ドラマ『セクシー田中さん』脚本家の交代要請は妥当だったのか 小学館調査報告書のポイント

小学館が公表した「調査報告書」より抜粋

 小学館は6月3日、日本テレビで2023年10月クールに同名ドラマ化された漫画『セクシー田中さん』の原作者である漫画家・芦原妃名子さんが急逝した事案について、特別調査委員会による「調査報告書」を公表した。

【写真】小学館が公表した「調査報告書」の一部

 調査は関係部署・関係社員から提出されたメールやLINEなどの資料の分析およびヒアリングに基づいて行われ、日本テレビ関係者や日本テレビが委託した脚本家には文書によりヒアリングが行われた。

 公表された調査報告書は86ページに及び、ドラマ化決定までの経緯や、脚本をめぐる日本テレビとの交渉の経過、芦原さんが繰り返し脚本の修正を求めていた経緯の詳細など多岐にわたり事実認定がされた。

「限界はとっくの昔に超えていました」

 その中で見逃せないのが、原作漫画にはなくドラマオリジナルのストーリーとなった9話と10話をめぐり、脚本家が交代した件である。8話までの脚本のやり取りで、すでに芦原さんにとって日本テレビ側への不信感が強くなる中で、以下の経緯をたどった。2023年10月のことだった。

〈16 日、社員C は芦原氏と会食し、芦原氏から「出てくる脚本がことごとく世界観を壊してくる」「何度言ってもなおらない」と聞かされた〉(調査報告書より。人物名のアルファベット表記は調査報告書のママ)

〈社員A は、芦原氏が、脚本家変更に言及しており、先に日本テレビ社員Y氏から送信されていた第9話脚本に本件脚本家が創作したセリフが挿入されていたことから、17日、電話で日本テレビ社員Y氏に対して、不可欠なもの以外は削除するように求めたところ、日本テレビ社員Y氏が「それでは本当に芦原先生が書いたとおりに起こすだけのロボットみたいになってしまうので、●●さん(本件脚本家。原文は実名)的に譲れないと思う」と述べたことがあった。

 そこで、社員Aは同日22時、日本テレビ社員Y氏にあて、日本テレビ社員X氏にはCCにて、あえて失礼を承知で言うとして「残り9、10話に関しては「ロボット的な脚本起こし」をお願いしたい」「それを●●さん(本件脚本家。原文は実名)にして頂くのはしのびない、ということでしたら、8 話以降は別の脚本家の方にお願いしたい、と社員Bから●●さん(日本テレビ社員X氏。原文は実名)へお話しさせて頂いたと」と記載し、「それくらい今はギリギリの状況と認識」しているとのメールを送信した〉

 ところが──。10月19日、日本テレビ社員Y氏から送られてきた「第9話脚本(第5稿)」には、またも脚本家のオリジナルのセリフが残っていた。小学館社員Aは、芦原さんに「脚本家の創作が残っている」ことを注意喚起したうえでこの脚本を送った。

〈芦原氏は、20日19時17分、「第9話脚本(第5稿)」を全部読んだうえとして、同脚本を全て承諾しないとし、第9 話の構想の概略を示したうえ、自分で書く、本件脚本家を代えてくださいと記載したLINE を社員Aに送った〉

 さらに、同月21日。芦原さんは、小学館社員Aに以下のLINEを送った。

〈脚本家さんは、今すぐ替えて頂きたいです。最初にキチンと、終盤オリジナル部分は芦原があらすじからセリフまで全て書くと、お約束した上で、今回この10月クールのドラマ化を許諾しました。約束が守られないなら、Huluも配信もDVD化も海外版も全て私は拒絶します。●●さん(本件脚本家。原文は実名)のオリジナルが少しでも入るなら、そもそも私は9、10話永遠にオッケー出さないです。●●さん(本件脚本家。原文は実名)の度重なるアレンジで、もう何時間も何時間も修正に費やしてきて、限界はとっくの昔に超えていました〉

 ここで、9話と10話について、脚本家が交代することが決定的となった。

脚本家交代要請は妥当だったのか

 では、そのような脚本家の交代要請は妥当だったのか。調査報告書では、こう結論付けられている。

〈元々原作者は、原作品の翻案たる脚本について、著作物の性質並びにその利用の目的および態様に照らしやむを得ないと認められるものでない限り、改変を拒否できる。(中略)本件脚本家の作成する脚本が本件漫画の世界観や思想を表現しておらず、改変と認める場合には単に改変の脚本を承諾しないだけでなく、自ら脚本を書く権利があったと言える。したがって本件脚本家の脚本が納得できない場合には、当然に脚本家を変更することができたのである。

そして10月19日に提出された第9話脚本(第5稿)は、芦原氏の第9話の詳細プロットのエピソード順番を入れ替えたり、オリジナルなセリフを挿入したりするなどして、芦原氏が納得できるものではなかったのであるから、芦原氏が自ら脚本を書くことにして、本件脚本家の交代を要請することができたと言ってよい〉

〈すでに多くの時間をかけて脚本の監修をしていた芦原氏において、ドラマ制作過程の限られた時間的制約の中で、くり返し要請をしてもなお改変が修正されないことから、これ以上続ける時間が無いと考え、交代を求めたのは妥当な判断であった〉

 繰り返された脚本の「ラリー」と、脚本家の交代。そこから、脚本家によるSNS投稿につながっていくことになる。

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