《私の最初の晩餐》具志堅用高「食べてたら、チャンピオンにだってなれる!」 下積み時代に驚いた極上のステーキ
「最初に食べたご馳走はなんですか?」。子供の頃に母が作ってくれた料理、上京したときのレストラン、初任給で行った高級店……。著名人の記憶に刻まれている「初めて食べた忘れられない味」を語ってもらい、証言をもとに料理を再現するこの企画。今回は具志堅用高さんに、忘れられないご馳走を教えていただきました。
【貴重写真】小学生時代の具志堅用高。短パンで元気にポーズを決める姿
1981年の引退から40年以上経った現在も、具志堅用高さんの残したボクシング世界王座防衛の日本記録(13回)は、未だに破られていない。バラエティー番組などで活躍する一方、白井・具志堅スポーツジムを設立し、女子世界スーパーフライ級王者の山口直子や世界フライ級王者の比嘉大吾も輩出した。今では、赤ワインとともに平らげる思い出の晩餐とは──。
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石垣島は、ぼくが子供の頃はずっとアメリカの軍政下ですからね。貧しかったですよ。家の屋根は茅葺だったし、もちろんエアコンも冷蔵庫もなし。トイレは、家の外の掘っ立て小屋。ちっちゃい電球をつけるだけの電気と水道はあったね。
お父さんはカツオの一本釣り漁師で、お母さんはそのカツオを加工する工場で働いていて。食べるものはほとんど自分たち、ぼくと姉と兄弟で集めてきてたの。近くに借りていた畑でゴーヤーやトマトを育てて、魚介類は海とか川でとるのさ。
グルクンだったら唐揚げ、大きなうなぎだって1時間以上も格闘して獲ったよ。簡単に手に入っておいしかったのは、ウニ。だから海のものをお店で買ったことは、ほとんどなかったと思う。それに、お母さんが帰ってくるときには、カツオの頭と尾っぽがバケツにどっさり。カツオ節工場だから、使わない部分を従業員にくれるわけさ。そういうのは、煮込んでスープにしてね。
うちではアヒルと豚を飼っていたけど、お肉はお祝いのときだけ。アヒルは小さいけど、それだって特別な日にしか潰せないさあ。だから運動会は楽しみだった。ぼくはかけっこは得意だったし、組体操もいちばん上。だから家族は大喜びで、重箱の中にはアヒル。豚はほとんど食べられないよ。市場で売ってお金にするから、自分たちで食べるのはお正月ぐらい。
チャンピオンへの道を切り開いた一品
牛肉は、中学を卒業して沖縄本島の高校に通うようになってから、初めて食べたの。下宿先は、銭湯を経営している人の家でね。放課後に学校で練習したら、皆で帰ってくるでしょ。ボクシングをやっている子は下宿代がタダだったから、斧で薪割りをしたり、掃除をしたり、手伝いの合間に夕飯を食べてね。
銭湯の営業が終わったら、またボクシングの練習。これ、本当の話だからね。皆でタワシを持って、床から壁から力いっぱい掃除をするわけ。映画の『ベスト・キッド』と一緒。背中も腕もパンパン。お風呂場がきれいになったら、今度は腕立て伏せとか、シャドー。サンドバッグはボイラーの横に吊るしてあったね。
そんな毎日を過ごしていると、時折、コーチとか先輩が誘ってくれるの。「ステーキ、行くか」。ナイフとフォークを手にするのだって初めてよ。鉄板の上に、見たこともない分厚い肉で、びっくりしたさ。一口食べた、その瞬間に思ったね。「これ食べてたら、何ラウンドでも戦える。おれはチャンピオンにだってなれる!」。それぐらい驚いた。肉の味が濃いんだ。
だけど、プロボクサーを目指して上京したら、また牛肉から遠ざかったさあ。ずっととんカツ屋さんでアルバイトしていたから、たまに食べられるお肉が豚になって。そうそう、世界チャンピオンになってから、ご馳走になってびっくりしたのは北京ダック。ありゃあ、結局、鶏肉に戻ってきてしまったね(笑い)。
食べた瞬間にKOされた極上のステーキのレシピ
■ステーキ
●材料(2人分)
牛もも肉(ステーキ用1枚200g厚さ2cm)2枚
玉ねぎ1/4個、いんげん2本、冷凍フライドポテト適量
塩・こしょう各適量
牛脂またはサラダ油適量
A[トマトケチャップ大さじ2、酢大さじ1.5、ウスターソース大さじ1、タバスコ小さじ1/4]
・にんじんのグラッセ
にんじん小1本(120g)、砂糖大さじ1.5、塩少量、バター5g
●作り方
【1】にんじんは皮をむき、1cm厚さの輪切りにする。鍋ににんじんとひたひたの水、砂糖、塩を入れ中火にかけ、煮立ったら弱火にして落し蓋をし、10分加熱する。にんじんがやわらかくなったら落し蓋を取り、バターを加えて、中火で鍋をゆすり水分を飛ばしながらにんじんにバターをからませる。
【2】1.5cm幅にくし形切りにした玉ねぎは炒めて、塩を少量(分量外)ふる。いんげんは塩ゆでして3等分に切る。冷凍ポテトは揚げておく。
【3】[A]の材料をすべて合わせて混ぜる。
【4】肉は冷蔵庫から出して常温にもどし、キッチンペーパーで余分な水分を拭く。焼く直前に肉の片面に塩・こしょうをふる。
【5】フライパンを熱し、牛脂(油)を入れて溶かしたら、塩・こしょうした面を下にして肉を入れ強火で1分焼く。
【6】肉のもう片面にも塩・こしょうし、裏返して強火で1分焼いたら、蓋をして弱火で1〜2分焼く。
【7】肉の中心を指で押し、肉が指を押し返すような弾力があればフライパンから取り出し、【1】、【2】と器に盛り、【3】のソースを添える。
※肉の焼き加減はミディアムレア。肉の厚みにより火の入り方も変わるため、焼き時間の調整を。
【プロフィール】
具志堅用高/1955年、沖縄県石垣市生まれ。興南高校でボクシングを始め、インターハイ・モスキート級で優勝。1976年、WBA世界ライトフライ級の王座を獲得すると、日本記録となる13回の防衛を達成する。2014年、国際ボクシング名誉の殿堂博物館で殿堂入り。
写真/菅井淳子 料理・スタイリング/柳瀬真澄
※女性セブン2024年11月21日号
11/12 16:15
NEWSポストセブン