伊藤万理華、初共演・中川大志に「かっこよすぎて動揺」 お互いが惹かれる役どころとは
クランクイン! 写真:高野広美
『美しい彼』シリーズで多くのファンの心をつかんだ酒井麻衣監督が、7年ぶりの完全オリジナル脚本で挑んだ映画『チャチャ』。万華鏡のようにジャンルレスに色を変えていく本作で、「人目を気にせず、好きなように生きる」をモットーにしたイラストレーターの主人公・チャチャを演じた伊藤万理華と、彼女が惹かれていく正反対な性格の青年・樂を演じた中川大志にインタビュー。初共演を果たした2人に、お互いに感じた魅力とともに、人と関係を築いていくうえで大切にしていることを聞いた。
■「絵本みたい」な脚本に「どうなっちゃうのだろう」(伊藤)
イラストレーターのチャチャ(伊藤)は、人目を気にせずに自由奔放な生き方をしていた。ある日ビルの屋上で、謎めいた雰囲気の青年・樂(中川)と出会い、恋に落ちる。なりゆきで樂の家に転がり込んだチャチャだったが、恋人未満の関係について悶々とするように。やりきれない片思いに悩むなか、樂の秘密を知り、思いがけない決断を迫られることとなる。
――オリジナリティある世界観を持った作品です。最初に脚本を読んだときはどう感じましたか?
伊藤:脚本を読み終わったときに、「絵本みたい」と思いました。絵本みたいな、不思議な、ひと言では言葉に表しづらいなと。ちょっとファンタジーのようなところにも踏み込みながら、すごく現実的なところもある。そのバランス感覚がしっかりとあって、どうなっちゃうのだろうと思いました。
中川:本当に面白く脚本を読ませていただきました。映画の構成というか、仕組みに面白さを感じましたし、物語の視点が切り替わっていくので、実際の世界ならば知ることができないだろう人の中身に入って、その人の考えを知ることができる。それって、映画ならではの特権だと思いますし、しかもそれを多面的に楽しめる作品なので、1回目、2回目、3回目とより面白い見方ができると感じました。
――「人の中身に入って」という部分にも繋がりますが、物語がスタートしてすぐ、一見、周りなどまったく気にしていない人物のように映っていたチャチャが、実は周囲の自分への反応もしっかり見ていることが、観客には伝わります。つまり、チャチャは完全に宙に浮いているような子ではない。
伊藤:そこに、チャチャの決して宇宙人のようではない“人間味”みたいな部分が見えますよね。
中川:でもチャチャのことも、映画の視点がチャチャの中に入ることによって、「実は」チャチャも地に足が着いた子だと初めて観客も気づくんですよね。現実でチャチャに出会っていたら、きっと僕らも気づかない。それが面白いですよね。映画が観客、僕らの主観も変える。
伊藤:ただ観察しているのではなくて、チャチャから見る樂への視点を感じるときもあるし、樂から見る違う景色もある。詳しくは言えませんけど、それ以外の視点も出てきますし。その繋がり方がとてもすてきな作品だと思います。
■「チャチャは伊藤さんのために用意された役」(中川)
――チャチャと樂のキャラクター自体も、物語が進むにつれて、印象がどんどん変化していきます。その幅も伊藤さん、中川さんが演じているからこそだと感じました。おふたりは、それぞれが演じたチャチャ、樂の魅力をどう感じましたか?
伊藤:中川さんの樂は、自分が想像していた樂よりかっこよすぎて、ちょっと本当に動揺しちゃったんです。自分の中では、もっと樂はヘナヘナしているというか、弱弱しさが漂っているのかなと思いこんでいたので。それが、「あれ、全然違うんだが」と。中川さんの作り上げてきた樂は、佇まいからして、チャチャが恋をするのに完璧な野良犬だった。チャチャが純粋に、「見つけた」「すてきだな」と思える、ちょっと陰のあるところにも惹かれる樂でした。
――たしかに、陰もありましたね。
伊藤:最初から、何かの意思を持ちながら、どこか孤独な陰があって。それをずっと中川さん自身が現場で作られていて、すごくすてきでした。ほぼ順撮りだったのですが、後半になるにつれて、どんどんチャチャが引き込まれていく過程も、すごく素直に、チャチャとして引きずり込まれました。中川さんは「淡々と」やっていたので、それも罪だなと思いました(笑)。あと、そうした気持ちがピークに達したあとに、最後の森のシークエンスがあって、そのとき樂の背中を見て、初めて“母性”が湧いたんです。最初は陰とかオーラとか、ミステリアスなところにも惹かれていたけれど、もっと小さくて孤独だった。樂を「すごく人間だった」と感じました。
――そうした伊藤さんの心の動きも、本編からとても伝わりました。中川さんも、聞きながら嬉しそうですね。
中川:目指していた樂だったので、嬉しいです。今回お話をいただいた時点で、チャチャが伊藤さんだということも伺っていました。独自のエネルギーというか、世界観みたいなものを持たれている方だという印象があったので、チャチャは伊藤さんのために用意された役だな、ぴったりだなと、最初からイメージしていました。
――本当ですね。
中川:ただ、酒井監督もコメントしていましたが、チャチャは本当にバランスの難しい役で、一歩間違えただけで見え方が全然変わってしまう、とても繊細に作っていく必要のある役。お会いする前は、伊藤さんもご自身で創作活動をされていますし、世界観や表現したいことがはっきりしている方だと思っていました。それこそチャチャと同じように、とてもアーティスティックなイメージがあったのですが、でも実は現場でチャチャに行きつくまでに、すごく悩んでいらしたそうなんです。
――そうなんですね。
中川:そうした伊藤さんの迷う瞬間、チャチャと向き合っている時間があったからこそ、人間味のあるチャチャのキャラクターになったのかなと思いますし、見ている観客の方たちも共感できて、好きになれて、信じていけるのだろうと感じました。これがあまりに天才的な感覚の人だと距離を感じてしまう。でもチャチャも伊藤さんも、いろんな情報を受け取って、自分の中で悩んでいる。そうした姿に、傍から見ていてとても惹かれました。
伊藤:自分は創作活動もしているからか、近寄りがたいと距離を置かれることがあります。数週間しかなかった撮影で、中川さんはそこまで見ていてくださったのだなと。実は、現場で悩んで時間をちょっと止めてしまったりしたことがあって、申し訳ないなという思いが強かったんです。でもその悩んだ時間をチャチャとして見てくださったと。今回、本当に自分を見つめ直せば見つめ直すほど、チャチャでした。そのことに、みなさんに助けられて、監督に気づかせていただいた現場だったのですが、こうして言葉もいただけて、すごく救いになりました。
■人との関係で大切にしているのは、「優劣で捉えないこと」「自愛」
――チャチャは「人目を気にせず、好きなように生きる」がモットーだと口にしています。最後に、おふたりが人と関係を築く上で大切にしていることを教えてください。
中川:実際にできているかは分からないのですが、それこそ「人目を気にしない」ことです。気にしてしまうのは当たり前だし、僕自身、気にして比べちゃったりする瞬間が多くあったんですけど。職業柄、比べられたりすることもありますし。でもその比較も、上と下ではなく、横になるようにと。人の数だけ考え方や価値観があって、違って当たり前。そこに優劣の考えとかプライドが入って来ると疲れてしまう。プライドってどうしても付きまとうものではありますけど、でもまずは前提として、なるべく人目を気にせず、優劣で捉えないようにと、意識しています。
伊藤:私は「人に期待しないこと」です。人が自分のことをどう思うかは、その人次第でしかないから、そこに対して「こう言って欲しい」とか「こうして欲しい」と期待してしまうと、自分のメンタルが壊れてしまう。今、中川さんが言ったように、上下の目線を気にしないということにも繋がるかもしれません。そのためにも、過去の自分がやってきたことを、肯定して抱きしめてあげること。究極言うと、人とコミュニケーションしていく上で一番必要なのは、「自愛」かもしれない。自愛することで、人にも優しくなれると思うし、苦しい経験をしたとしても、それを黒歴史とは思わずに、人間としての深みが出るのだと、むしろ誇りにしていきたいです。
(取材・文:望月ふみ 写真:高野広美)
映画『チャチャ』は、10月11日より新宿ピカデリーほか全国公開。
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