを告げるアイスマンは、どこまでも優しいと思えたのです。
加えて、マーヴェリックが戦闘機乗りであることを「生き様」とまで告げること、それはそのままトム・クルーズの俳優としての人生および、アイデンティティにも言及しているように思えました。「教官」という立場は、これから若い世代に技術を継承していく“ベテラン俳優”としての立場と重ねて見ることもできるでしょう。
そのマーヴェリックを抱きしめたアイスマンは、「最後に1つ、どっちがいいパイロットだ? お前か俺か」と冗談めかして言い、マーヴェリックから「いい雰囲気なのに、ぶち壊したくない」と返されて笑い合います。
それは、ヴァル・キルマーもまた、トム・クルーズと同じ時代の俳優としての人生を生きており、ヴァル・キルマーにとっても「俳優」こそが自身の生き様でありアイデンティであること、なおかつトム・クルーズとは「軽口も言い合える親友」であることを示しているかのようでした。
『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』の中では、『トップガン』の撮影において、ヴァル・キルマーは「役柄上の対立ごっこは楽しいが、現実のトムは互いを助け合う友人だ」とも語っています。その友情が、36年間にわたって続いていたことにも感動があるのです。
マーヴェリックからの「ありがとうアイス、何もかも」というセリフにも、声を失ってなお、再び出演してくれたヴァル・キルマーへに対するトム・クルーズからの感謝を読み取ることができます。映画は往々にして、劇中の役柄と俳優の実人生が重なるものです。『トップガン マーヴェリック』は、特に2人の俳優の「これまで」があったからこそ、物語により大きな感動が生まれたと言えます。その感動をさらに深掘りするためにも、ぜひ『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』を見てほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)
トム・クルーズがいたからこそできた作品、そして……
世界中で大絶賛を浴びた『トップガン マーヴェリック』は、日本でも興行収入137億7000万円という記録を達成。世界最高峰のスタッフとキャストにより世に送り出された同作最大の功労者は、主演だけでなく制作にも名を連ねたトム・クルーズであることに異論はないでしょう。『トップガン マーヴェリック』は、前作『トップガン』から36年間、誰にも続編製作権を渡さなかったからこそ紡がれた、「過去」と向き合いながら「未来への道」を探す物語。俳優としての挑戦がそのまま劇中のマーヴェリック海軍大佐とシンクロするなど、「トム・クルーズがいなければここまでの作品になっていなかった」理由がたくさんあります。前作『トップガン』から「実はイイやつ」なアイスマン
そのことを前提とし、本記事ではアイスマン海軍大将を演じたヴァル・キルマーを推します。トム・クルーズにとっても、今回の『トップガン マーヴェリック』における彼の出演は悲願でもありました。前作『トップガン』から、アイスマンは「イヤミなやつ」のようでいて、「実はイイやつ」「本当に大切なことを言っている」「見終わったら大好きになっている」と称賛されるキャラクターでした。そして、今回の『トップガン マーヴェリック』におけるアイスマンの姿、「ヴァル・キルマーとトム・クルーズとの再共演」そのものにも感動があります。
何より、トム・クルーズに匹敵するほど、ヴァル・キルマーの俳優としての実人生もまた、『トップガン マーヴェリック』のアイスマンという役に重なることを知ってほしいのです。
ここからは、ヴァル・キルマーの実人生をたどったドキュメンタリー映画『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』(U-NEXTで独占配信中、執筆時点)の内容を、5つのポイントに分けて紹介しましょう。
1:実際に咽頭がんに侵されていた
『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』は、ヴァル・キルマーの代表作の未公開映像を用いて、俳優としてのキャリアはもちろん、撮り溜めたビデオ映像により少年時代から実人生を振り返る内容になっています。ナレーションを担当しているのは息⼦で俳優のジャック・キルマー。その話しぶりは、父親の言葉を「代読」しているようにも思えました。ヴァル・キルマーは2014年に咽頭がんを患い、克服はできたものの、放射線治療と化学療法で声を失ってしまい、機器の⼿を借りてようやく言葉を絞り出せる状態になっています。
ヴァル・キルマー自身も「僕が感じているよりもひどい声」と自虐的な発言をしているほど、その声は聞いていて確かに苦しそうですし、「(チューブのついたプラスチックがあるから)のどの穴をふさがないと話ができない」「呼吸と飲食か(一度には)どちらかしかできないんだ」という状況も語っています。
ちなみに、『トップガン マーヴェリック』劇中でのアイスマンの声は最先端のAI技術を駆使して再現したもの。実際の咽頭がんに侵された後のヴァル・キルマーの声とは異なっています。AI技術のプロジェクトに参加した理由を、ヴァル・キルマーが説明する動画も公開されており、「変わらぬ創作魂をまだ持っている」という言葉などに彼の信念が感じられます。そして、ヴァル・キルマーの「(咽頭がんを克服できても)以前のように声を出せなくなった」姿は、『トップガン マーヴェリック』劇中における、「余命わずかでしゃべるのもつらい」と語るアイスマンの姿に重なります。
それでも、後述するアイスマン=ヴァル・キルマーの優しさが見えること、劇中のマーヴェリック=トム・クルーズとの関係性にも感動があるのです。
2:『トップガン』に当初は乗り気ではなかったけど……
『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』は『トップガン マーヴェリック』の公開よりも前の作品であることもあって、同作への言及はほとんどありません。しかし、1986年の前作『トップガン』についてはその思い入れがしっかり語られていました。実は、ヴァル・キルマーは『トップガン』への出演について「当初は乗り気じゃなかった」「脚本も、好戦的な内容も好きじゃなかった」「でも雇用契約上、出演は絶対だった」と、当時の正直な心境を吐露をしています。それでも「トニー・スコット監督の構想と熱意のおかげで、楽しい撮影となった」と好意的になっていったこと、「アイスマンの出番は少ないので、リアルを追求した」などと、役者としての誠実な姿勢も語っています。ちなみに、ヴァル・キルマーは自身が演じたアイスマン役について「父に阻害されていたという裏設定を作った。その生い立ちから完璧主義者となり、クールでイヤミな面が表れる」と説明。このことを知ってから『トップガン』での彼の態度を見ると、より「なるほど」と納得できるかもしれません。
3:クールで正直だけど、姿勢そのものはやはり誠実
ヴァル・キルマーの「クールかつ正直、それでも役に真剣に向き合う」姿勢は、1993年に出演した『トゥーム・ストーン』に対する「脚本が悪いと演じるのも大変だが、ドク(悪党)はよく練られた役だ」といった発言にも通じます。さらには1996年に出演した『D.N.A./ドクター・モローの島』で、監督のジョン・フランケンハイマーとの折り合いがよくなかったことにも重なるかもしれません。脚本や作品のクオリティーについて、自分の意見をはっきりと口にするからこそ、ひょっとしたら現場ではよく思われなかったこともあるのではないか……とも思える一方、俳優の立場から作品をよりよいものにしたいと願うという姿勢は、やはり誠実だと思えました。さらに、1995年に出演した『バットマン フォーエヴァー』『ヒート』などでも、やはり正直なもの言いをしている様が、ユーモラスかつ辛辣(しんらつ)なため笑ってしまうのですが、後には「(演じてきた役に)不満なんてないですし、運よくここまで来れました」「特に評価の高い役に不満を言えば、何様だと怒られるでしょう」と謙虚な発言をしていたりもします。
現実のヴァル・キルマーが「言葉が強く、聞いていてハラハラするけど、実はちゃんとしたことを言っている誠実な人」であることも、どこか『トップガン』『トップガン マーヴェリック』のアイスマンと重なるのです。
4:マーク・トウェイン役ともシンクロしていた
さらに興味深かったのは、2014年の『トム・ソーヤー&ハックルベリー・フィン』で、ヴァル・キルマーが『トム・ソーヤーの冒険』の著者であるマーク・トウェイン役に挑んだパートです。ヴァル・キルマーは、その役を分析するのはもちろん、マーク・トウェインが借金返済の一環として世界中で講演活動を行っていたことが、まさに自身もまた借金を返すために同じように世界を巡って公演していることと重なっている、と語っているのです。「役と同じような行動を実際に取っている」もしくは「現実の自分が演じる役と一致しているようにも思える」こともまた、その後の『トップガン マーヴェリック』のアイスマンに通じていることでしょう。
また、ヴァル・キルマーが少年期に兄の1人を亡くしていたこと、それがとてつもなく大きな喪失感であったこともたびたび語られています。そんな事情を踏まえ、『トップガン マーヴェリック』で大切な人を再び失うことを恐れるマーヴェリックに対し、助言をするアイスマンを見ると、より思うことがあるかもしれません。
※以下からは『トップガン マーヴェリック』の重要なシーンに触れています。ご注意ください。
5:「必要だ」と鼓舞しつつも、軽口も言える親友に
ここからは、『トップガン マーヴェリック』の内容について語っていきます(以下のセリフは吹き替え版を参照)。アイスマンが、文章をタイピングしながらかたくなに訴えるのは「任務の話をしたい」ということ。さらには、マーヴェリックのかつての親友であるグースの息子・ルースター海軍大尉に対して「まだ時間はある」「特訓してやれ」とも助言します。
しかし、マーヴェリックは「俺は教官じゃない。戦闘機乗りだ。海軍パイロットだ。ただの仕事じゃない。俺の生き様だ。それをどう教える?」「あいつを任務に行かせたら、生きて戻らないかも。でも行かせなかったら、俺を許さないだろう」などと返答。
それに対し、アイスマンは「自分の声」で返します。「軍にはマーヴェリックは必要だ。あいつにもマーヴェリックは必要だ。だから、俺は戦った(推薦した)んだ。だから、お前もまだ軍にいる」と。
いずれ軍ではパイロットが必要ではなくなる(無人機に代わる)上に、教官としての自信をなくし、さらには親友に続きその息子まで失ってしまうことを恐れるマーヴェリックに対して、「必要」であることを告げるアイスマンは、どこまでも優しいと思えたのです。
加えて、マーヴェリックが戦闘機乗りであることを「生き様」とまで告げること、それはそのままトム・クルーズの俳優としての人生および、アイデンティティにも言及しているように思えました。「教官」という立場は、これから若い世代に技術を継承していく“ベテラン俳優”としての立場と重ねて見ることもできるでしょう。
そのマーヴェリックを抱きしめたアイスマンは、「最後に1つ、どっちがいいパイロットだ? お前か俺か」と冗談めかして言い、マーヴェリックから「いい雰囲気なのに、ぶち壊したくない」と返されて笑い合います。
それは、ヴァル・キルマーもまた、トム・クルーズと同じ時代の俳優としての人生を生きており、ヴァル・キルマーにとっても「俳優」こそが自身の生き様でありアイデンティであること、なおかつトム・クルーズとは「軽口も言い合える親友」であることを示しているかのようでした。
『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』の中では、『トップガン』の撮影において、ヴァル・キルマーは「役柄上の対立ごっこは楽しいが、現実のトムは互いを助け合う友人だ」とも語っています。その友情が、36年間にわたって続いていたことにも感動があるのです。
マーヴェリックからの「ありがとうアイス、何もかも」というセリフにも、声を失ってなお、再び出演してくれたヴァル・キルマーへに対するトム・クルーズからの感謝を読み取ることができます。映画は往々にして、劇中の役柄と俳優の実人生が重なるものです。『トップガン マーヴェリック』は、特に2人の俳優の「これまで」があったからこそ、物語により大きな感動が生まれたと言えます。その感動をさらに深掘りするためにも、ぜひ『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』を見てほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)
11/15 20:05
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