《『ビューティフル・サンデー』歌い続けて48年》田中星児(76)“いつまで歌っていけるのか”年を重ねて自問自答「ポッと歌詞を忘れてもお客さんが助けてくれるんです」

初代うたのおにいさんデビュー時の田中星児さん

 幼児向け教育エンタメ番組『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)の初代うたのおにいさんとして知られ、1976年には世界的にヒットしていた『ビューティフル・サンデー』の日本語版カバーが大ヒット。紅白歌合戦に出場するなど、同曲を明るく爽やかに歌った田中星児さん(76)だが、最近、その美声は聞こえてこない。いったいどうしているのか。公式ホームページもなく、事務所もない。関係者を通じて田中さんとコンタクトを取り、インタビューが実現した。コロナ禍で「外に出ないようにしていた」と語る田中さんは、取材中もギターで生歌を披露してくれた。そんな田中さんは“いったいいつまで歌っていけるのか”と自問自答することがあるという。その理由を聞いた。【前後編の前編。後編を読む

【写真】76歳になった“初代うたのおにいさん”田中星児さん

 * * *
 僕はプロダクションに所属せず、母や姉に相談し手伝ってもらいながら、1人で活動してきました。SNSもやっていません(笑)。SNSから仕事に繋がることもあるでしょうが、時代についていけなくて。荒れる、とか、デジタルタトゥーになるとかも聞くので避けています。だから、仕事は今までお付き合いしてきた仕事関係や音楽仲間などからいただく話に限られ、今では本当に歌の仕事は少なくなりました。

 この数年はコロナも影響しましたね。僕は気が小さいものですから、なるべく外に出ないようにして、外出時にマスクをし、帰宅したら手洗い、うがいに洗顔。ワクチンも7回受け、おかげでコロナには一度も罹っていませんが、歌の活動はストップしてしまいました。

 コロナ前の2019年までは毎年、鹿児島いちき串木野市にある鎭國寺(ちんこくじ)の春と秋のお祭りに呼んでいただいていました。そこで「ハッピーブリンデン」というNPO法人と一緒に、身体が不自由な方もそうでない方も一緒に楽しめる『歌のバリアフリーコンサート』を行っていました。そろそろまた再開するという話もあります。「ハッピーブリンデン」のみんなに会いたい、復活するといいな、と思います。

 兵庫県伊丹市では『ビューティフル・サンデー』がヒットした当時から、長年、『ビューティフル~』で盆踊りを踊っているのだと、朝日新聞の記者さんから取材で聞き、それがきっかけで2016年から毎夏、呼んでいただくようになりました。でも、これもコロナで縮小されて、呼ばれなくなってしまいました。残念ですね。

だいすけおにいさんとのコンサート

 宣伝活動をしないながらも、コロナ後、少しずつ活動できるようになってきました。幼稚園の卒園式や敬老会、去年はほかに『北風小僧の寒太郎』『ありがとう・さようなら』などを作曲され、うたのおにいさんになった当初からお世話になった作曲家・福田和禾子先生の没後15周年コンサート、千葉いのちの電話主催のコンサートなどがありました。

 そして、第11代うたのおにいさんの横山だいすけさん(40)に声をかけていただき、クリスマスイブに第9代の杉田あきひろさん(58)と3人で、千葉の幕張で行った「歌のお兄さんズ -ファミリーコンサート」でも歌わせていただきました。『ビューティフル~』はもちろん、『北風小僧の寒太郎』『レインマン』……。昨年、ずっと一緒に暮らしてきた母が105歳で大往生したこともあり、最近はオリジナル曲『お母さんてどんな色?』もよく歌っています。

 僕のデビューのきっかけは、当時放送されていたNHKの音楽番組『ステージ101』(1970年~1974年まで放送)でした。その出演中に幼児番組『おかあさんといっしょ』のオーディションを受けて“うたのおにいさん”になり、1971年から足かけ6年やりました。

 番組卒業後も子どもたちや、子ども時代の歌を懐かしく聴きたい方々に向けて歌っていくことを、ライフワークとしてきました。お客さんはいろんな境遇の方がいらっしゃって、それぞれ思い出の歌を持っています。僕は自分にしか歌えない、自分らしい歌を精一杯歌って、少しでもみなさんの心の琴線に触れることができたらいいなあ、と思っています。

声が出にくいときも

 コロナで歌えない時期を経験したことで、歌う喜び、とくにお客さんの前で歌うライブに喜びをより感じるようになりました。僕は今、東京都内で1人暮らしをし、東京を拠点に活動していますが、僕のライブには長く応援してくださっているファンの方、遠く九州などから足を運んでくださる方もいます。みなさんの応援が「これからも歌っていこう」という心の支えになっています。歌いながら、人間はひとりでは本当に何もできない、一人では生きていけないんだなあ、と思ったりしています。

 卒園式や敬老会で歌うことが増えたとお話しましたが、子どもは昔も今も変わりませんね。コロナ中はマスクをしてかわいそうでしたが、今はマスクが取れ生き生きしています。卒園式では、卒園生と一緒に歌う曲もあるのですが、大きな口を開けて、あっちこっちキョロキョロしながらでも、間違えずに歌っています。5、6歳なのにしっかりしていて驚かされます。羨ましいかぎりです。僕は大きな音がしたり、前のほうのお客さんがあくびをしたりしただけで動揺して間違えることがありますから(笑)。

 敬老会は、聴いてくださる方が僕より若かったりして、変な気持ちになったりするんですけども(笑)。年のせいで、ポッと歌詞を忘れることもありますが、ありがたいことに、お客さんのほうが歌詞を覚えていて助けてくれるんです。

“いったいいつまで歌っていけるのか”と、ときどき考えることがあります。年を重ねて、すべての五感が衰えていますし、リハーサルで張り切りすぎて本番で声が出づらくなったり、高音が出にくくなり音を下げて歌ったこともありますから。それでも、もっとたくさん歌っていきたい、80歳ぐらいまで歌っていけたらいいなあ、と思っています。

後編に続く

◆取材・文/中野裕子 撮影/山口比佐夫

ジャンルで探す