『ウイングマン』『ドラゴンボール』『キン肉マン』…令和6年の今、なぜ80年代漫画のドラマ・アニメ化ラッシュなのか
1980年代といえば、多くの漫画ヒット作が生まれた年代だ。最近、そうした名作漫画をドラマ・アニメ化する動きが加速している。令和6年となった今、約40年の作品が“復活”するのはなぜか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
* * *
今秋に放送されているドラマの中で異彩を放っているのが『ウイングマン』(テレビ東京系、火曜24時30分~)。同作は1983年~1985年に『週刊少年ジャンプ』で連載された漫画の実写ドラマ版ですが、放送のたびにXのトレンド入りするなど深夜帯ではトップクラスの人気作となっています。
『ウイングマン』は『電影少女』『I”s』などで知られる漫画家・桂正和さんの連載デビュー作であり、今回の実写ドラマ化は40周年の記念企画。主人公・広野健太の藤岡真威人さんとヒロイン・アオイの加藤小夏さんが「イメージにピッタリ」と称賛されているほか、特撮アクションの第一人者・坂本浩一監督が演出を手がける迫力十分の戦闘シーンで往年のファンを喜ばせています。
1980年代に一世を風靡した漫画の新展開は『ウイングマン』だけではありません。今秋から『ドラゴンボールDAIMA』(フジテレビ系、金曜23時40分~)がスタート。1984年~1995年に『週刊少年ジャンプ』で連載された『ドラゴンボール』の新シリーズであり、初回放送でXの世界トレンド1位を記録するなど、序盤から盛り上がりを見せています。
さらにアニメでは今夏にも『キン肉マン 完璧超人始祖編』(CBC・TBS系、日曜23時30分~)がスタート。こちらも1979年~1987年に『週刊少年ジャンプ』で連載された『キン肉マン』の新シリーズであり、Season1が9月まで放送されたあと来年1月からSeason2が予定されています。
その他でも今年は春にNetflixで鈴木亮平さん主演の実写映画『シティーハンター』が配信(1985年~1991年に『週刊少年ジャンプ』で連載)され、舞台でも同じ北条司さんの漫画『キャッツ♡アイ』(1981年~1984年に『週刊少年ジャンプ』で連載)の舞台『メイジ・ザ・キャッツアイ』公演がありました。
『週刊少年ジャンプ』だけでなく『週刊少年サンデー』に目を向けても、今年6月までアニメ『うる星やつら』(1978年~1987年まで連載、フジテレビ系)が放送されていました。なぜ令和6年の今、1980年代の漫画が次々にフィーチャーされているのでしょうか。
親子視聴OKの「古くて新しい」作品
『ウイングマン』と『ドラゴンボール』がそうであるように漫画連載から「40周年」という節目であることはポイントの1つでしょう。出版社にとってはこれらの作品は貴重な財産であり、「リブランディングしてもう一度稼ぐ」という点では最高のタイミングとなります。
さらに出版社、テレビ局、アニメ製作会社、動画配信サービスなどが連携したビッグプロジェクトが仕掛けやすく、スケール感を醸し出すことで往年のファンに加えて新規ファン獲得の可能性がアップ。テレビ局にとっては親子での視聴が見込める希少なコンテンツであり、動画配信サービスとしても集客面で魅力的なコンテンツになります。
ドラマでもアニメでも「CGなどの技術進化」「旬の俳優を起用」という映像面でアップデートできることもフィーチャーされやすい理由の1つ。たとえば『キン肉マン』の格闘シーンは臨場感が過去のアニメから飛躍的に増していますし、『ウイングマン』も特撮アクションの最先端で演出することで視聴者を喜ばせています。
つまり1980年代の漫画を令和にアップデートすると、「親子ともに見応えのある“古くて新しいコンテンツ”になる」ということでしょう。
次にビジネス面で注目すべきは、『ウイングマン』『ドラゴンボール』『キン肉マン』『シティーハンター』『うる星やつら』は「配信重視」のコンテンツであること。
Netflix企画製作の映画『シティーハンター』はもちろんのこと、フジテレビ系のアニメ『ドラゴンボールDAIMA』もアメリカの動画配信サービス・CrunchyrollやNetflix、TBS系のアニメ『キン肉マン 完璧超人始祖編』もNetflixなどを通じて世界各国で見られています。すでに「漫画・アニメ絡みのコンテンツは世界のマーケットを狙う」ことが標準戦略であり、ビッグネームがそろう1980年代の作品をピックアップするのは当然でしょう。
また、もちろん国内でもTVerなどで配信されているほか、テレビ東京系のドラマ『ウイングマン』もDMM TVで同時配信されるなど、「深夜帯の放送+配信で稼ぐ」というビジネススキームが採用されています。
細部にわたるこだわりと遊び心
それぞれのコンテンツを見ていて気付かされるのは、制作サイドによる徹底したファンサービス。『ドラゴンボールDAIMA』や『キン肉マン 完璧超人始祖編』では、懐かしいキャラクターが次々に登場したり、かつての名シーンを振り返るような演出があったりなど往年のファンを喜ばせるような仕掛けが随所に見られます。
そのこだわりや遊び心は細部にわたり、なかでも特徴的なのが音楽の仕掛け。たとえば『ウイングマン』は1984~1985年放送のアニメ主題歌「異次元ストーリー」のインスト版をさりげなく実写ドラマのBGMに使っていますし、『ドラゴンボールDAIMA』の主題歌「ジャカ☆ジャ~ン」の作詞は歴代アニメシリーズの「CHA-LA HEAD-CHA-LA」「WE GOTTA POWER」などを手がけた森雪之丞さんが担当しています。
『キン肉マン 完璧超人始祖編』も「第0話」のエンディングで1983年~1984年放送の第1期アニメ主題歌「キン肉マン Go Fight!」をキン肉マンの声優を務める宮野真守さんがカバーしました。このような往年のファンを喜ばせる工夫を惜しまないこともネット上で話題を集める理由となっています。
また、これらのこだわりや遊び心は往年のファンだけに向けたものではありません。若年層などの新規ファンも動画配信サービスや漫画サイトで過去作を見て楽しめるようになったことも1980年代漫画の再ブームを後押ししています。
1980年代の当時、これらの漫画を楽しんでいた主な世代は現在の40~50代あたり。今年の新シリーズはもちろん原作漫画、過去のアニメなど、子どもたちと会話のきっかけになるコンテンツが多く、コミュニケーションの増加に一役買っているのではないでしょうか。
『ウイングマン』『ドラゴンボール』『キン肉マン』『シティーハンター』、さらに『うる星やつら』も含め、その世界観は漫画らしいファンタジーであり、年齢を問わない間口の広さを感じさせられます。それでいて、仲間との絆を描く熱さや、理屈抜きで笑えるユーモアもふんだんにあるなどコンテンツとしてのパワーが強烈なだけに、まだまだこの流れは続くのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
11/17 11:15
NEWSポストセブン