『極悪女王』白石和彌監督の時代劇への思いが結実! 戦場感がリアルな『十一人の賊軍』撮影現場に潜入

映画『十一人の賊軍』メイキングカット

(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会

 総監督を務めたNetflixシリーズ『極悪女王』など、命を燃やして生きる人々の熱気をとらえることに定評のある白石和彌監督。最新作となる『十一人の賊軍』では、戊辰戦争の最中に「決死隊」として戦いに招集された罪人たちの死闘を活写。豪華キャスト陣と共に、壮絶な裏切りと葛藤の物語をスクリーンに刻み込んだ。クランクイン!では、本作の撮影現場に潜入。死と隣り合わせの戦場と化した世界へと、足を踏み入れた。

◆賊軍として戦場に立つ、山田孝之のオーラにシビれる

 本作は、「日本侠客伝」シリーズ(1964年~)、「仁義なき戦い」シリーズ(1973年~)などを手掛け、東映黄金期の礎を築いた脚本家・笠原和夫が1964年に執筆した幻のプロットを60年の時を経て映画化したもの。明治維新の中で起きた戊辰戦争の最中、新発田藩(現在の新潟県新発田市)で繰り広げられた歴史的事件・奥羽越列藩同盟軍への裏切り=旧幕府軍への裏切りのエピソードをもとにした物語。巨匠である笠原が手掛けたこのプロットを、企画・プロデュースの紀伊宗之と白石監督、脚本の池上純哉ら、平成ヤクザ映画の金字塔『孤狼の血』チームが受け継ぎ、令和に新たな集団抗争劇として誕生させた。

 新発田藩、新政府軍、旧幕府軍の三者の思惑が交錯する中、戦いに駆り出されたのは無罪放免を条件に招集された死刑囚たち。さまざまな罪を犯した彼らは、“11人の決死隊”となり圧倒的不利な状況の中で戦いを繰り広げることになる。山田孝之と仲野太賀がダブル主演を務める。

 千葉県安房郡鋸南町の山道にガタガタと車を走らせて到着したオープンセットには、“11人の決死隊”が必死に守ろうとする砦(とりで)のセットが建てられていた。屋根も壊れて朽ち果てた砦や、浮き上がる血管までリアリティたっぷりに作られた、数々の死体も戦いの激しさを物語る。劇中で大きな鍵を握ることになる吊り橋、ヤグラもしっかりと用意されたほか、山深い自然までも見事に映画の世界の一部として取り込んだような立地で、こちらまで戦場に踏み込んだような感覚を味わえた。

 爆破や発砲の轟音が鳴り響き、血飛沫が飛び交うなど、この場所で壮絶な死闘を撮り上げている白石監督。記者陣には「ようこそ!」「この辺りは鹿や猿も出るんですよ」とニコニコとした表情で声をかける一方、モニターを見る目は鋭く、走って役者のそばまで駆けつけて演出を付けるのが白石流だ。この日は雨降らしのシーンも撮影されたが、屋根の上からホースで雨を降らせ、下からはパラグライダーのエンジンで風を吹かせつつ、土砂降りの状況を再現。スタッフは水や泥を浴びながら、力を合わせている。“11人の決死隊”を演じるキャスト陣も、衣装はボロボロながら撮影の合間には清々しい笑顔を見せていたのが印象的で、現場にはなんともいい風が吹いている。誰もが泥臭く、熱く、士気を高めて撮影に臨んでいた。また賊軍として戦場を駆け回る政を演じる山田孝之は、大袈裟ではなく、ビリビリとした気迫が見えるような特別なオーラを発していた。仲野太賀との化学反応にも期待がかかる。

 日々、車で山を登ってロケ地まで通っている白石監督だが「爆破もできるし、条件がとてもいいんですよ」と目尻を下げ、「撮影の約2ヵ月の間、ここにいるとなると嫌になるかなと思ったんですが、セットができてみると全然嫌にならない。この場所まで来る道すがらも、ワクワクした道に思える。毎日ここに来るのが楽しみでしょうがないんです」と少年のように目を輝かせていた。

◆白石和彌監督、鞘師里保に惚れ込む!


 本作は企画の成り立ちも、ドラマチックだ。1964年、脚本家の笠原が、憎き藩のために命をかけて砦を守らなければならない罪⼈たちの葛藤を構想。しかし当時の東映京都撮影所所⻑・岡⽥茂は物語の結末が気に⼊らずボツに。怒りに狂った笠原は、350枚ものシナリオを破り捨ててしまったという。そのプロットが見つかり、この度日の目を見ることになったのだ。

 白石監督は「笠原さんのすごいところは、死刑囚を集めて戦わせるという物語にしているところ。人の命を使い捨てにしようとする不条理さは、時代劇だからこそ描けるものだと思います。またいまだ戦争がなくならない残酷な世の中だからこそ、より響くものだと思います」としみじみ。社会や正しさからこぼれ落ちてしまったような人々にも愛情を注いできた白石監督だからこそ、“11人の決死隊”の葛藤が胸に迫るものとして描き出されていく。

 そして「『凶悪』を撮って以降、媒体さんから『次に何を撮りたいですか?』と聞かれたら、『時代劇です』と答えていました」と時代劇に並々ならぬ意欲を抱いていたという白石監督。『碁盤斬り』に続いて時代劇に挑めることに感激しきりで、さらに出世作である『凶悪』で主演を務めていた山田孝之との再タッグも大きな喜びだ。

 白石監督は「山田さんにはある種、『凶悪』で僕を監督にしてくれたような意識があって」と切り出し、「『凶悪』以降、この10年の間にいろいろな作品をやらせていただきましたが、バジェットや関わる人数が増えれば増えるほど、孤独になっていく部分もあって。監督としてまた新しいものを始めたいという時に、この魂を受け取ってくれるのは山田さんしかいないんじゃないかと思った。鬱々としている僕を、山田さんが救ってくれるという感じもあるんですね」と告白。さらに「賊軍として集まったキャストの方々も個性的な面々で、ごった煮のよう」と微笑みながら、「本作は、ワンシーンの中に15人くらいいるような群像劇。みんなのバチバチとしたエネルギーがこちらに向かってくるので、毎日ヘトヘトです。大変だなと思いながら、心地よい疲れの中でやっています」と充実感をにじませる。

 賊の中で紅⼀点である、女郎・なつを鞘師里保が演じている。白石監督は「なつは、男勝りでありつつ、繊細なところもあってほしいなと。獣のような男たちの中で、きちんと光が当たる人がいいなと思っていました。山田さん演じる政と、バディ感も出てくるような役なんです」と解説し、難しい役だからこそ「何人かオーディションをしなければいけないなと思っていた」そうだが、「ある時、鞘師さんのお名前が上がってきて。お会いしてみたら、一発で『もうオーディションはいらないです』という気持ちになりました。僕が、鞘師さんに落とされた形です」と楽しそうに話す。

 「本作に取り組んでいると、僕たちは時代劇の所作を撮りたいのではなく、時代の中で右往左往しながら必死に生きている人間を撮りたいんだと改めて肝に銘じていて。役者さんには、とにかく暴れ回ってほしいと思っています」と力を込めた白石監督は、「本作は、名前のない者たちの物語。砦に連れて来られて、戦わざるを得なくなった運命を背負った人たちの物語です。今のウクライナもそうかもしれませんが、戊辰戦争においても死んでいったのは名もなき人たち。僕は、そういう人たちの声を拾いたいし、映画の中に焼き付けたい。今回集まってくれた人は、共犯者として一緒に汚れて、汗をかいて、そういった人たちの声を叫んでくれる方ばかり。オファーの段階から、一緒に叫んでくれる人をキャスティングしたいなと思っていました」と信頼感を打ち明けていた。

 映画『十一人の賊軍』は、11月1日より全国公開。

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