「倍速視聴とスキップ」「ながら見」をしてしまう理由は? 新卒社員の本音に、映画オタクが“ガチ回答”

オールアバウト入社1年目の女性社員さんと映画の楽しみ方について対談。「倍速視聴とスキップ」「ながら見」を含む、映画の楽しみ方を話し合ってみました。

オールアバウト入社1年目の女性社員・Mさんから「『ドラマ好き』より、『映画好き』の方が、文化や芸術レベルが高いという印象があるのはなぜか」と質問を受け、映画ファンの筆者が対談をする中で、若者が映画にハードルの高さを感じる理由を伺い知ることができました。


今回は「倍速視聴とスキップ」「ながら見」をする心理についてもお聞きしました。

倍速視聴、スキップをする理由は?

Mさんがついスキップしてしまう理由


ーー(ヒナタカ、以下同)若者が映画を見る時の傾向として「倍速視聴」もあるのですが、されていますか。

(Mさん、以下同)私はけっこう倍速視聴をしてしまうタイプです。さらに、おそらく制作者がすごく考えて設計している「間」がある場面も、スキップして見ています。 「ここはセリフなさそうだな」と思ったら「10秒飛ばし」をして、よくないと思いつつ「ストーリー展開が分かればいいかな」と思っています。映画をはじめとした映像作品が好きな人からしたら、もう本当に許せないと思われるのでしょうけど……。

ーー正直、自分も家では映画を1.2倍速くらいで見ることがありますし、偉そうなことは言えません。やはり家で映画を見ると、映画館のように集中して見られないから、少しテンポをよくして集中して見ようという……この考えも矛盾している、間違っているという自覚もあるんです。

漫画や小説であれば自分のペースで読むことを想定した媒体ですが、映像作品はもともと「自分が時間をコントロールできない」媒体なのに、それを操作してしまうことは「なんか違う」と。そんな自分が言うのはおこがましいですが、正直スキップをして「物語が分かればいいや」というのは、「それだけはやめて!」と言いたくもなりますが……。

ごめんなさい。

ーーいえ、こちらこそ、説教みたいなことはしたくないのですが……すみません。それでも、「間」にある心理描写や言葉に頼らない演出などは、スキップしてしまうと伝わらないですし、「2時間という時間をかけて、集中して見てこそ得られる感動」は絶対あると思うので……。それでも倍速視聴やスキップをしたいと思う人には、それができない映画館に来てもらうのが1番かなと。スマホにも触れませんからね。

そうですよね。でも、自分が家で見る分には、倍速視聴やスキップもいいかと思ってしまうんです。

ーー確かに、他の人にとやかく言われるようなことではないですよね。あとは、今はもう映像作品の数がとてつもなく多いことと、サブスクでのアクセスのしやすさも、倍速視聴の大きな理由になっていますよね。

ひと昔では「DVDを買ってきてすみずみまで味わい尽くす」という楽しみ方があっても、今はもうNetflixであれほどの作品数があったりするから、全てを見ることは不可能です。だから、「なんとか数をこなそう」として、倍速視聴してしまうことも、分かるんです。それ以外にも、単純に「かったるい」から倍速視聴やスキップをするという理由もありそうですが……。

そうですね。例えば、泣いているシーンとかを見ても、前後から泣いている理由が分かるので、そこを飛ばしたりとかはやってしまったりしますね。

ーーそう聞くと、やっぱり「スキップはやめて!」とも言いたくなってしまいます(笑)。

本当にごめんなさい!

ただ「消費」してしまうのは、もったいないかも

ーーいや、怒ってはいないですよ! でも、若者たちにとって倍速視聴がもはやマジョリティになりつつあったり、「映画の話題についていく」ために映像作品を「消費」するように見ていたりするのは、やはり上の世代からすれば驚いてしまうんです。

それでも、映画オタクである自分としては「自分で作品を選んで、映画館でその映画をじっくり見て、1つ1つをちゃんと味わう」というのも大切にしたいんです。仮につまらない、自分とは合わないと感じたとしても、その理由を分析したりするのも……性格が悪いとは思いつつもけっこう楽しかったりしますし、反対に面白い映画がなぜ面白いかの理由が見つかったりもするんですよ。そんなふうにつまらなく感じた映画の楽しみ方もあると思います。

ただ「消費」するように見てしまうのは、やはりもったいない。まずは映像作品を「楽しむ」ために見てみるのが1番いいんじゃないかなとは思います。その倍速視聴やスキップも、かったるく感じて「耐える」感じになるよりは、テンポよく楽しむ手段として、いたずらに否定するものではないとも思う……一方で「やっぱりやめた方がいいよ!」ともなる感じですね。

そうですよね、せっかく見るのなら「消費」ではなく、じっくり映画を見て「楽しむ」ということも今後意識的にやってみたいと思います。

ーーとはいえ、その楽しみ方を「強制」させてしまうようでは本末転倒な気もしますね……。たまには倍速視聴やスキップをやめて、気軽にゆったりと映画を見てみる、という感じでいいと思いますよ。あと、映画はたった2時間で1人の人間の人生を追ったり、それこそ一生ものの体験もできたりするのですから、むしろ「タイパ」はものすごくいい娯楽だと思います。

「ながら見」をするのはどんな時?

ーー今は映像作品を「ながら見」する人もいますよね。ドラマではあまり集中しなくても見られるような演出をしている場合もありますし、バラエティ番組ではテロップや効果音などを出していますし、TikTokの動画は字幕の他にも短い時間にとにかく情報を詰め込むという作り方をしています。やはり、映画はそういう映像とは違って、ながら見はしにくい媒体で、しつこいようですがやはり映画館で見るのが1番だと思いますね。

私はけっこうながら見もするのですが、2023年放送のテレビドラマ『VIVANT』では主演の堺雅人がモンゴル語で話していたので、字幕を見ないと話が追えなくて。なのでその企みができなかったんですよ。そのおかげもあって「集中してちゃんと見ないと話についていけない」と思って、『VIVANT』は私的には久しぶりに「しっかり見た」という感覚がありました。そのことも、あれだけヒットした1つの理由なのかもしれないですよね。

ーーそれは素晴らしいじゃないですか。「字幕を見ないと分からないから集中して見る」感覚も分かるんですよ。自分は海外の映画を「映画館では字幕で、家では吹き替え」を選んで見ることが多くて、吹き替えだったらちょっと画面から目を離してしまっても、耳から聞こえる音声を聞いていれば内容が分かるから、というのが大きいですね。

ドラマ以外でも、映画をながら見する時もあります。そういう時は1回見たことあるものを流すことが多いですね。ストーリー展開が分かっているから、あまり見なくても大丈夫という感覚で。

ーーそんな感じなんですね。個人的には映画とかドラマを流すと、映像の方ばかりを見ちゃったり、作業に集中してまったく映像が頭に入ってこなかったりで、ながら見があまりできないタイプなんですよ。そういうのは本当に人それぞれで、映像作品の人それぞれの楽しみ方を、短絡的に否定するものではないですよね。

映画という趣味の利点は「1人でも楽しめる」こと

ーー最初に掲げた通り、やはり映画とドラマの垣根は小さくなっている気はします。その上で、映画館で映画を見るハードルはまだ高くて、「つまらない映画に2時間も使いたくない」という心理的が働いて、本当に大ヒットする映画と、そうではない映画という、二極化が進んでいるところもあるかもしれませんね。

私も「ヒットしているから見に行ってみようかな」な感じで作品を選ぶことが多いですね。

もっと気軽に「映画館」に行っていい


ーーそういう人がほとんどでしょうね。そのほかでもレビューサイトやSNSの評判を参考にする、「口コミで話題だから見に行く」のも健全なことですし、それで良い作品にお客が入ればうれしいです。

あと、映画は趣味の中でも最も気軽なものだと思いますよ。その理由の1つが「1人でも楽しめる」ことです。映画館で映画を1人で見るのが嫌だという人もいるかもしれないですけど、映画館に行けばその孤独も受け入れてくれるというか、同じ作品を見ている不特定多数の人と一体感的なものが得られるんですよ。個人的には、誰かと予定や機会を合わせたりする趣味の方が、むしろハードルが高く感じてしまうんですね。そういう点でも、エンターテインメントとしてもっと親しみやすく感じてくれればいいのですけどね。

私の友人に映画が好きな人がいるのですけど、Instagramを見るとTOHOシネマズみたいな大きい映画館じゃなくて、ミニシアターでしかやっていない映画を見に行っている人がいて、「私とは違うなあ」と思うことはありますね。

ーーその人は、それでいいですよね。今はミニシアターの多くが苦境に立たされていることもあるので、それも「自分とは違う」だけではなく、「自分も行ってみようかな」と、ミニシアターももっと気軽に来てくれるとうれしいです。Mさんは「乃木坂46が好き」だとおっしゃっていましたけど、アイドルファンにとっても、「アイドルがちょっと好き」という人がいてくれればうれしく思う、「ニワカこっちくんな」みたいなこと言わないですよね。

『ハイキュー!!』で全ての座席チケットを買う人も

そういえば、SNSで『ハイキュー!!』をすごく好きな人が「映画を見ながら声を出してしまって、迷惑をかけるのが嫌なので、1人で何も気にせず好き勝手に見たいから、公開からしばらくたってから劇場に許可を取って、1つのスクリーンの全員分の100枚ほどの席を買って、1人で見ます」と投稿している人がいたんですよね。

ーーそんな人がいるんですか! すごいですね。

その人は、1人で何も気にせずに映画館で見ることを重視して、周りの人に迷惑をかけていないのであれば、それでいいと思う派ではあるんですけど。ヒナタカさんの言う、不特定多数のみんなと座って一緒に見るっていう感覚は私はあまり感じたことがなくて、意外でした。

ーー本当にそれが楽しいんですよ。映画を見終わった後に、言葉にせずとも「いいものを見たなあ」という感覚が、劇場全体から得られたりして。それは1人で家で映画を見る時には得難いことですね。

ヒナタカさんのそうしたお話を聞くだけでなく、書かれている記事を読むと、やはり「すごく“喋れるオタク”だなあ」と思いますね。

ーー文章からですか(笑)。いや、まあ、我ながら好きなことになると、早口になるオタクだとは自覚していますが。

私は、この作品のことを、こういうふうに好きだと、上手に表現することができないので。それがいつも、本当にうらやましくて。

ーーそうなんですか。でも、自分は言葉にするのが好きなタイプのオタクで、それを曲がりなりにも仕事にもしているというだけのことなんですよ。でも、言語化をしなくても、ご自身の中で好きだと思っていれば、それはそれで幸せなこと、それだけでいいと思います。

まとめ:やはり趣味への付き合い方は人それぞれ

いかがだったでしょうか? 筆者個人は「倍速視聴やスキップ」「ながら見」について過度に罪悪感や嫌悪感を感じてしまわなくてもいい、人それぞれの楽しみ方で良いのだと改めて思うことができました。

その一方で、映画ファンとしては倍速視聴やスキップやながら見ができない、映画本来の魅力を味わい尽くせる、集中して見られる映画館にもっと来てほしいと、改めて願うこともできました。

その上で、「ドラマ好き」より「映画好き」の方が偉いだとか高尚だとかいうことは、まったくないとも断言します。こちらの記事で語ったように、予算や制作規模以外でも両者の垣根はほとんどなくなっていますし、やはりそもそも趣味は人それぞれで楽しめばいい、比べるものではないという気持ちも新たにできました。そして、映画ファンの1人として、趣味について「マウント」を取らないようにと、改めて気をつけたいと思います。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

ジャンルで探す