月城かなと、宝塚人生16年のターニングポイントは組替え 自分を変えるいいきっかけに

月城かなと

 クランクイン! 写真:高野広美

 宝塚歌劇団を7月に退団した元月組トップスターの月城かなと。退団後初のコンサート『de ja Vu』の開催を間近に控える彼女に、退団からこれまでの日々を聞くと、月城の理知的であたたかな人柄が伝わるインタビューとなった。

◆根本は変わらず、新しい何かが芽生えた自分を感じてもらう場に

 ソロコンサート『de ja Vu』は、宝塚在団中から振付などで月城と縁のある港ゆりかが構成・演出・振付を担当。宝塚時代の曲はもちろん、ジャズやポップス、ミュージカルなどさまざまな音楽に乗せて、現在進行形の月城の魅力を伝える。ジャズギタリストの横田明紀男(大阪公演)、ヴァイオリニスト・作曲家の川井郁子(神奈川公演)をゲストに迎え、月城とどんな化学反応を見せてくれるのか期待が高まる。

――今回のコンサート『de ja Vu』ですが、どんなコンサートになりそうですか?

月城:港先生に演出をお願いしたのですが、以前から港先生の音の感じ方や創る世界観をすごく尊敬していたので、自分がやりたいものよりもその世界感に入っていったほうが、逆に観る方にとって新しいものになるのではないかと考えました。自分はこういうふうになりたいんだと明確にしたくなかったんですよね。フラットな状態で、今回はこういう作品なんだなというのを観てほしかったんです。

その時の等身大の自分を表現する場といいますか、退団してそんなにものすごく何かが劇的に変わるわけじゃないし、大事にしたいことは一緒だから、飛び込み型でいったほうがいいかなと思いまして。月城かなとという素材をこういうふうにデコレーションしてくれましたというのを楽しんでいただければうれしいです。港先生が今の月城かなとをどういうふうに見て感じているのかということに私自身も興味があるので、どんなコンサートになるか楽しみにしています。

――ゲストのお二方はもちろん、シンガーやダンサーといったはじめましての皆さんとの共演となります。月城さんは、すぐに打ち解けるタイプですか?

月城:すごい人見知りなんです! ですけど、こうした取材のようにお仕事の話だったら、たくさんお話できるんですよね。逆に、コンサートなどのお稽古場で一緒になるとなったら、お仕事の話はもちろんしますけど、そうじゃない、団結してコンサートをよりよいものにする!みたいな空気を作り上げることも必要だから、そちらのほうが緊張します。皆様とどんな空気感のお稽古場になるかなというのはちょっとドキドキしています。

――宝塚在団中もコンサートをやられていましたが、今回男役を卒業されて初のコンサートとなります。

月城:宝塚時代も「自分は男だ!」と思って生きていたわけではないので、そんなに中身の部分は変わらないんですよね。でも変わらないと言いつつも、これからいろんな経験をしていろんな考え方が増えていくと思うんです。今女性らしさとか男性らしさってそこまではっきり分かれていないように思うので、それを打ち出すコンサートというよりも、私にどんな引き出しが増えて、どういうふうに感じるようになったのかというのを一緒に楽しみにしていただけるようなきっかけになればいいなって。人として成長していく過程をこれからもファンの方に一緒に楽しみにしてもらいたいと思っているんです。

実際いま過ごしてみても、大きく何か自分が別の人間になるっていう感覚はまったくなくて。だけど、新しく毎日違う方とお仕事をするうえで、こういうふうに毎日仕事されているんだとか、昼間に歩くとこんなに暑いんだとか(笑)、そういう日々の本当に小さなことを感じていて。もしかしたら次、昼間の曲を歌うときに感じることも違うかもしれないじゃないですか。根本は変わらず、そこにまた新しい要素がくっついていっているという感じなので、それを一緒に感じてもらえればうれしいし、そういう機会はこれからもまた続いていけばいいなと思います。今回のコンサートはその第1段階という感じですね。

◆ターニングポイントは組替え 自分自身を変えるいいきっかけに


――退団から3ヵ月(取材当時)が経ちました。ここまでの日々はどんな毎日でしたか?

月城:早かったです。気が付いたら3ヵ月という感じでした。

――退団後、長期の旅行に出かけられる方も多いですが。

月城:旅行は行ってないですね。何かをやり遂げたご褒美にとっておいています(笑)。

――退団後新しく始められたことはありますか?

月城:それが、何か始めなきゃと思って、ぬか漬けを始めたらもう駄目にしちゃって…。挑戦するって難しいなって思いました。習慣にないことをやらなきゃと思って始めてもダメなことをぬか床で学んだので、今やっていることを何かバージョンアップしたいなと思います。自炊のレパートリーを増やすとか…。全く新しいことを始めるのは難しいな、と思いました。

――新たな門出のインタビューですので…

月城:あ、そうだ!(笑)難しいとか、言ってたらダメだ。ぬか漬けに限っては、今じゃなかったです(笑)。

――(笑)。宝塚在団の16年間を振り返るといかがですか?

月城:あっという間でした。まさか16年も経っていたとは…と思うくらいあっという間でしたけど、でも確実に昔とはものの考え方や受け取り方が違ってきているので、それを自分で実感して卒業できたのはすごくよかったなって思います。

――ターニングポイントを挙げるとすると、どの時期になるでしょうか。

月城:たくさんあるのですが、組替えは大きかったですね。宝塚にいて周りの環境を全部変えることはすごく難しいなか、自分のことを知らない人の中に飛び込む。私にとってはすごくいいきっかけだったし、どういう仕事がしたいか、どういう働き方をしたいかというのを一番に考えられるようになりました。それまでは、もっともっと未熟だったから、自分の感情とかを全部出しちゃっていたと思うんですよね。いろんなよくない部分も組の皆さんに見せてしまっていたと思うけど、組替えをきっかけに、どういう人として仕事をしたいかというのが一番に来るようになった。自分だったらどういうふうな人と仕事をしたいかと考えて、それを実践できる環境に組替えで変わって、自分自身を変えるいいきっかけになったと思います。

――先日SNSでは月城さんが月組の別箱公演を観劇されていたとの目撃情報で沸きました。

月城:そうなんですか!(笑) めちゃくちゃ楽しかったです!! 辞めた後にどんな気持ちで観るんだろう?と想像ができなかったんですけど、観てみたら本当にすごく楽しかったです。自分の知っている月組のメンバーが舞台に立っているのを観られるのってめちゃくちゃ楽しい!!みたいな。「私の推しが!」みたいな気持ちになって(笑)。推しが舞台に立っているみたいな不思議な感じでしたね。誰よりも楽しんでいたと思います。

――月組の皆さんからファンサを浴びたのでは?

月城:みなさんに申し訳ないんですけど、特権で(笑)。こんなに楽しく宝塚を観られる気持ちになるんだ!と思いました。

――蘭寿とむさん、壮一帆さんにお話を伺った時も、同じようにおっしゃっていました。親目線で観ちゃうと。

月城:皆さん同じなんですね! 私はまだ親目線にはならず、ファンとして観ています(笑)。でも、私の知っている下級生がこれからトップになっていったら親目線になっていくかもしれませんね。

――今回コンサートからのスタートとなりますが、今後どのようなお仕事をしていきたいですか?

月城:可能性を狭めず、いろんなことをやってみたいなと思っています。今はまだ自分にどれが合うか分からないし、もしかしたら今後時間が経ってから向いてくるものもあると思うし、幅広くいろんなことをやってみたいなと考えています。

――先日望海風斗さんのラジオにもご出演されました。月城さんの声がすごく優しく温かくてすてきでした。

月城:うれしいです! 望海さんの番組ということもあり、ラジオって楽しいなって思いました。ラジオのすてきなところって、お客様の顔が見えないから、自分のもっとパーソナルな部分を話せたりするんですね。聴いてくださる方も、自分がその人の声を1人で聴いているみたいな感覚になってくださるんじゃないかと思います。ラジオのお仕事もやってみたいですね。どんなのがいいと思います?

――落ち着いた声なので、夜寝る前に聴きたいです!

月城:これ聴いて寝てください!みたいな(笑)。

◆日々を生きる“月城かなと”として大事にしたい思いとは?


――在団中のご挨拶や、退団後初のメディア出演が先輩・望海さんのラジオだったり、月城さんにはクールビューティなイメージと共に“誠実”“気遣い”“ちゃんとしている”という印象を勝手に持っています。今回の取材会にも開始時刻の“10分前行動”で一度登場されて…。

月城:(一同爆笑)。10分前に一度来たの見られちゃいましたか。準備ができたのでたまたまです(笑)。でも、初めての方とお仕事をする機会が増えたので、気持ちよく仕事をしたいなと思っています。もしかしたら今回しか会わないかもしれないけど、せっかく時間を作って来ていただいているから、そこでお互いどういう人なのかというのをより知れたら楽しいなと思うし。それがまた違う人との出会いにつながったらとってもすてきだし、また何年後かに会った時に、こんなふうに変わりましたねとまた面白がってもらえたらいいなって思います。

――舞台人・月城かなととして大事にしていることはなんでしょうか?

月城:たくさんあるのですが、自分1人で創っている表現じゃないということでしょうか。舞台もコンサートも、自分だけの力で表現しているわけじゃなくて、そこに振付、照明、音楽といろんな要素が加わるから何かができる。それは常に意識していますね。

今日の撮影だったらどこから照明が来ていて、どこにレフ板があって、どこから撮られていて、そうしたらどういう写真になるのか。自分だけに必死になると、全体が上手く回らない気がするんです。それは常に大事にするようにしています。

――お話をうかがっていると、舞台に立っている月城かなとさんと、日々の暮らしを過ごす月城かなとさんは何も変わらず、そこを分けて考えていない感じなんでしょうか。

月城:そうなんですよね。たぶんあまり変わらないと思います。男役を卒業したから、よりそうなんだと思います。いろんな引き出しが増えたらいいなとはいつも思っているんですけど、違う人になろうとしなくていいかなというのはありますね。

――そんな、変わらないけど新しい、今の月城さんを体感できるコンサート。ライブ配信や、ライブ・ビューイングも決まりました。

月城:観に来られなかった方が観られないままの気持ちを抱えるより、生じゃないけど配信で観ていただけるようになったのはありがたいです。今度は生で観たいなと思ってもらえるようなコンサートにできたらいいなと思いますし、映画館でも上映があるので、気軽に観に来てほしいです。映画館、お酒も飲めますもんね(笑)。ポップコーンとお酒でも飲みながら気軽に観てほしいなと思います。

――(笑)。最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

月城:私が退団してから日々どんなことを感じているのかを歌や表現にいろいろ込めたいと思います。かつ、私が大事にしたいこと、皆様と共有したい思いが変わらずあるということを感じてもらえるコンサートになればいいなと思うので、いろいろなところで、“de ja Vu”を感じていただけるとうれしいです。

(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)

 「月城かなと1st Concert『de ja Vu』」は、11月21日~24日に大阪・梅田芸術劇場メインホール、11月29日~12月1日に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場にて開催。

 11月30日16時30分公演(※月城かなと、港ゆりかアフタートークショー付き)、12月1日12時30分 公演のライブ配信(PIA LIVE STREAM、Rakuten TV)、11月30日16時30分公演(※月城かなと、港ゆりかアフタートークショー付き)、全国の映画館でライブ・ビューイングあり。

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