「葬儀用の花輪」がアイドルを追い詰める? 復帰決定から2日で急展開「RIIZE脱退劇」に見る根深い問題

K-POP界で衝撃が走った「RIIZE脱退劇」。スンハンさんの活動再開が発表されてからたった2日で脱退となったことはもちろん、彼の復帰に抗議する人が所属事務所の前に「葬儀用の花輪」を送ったことも議論を呼んでいます。※サムネイル写真:アフロ

M世代の韓国エンタメウォッチャー・K-POPゆりこと、K-POPファンのZ世代編集者が韓国のアイドル事情や気になったニュースについてゆるっと本音で語る【K-POPゆりこの沼る韓国エンタメトーク】。韓国エンタメ初心者からベテランまで、これを読めば韓国エンタメに“沼る”こと間違いなし!

K-POPゆりことZ世代編集者がゆるっとトーク


今回のテーマはRIIZEのメンバー脱退ニュースと、SNS上でも議論になっている「葬儀用の花輪」を使った抗議活動について。ファンダムの力が大きくなった今だからこそ心にとめておきたい、アイドルの人権問題についても考えていきます。

活動再開発表からわずか2日で衝撃の展開に

先日、RIIZEから脱退を発表したスンハンさん ※写真:アフロ


編集担当・矢野(以下、矢野):RIIZEのメンバー脱退のニュースには驚きました。活動を自粛していたスンハンさんがようやく戻ってくる! と思ったら2日後に脱退を発表。こんなこと、あるんですか!?

K-POPゆりこ(以下、ゆりこ):K-POP史上、類いまれなる事態だと思います。大手事務所の名の知れたグループが一度出した大きな決断をたった2日で覆した。しかも即脱退というのは記憶にないです。重犯罪に関わっていたなら話は別ですが。

矢野:そもそもスンハンさんが自粛した理由は私生活のスキャンダルだと聞きました。アイドルとして決して褒められたものではないものの、10カ月間で禊(みそぎ)は済んだように感じたんです。でも、その感覚は人それぞれだということも理解しています。

ゆりこ:受け取り方は本当に意見が分かれるところです。まず私のスタンスをお話ししておきますと、来日公演・イベントにほぼ参加しているBRIIZE(RIIZEファン)で、スンハンさんがいた当初からグループを応援しています。その上で今回のスンハンさんの復帰を知ったときの正直な本音は「おおー、戻ってくるんだ!」でした。

矢野:その裏にあるのは喜びですか? それとも戸惑い?

ゆりこ:驚きが8割です。実は、もう戻ってこない気がしていました。先輩グループNCTの中国人メンバーが私生活のスキャンダルで約2年間活動を自粛したのち、脱退した例があったからです。だからスンハンさんも同じ道をたどるのでは? と予想していました。残りは期待とほんの少しの不安。

矢野:やはり不安というのは反発の声が上がるであろうことや、メンバーとの格差でしょうか。この10カ月でRIIZEはだいぶ前進していますし。

ゆりこ:はい。喜ばしい反面、不安視する意見が出ていたのも理解できます。ただ長い目で見れば、彼の復帰がグループにとってさらなる起爆剤になる可能性も大いにあった。まだRIIZEは始まったばかりですから。でも想定以上に反発の声が上がってしまった。あくまで私が見聞きした範囲内ですが、日韓でもファンの温度差があったようで、韓国のほうが拒否反応を示す声が目立っていた印象です。

矢野:背景にはファン層の違いなどもあるのでしょうか。

ゆりこ:最近では韓国でもアイドルを追う大人が増えましたが、一昔前なら大学生、社会人になったら“卒業するもの”でした。今でも日本より韓国のほうがファンの平均年齢が低い傾向にあります。気になって韓国にいるK-POP好きの友人にも意見を聞いてみたんです。そうしたら同じ教会に通う10代のBRIIZEたちは総じて「復帰反対派」だったそうです。若ければ若いほど受け入れ難かったのかもしれない。

矢野:そして今の6人体制になってからファンになった人も大勢います。さらに好きなメンバーに夢中になっていると「彼(ら)の活動に水を差さないで!」という気持ちになることもあるでしょう。

ゆりこ:過去の自分を振り返っても、そういった気持ちになることは理解できますし、経験もあります。一方で超えてはいけないラインもあると思いました。実は今日の本題はここから。K-POPアイドルへの抗議活動、「いじめ」になっていませんか? ということです。

ギョッとする「葬儀用の花輪」での抗議運動、いつから始まった?

矢野:スンハンさんがたった2日で脱退を決意するまで、あらゆる抗議活動が起こったんですよね。その中でも印象的だったのが所属事務所の前に並んだモノトーンの大きな花輪。韓国のお葬式で使うものだと知ってゾッとしました。確か最近、HYBEの前にも置かれていた写真を見たのですが、K-POPファンの間ではよくあることなのでしょうか?

ゆりこ:おっしゃる通り、以前からあります。私の記憶が正しければ、K-POP関連で初めて見かけたのは2010年あたり。でも最近やけに多いなという印象です。

矢野:では、10年以上前にはすでにあったんですね。一体誰が思いついたのでしょう。あれはK-POP業界独特の手法なのですか?

ゆりこ:いえ、元々は対企業、または政治に対するデモや抗議活動の際に使われていました。諸説ありますが2000年代から出始めたと聞いています。最初は大きな権力や組織に対して、弱い立場の人たちが集まって少しでも意見を届けよう、声を無視されまいとするための苦肉の策だったんですよね。

矢野:なるほど。当初はそういった切実な背景があったということですね。

ゆりこ:ただ、「弔う」ということを軽視しているようにも感じますし、実際に違和感や疑問を呈する声もあります。韓国の知人に聞いたところ、花輪1基当たり1万円代から出せるそうです。安さの理由は生花ではないので他のお葬式と使い回しができるから。手軽で、かつ相手に大きなインパクトとダメージを与えられる手法が、K-POP業界に定着してしまうのは避けたいですね。ましてやそれが「K-POPカルチャーの一部」だなんて口が裂けても言いたくないな。

矢野:商売とはいえ、仕事を受ける業者も業者だと思います。百歩譲って企業名や団体名ならまだしも、まだ生きている人間の名前を故人として記すのは……かなりエグい! しかも今回のターゲットとなったのは21歳になったばかりの青年です。名が知られていても、弱い立場だと思います。特に韓国はいじめ問題に厳しくなっている印象があったにもかかわらずです。過去のいじめが発覚して活動を停止する芸能人も多い。それなのに、ファンから芸能人に対する暴挙・暴言は許されてしまうの? とモヤモヤします。

ファンの“要求”や“抗議”も行き過ぎると「いじめ」になるリスクも

ゆりこ:学校内での古典的、かつ典型的ないじめとして、気に入らない子の机に仏花を置くというものがありますよね。あとはお葬式ごっことか。あれと今回の件、一体何が違うのだろうとは思いました。おっしゃる通り、韓国ではいじめを「校内暴力」と言い換えて、立派な犯罪として厳しく処罰するようになっています。私生活を暴露したり、執拗(しつよう)にアラ探ししたり、盗撮したり、拡散するのは紛れもなく“加害行為”ですよね。何より、スンハンさんの復帰に賛成か反対かということと、加害行為やアンチ運動をするということは別次元の話。心の中で気に食わないと思うのは自由、でも石を投げれば罪になる。

矢野:あと、事務所の対応に対しても疑問を抱きました。あんな花輪、すぐに撤去して彼を守ることはできなかったのでしょうか。直筆の手紙も、よくこのタイミングで書かせて出したなって。本当に自ら進んで書いたのかもしれないけれど……かなり残酷に見えました。

ゆりこ:「会社は彼を守るべきだった」「職務放棄ではないか」という声も上がっていて、後日SMエンターテインメント(以下、SM)に対する抗議デモも行われました。スンハンさんを支持する人たちから、“葬儀用”とは対照的なひまわりのスタンド花がズラリと届けられたりもしています。そしてSMも行き過ぎた行為に対して「法的対処」を宣言しています。

矢野:いろいろなタイミングが「逆だったら」と思いますね。それに今回、お葬式の花輪を送った人なんて“ファンって言えるの?”と疑問を抱かざるを得ない。深読みのし過ぎかもしれませんが、RIIZEの活動を妨害したい人が混じっている可能性もないでしょうか。誰か一人でも彼の周りにいる大人が「これは一部の人間の過激な意見だ、ピークが過ぎるまで静観しよう」「進退を決めるのは今じゃない」って言ってあげられなかったのかな。

ゆりこ: この件に限らず常に実感するのが「マイナスな声はいち早く、より深く相手に届きやすい」ということです。それに、スッと受け入れてくれる人や好意的に見てくれている人はあえて発言、発信していないことだってある。特に今回の場合、まさか決定が覆されるなんて思いもしなかったでしょう。だから反対意見が目立ってしまった。精神状態によっては、5人中4人に肯定されたとしても、1人の否定的な意見が気になって傷ついてしまうことってありますよね。

矢野:あります、あります。味方の声が聞こえなくなって、大多数を敵に回してしまったような錯覚に陥ってしまうこと。

ゆりこ:これは邪推が過ぎるかもしれませんが、事務所側のスタッフもあらゆる数字の動向や抗議の圧に押され、思わず腰が引けてしまったのでしょうか(そこはしっかりしてほしいところ)。たとえスンハンさんが戻ってきたことで一時的にファンが減ったとしても、盛り返してさらに大きくなった後で「そんなこともあったな」って笑えるようになるだけのポテンシャルがRIIZEにはあると思うのですが。

矢野:復帰の決定だって他のメンバーも同意していたはず。外からは見えない絆や思いもあるでしょうし、反発を受ける覚悟もしていたんじゃないでしょうか。

ゆりこ:そう思います。今動いているファンの声が届いて、奇跡の再加入!なんてことは起きないのかな。

矢野:本筋と少し外れるのですが、「推し」「推し活」という言葉に対するネガティブ意見が出てきていると聞きました。最初はあまりピンときていなかったんです。誰かに好きな人を「推薦する」「推める」って別に悪くないよね?って。しかし今回のニュースを通じて別の視点が生まれました。お店でも本でも、人にすすめるときって多少の責任も感じますよね。非や欠点がなるべくないもの、相手に不利益がないものをおすすめしたい。だから回り回って好きなアイドルや著名人に対しても、自分が自信を持って「推せる」よう、完璧さや清廉潔白さ、成功を求めてしまっている部分はないだろうかと振り返りました。生きている他人を「消費している」ということについてもです。

ゆりこ:なるほど、そういった視点を得たのですね。K-POP市場が急拡大し、世界中の若者たちの模範で“あらねばならない”状況になっているのを実感します。優れたパフォーマンス力は大前提として、人間としてもある種の「正しさ」が求められている。夢を見させてナンボの職業であることは否定できませんが、一方で息苦しさも否めません。アラを見つければ非難し、失敗すれば排除しようとする風潮がはびこれば、「いじめの助長・正当化」にもつながりかねないと思います。

矢野:今や、そういった状況や空気感も世界中のK-POPファンたちがリアルタイムで見ていますし、少なからず影響を受けますよね。

ゆりこ:なんだかきれい事ばかりじゃないかと思われたとしても、こういった人権に関わる問題については“良くない”と言っていきたいです。きっとこの件をきっかけに他の事務所、他のグループのファンを含め、K-POPに関わる人たちは少なからず考えることがあると思います。

矢野:今回は“嫌な前例”が出来てしまったと思います。ファンダムの声や力でK-POPが成長してきたのも事実です。しかしエンタメに限らずあらゆる業界で「お客様は神様」な時代は終わったと思います。超えてはいけないラインを超えた人に対してはしっかりNOを突きつけて言いなりにならない姿勢、仕組みを作る必要性を感じました。

【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。

編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやビジネス記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。
(文:K-POP ゆりこ)

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