川栄李奈、怒りや悔しさもモチベーションに突き進んだ芝居の道 2025年はAKB48卒業から10年&30歳と節目の年に

川栄李奈

 クランクイン! 写真:高野広美

 映画、ドラマ、舞台などあらゆる作品で伸びやかな表現力を発揮。無限の可能性を感じさせる俳優として活躍を続けている川栄李奈。上田慎一郎監督最新作『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』では、個性豊かなキャスト陣と共にドキドキハラハラするクライムエンターテインメントの世界に飛び込み、正義感の強い女性を躍動感たっぷりに演じている。来年はアイドルグループ、AKB48を卒業して10年。30代に足を踏み入れるという、節目の年を迎える彼女。怒りや悔しさもモチベーションに突き進んだこの10年を振り返りながら、AKB48への思いや、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、舞台『千と千尋の神隠し』など転機となった作品との出会いについて語った。

◆内野聖陽の台本は付箋だらけ! 主演としての佇まいに惚れ惚れ

 本作は、韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』を原作に、『カメラを止めるな!』の上田監督がオリジナリティを加えて映画化したもの。真面目な税務署員の熊沢(内野聖陽)と天才詐欺師の氷室(岡田将生)がタッグを組んで、クセ者ぞろいの詐欺師集団「アングリースクワッド」と共に10億円もの脱税疑惑がある巨大企業の社長・橘(小澤征悦)から大金をだまし取る、予測不能なミッションを描く。

 息もつかせぬ騙し合いが炸裂する中、人間の悲哀や立ち上がる強さまでが浮き上がる、痛快なエンターテインメントとして仕上がった本作。熊沢の部下である望月さくら役を演じた川栄自身、脚本を受け取って大いにワクワクしたという。「最後の最後、ギリギリまで気が抜けないような展開で、興奮しました。内野さんと岡田さんがタッグを組まれるというお話も聞いて、これは絶対に面白いものになるなと思いました」と回想しつつ、完成作を観て「観客として、私もすっかり騙されちゃいました」と楽しそう。「もう一回観たらさらに面白い」と伏線に目を凝らしながらリピート鑑賞してほしい映画だとアピールする。

 演じたさくらは、気弱で事なかれ主義の熊沢を叱咤するような存在だ。2人の息の合ったやり取りも見どころとなるが、川栄は主演を務める内野からたくさんの刺激を受けたと話す。「本読みの段階から、内野さんの台本にはびっしり付箋が貼ってあって。台本が分厚くなっていました!」と目を丸くしつつ、「たくさん書き込みもしてあって、一度書き込んだであろうものを消した跡もあったりして。台本をものすごく読み込まれて、キャラクターのバックボーンを細かく丁寧に作られている。本当にすごいです」と尊敬しきり。

 さらに「内野さんは自分が演じる役だけではなく、みんなの動きまでを見ていて『さくらは、こっちの方が動きやすいよね』と提案してくださったり、周りの人たちがやりやすいように現場を作り上げてくれるんです。上田監督とはクランクインする前から何度も打ち合わせをされたそうですが、現場でも監督とたくさんディスカッションをされていました。いつも内野さんについていけば大丈夫だと思わせてくださって、すごくありがたかったです」と熱を込めながら、「本作では内野さんが、頼りない熊沢を演じています。さくらが、熊沢の復讐への思いを耳にするシーンも印象的ですが、ひとつの映画の中で熊沢のいろいろな表情が出てきて、内野さんのお芝居を間近で見させていただいて勉強になることばかりでした」と充実感たっぷりに語る。

◆「今に見ていろ」怒りは原動力になる


 観ているこちらも応援したくなるような魅力を放ちながらさくらを演じた。「気が強くてまっすぐな信念を持った女の子」と役柄を分析した川栄は、「私も曲がったことが嫌いなので、さくらとは似ていると思います」と笑顔。不正に対して抱く“怒り”も、さくらが前進していく上での大きな原動力となるが、「私も常に、怒りや『悔しい』という思いが原動力になります」と告白する。

 「オーディションに落ちた時などは、『悔しいな』と思います。監督やスタッフの方に『この子を使っておけばよかった』と思わせてやりたいという気持ちが芽生えてきたりと、私の中の原動力はほぼそれになるかも」と照れ笑いで素直に打ち明けながら、「だから落ち込まないんです。『今に見ていろ』と思って、すぐに切り替えられる。むしろそれが力になる」と持ち前のガッツで、役者道を突き進んでいる。

 2015年にAKB48を卒業後、出演作を重ねるごとに俳優としての評価をぐんぐんと高めてきた。来年はAKB48を卒業して10年。2月の誕生日で30歳となる、節目を迎える。この10年を振り返ると、川栄は「あっという間でした」としみじみ。俳優としてこれほど出演作を重ねていける未来は「想像していなかった」そうで、「私は『女優になります』と言って、AKB48を辞めました。『大丈夫なの?』と言われることもあって、そこでも『見てろよ』という負けず嫌いな性格が出てきていました。『やってやる』と思っていましたね」と目尻を下げる。

◆AKB48での経験、朝ドラ、ロンドン公演…すべてを糧に30代へ


 俳優を続ける上で欠かせなかったのは、「ご縁を大切にすること」だと力を込めた川栄。「その都度、一人一人ときちんと向き合って大切に関係を築いていくことが、次につながっていくものなのかなと思っています」と思いを巡らせる中、ひとつの転機となったのはヒロインを務めた2021年後期放送のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』だ。

 「20代前半は、とにかくがむしゃらで。役について深く考えるというよりは、『お芝居をしたい!』という気持ちで進んでいました。20代後半に差し掛かって、朝ドラのヒロインをやらせていただいて。その頃から主演として現場に立つことや、役について考えたり、台本を読み込む力を身につけることの大切さを実感するようになりました」と進化を遂げてきた様子だが、『カムカムエヴリバディ』で共演した深津絵里との出会いはとても大きなものになったという。「内野さんのように、深津さんも周りの人が動きやすいようにいろいろな提案をしてくださるんです。お互いに意見を出し合いながら、いい作品をつくっていく。朝ドラで深津さんの姿を見てからは、そういった意識を持つことが大事なんだなと強く思うようになりました」とまっすぐな瞳を見せる。

 今年は宮崎駿の不朽の名作を舞台化した『千と千尋の神隠しSpirited Away』で、橋本環奈、上白石萌音、福地桃子と共に主人公の千尋役として日本全国をまわり、ロンドン公演にも参加した。オーディションで千尋役を射止めた川栄だが、「『千と千尋の神隠し』はカンパニーがとても大きくて、しかも長期間の公演なので、怪我をしてしまったり、疲れが出てきてしまうことも考えられます。そんな中、主演としてみんなを支えるためにはどうしたらいいんだろうと考えていました。思えばAKB48という大人数の中で暮らしていたからこそ、みんなのことを気に掛けるようになったのかもしれません。それは私の長所なのかも」とにっこり。「AKB48では、礼儀や対応力など本当にたくさんのことを学びました。そのすべてが今に活きています」と感謝をにじませながら、「一人ではない。みんなといいものを作るんだ」という気持ちがどんどん膨らんできた10年だと話す。

 ロンドン公演では「人生観が変わった」とも。「ロンドンのお客さんから、スタンディングオベーションと『フー!』という大歓声をいただいて。毎公演、満席で大きな拍手をいただきました。ロンドンの皆さんはきっと川栄李奈という人間のことを知らなくて、私に子どもがいるということも知らないはず。まったく未知の状態から“千尋”という10歳の女の子として見てくれて、歓声を送ってくださった。すごくうれしくて、俳優というお仕事は本当に楽しいものだなと思いました」と喜びをあふれさせる。

 すべてを糧に、30代へと足を踏み入れる。川栄は「ありがたいことに20代はとても忙しくさせていただいて。この頃のことは記憶にないなと思う時期もあって」と苦笑いを見せながら、「30代はより一つ一つのお仕事を丁寧に。もう少し余裕を持ちながら、自分自身も悔いがないようなお仕事をしたいです」と希望。「肌荒れとか風邪が治りにくくなってきてしまったような気もして…。まずは健康第一ですね」とはにかみつつ、「AKB48を辞める時に、“朝ドラのヒロインになる”、“大河ドラマに出演する”、“映画で賞を獲る”という3つの目標を掲げました。“映画で賞を獲る”という夢が叶えられていないので、30代はぜひその夢を叶えたいです!」と晴れやかな表情で宣言していた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』は11月22日より公開。

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