禁断の“羊”の物語 アイスランドでスマッシュヒットの異色作『LAMB/ラム』の監督に聞く

映画『LAMB/ラム』場面写真

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 見渡す限りの原野が広がるアイスランドの牧場で、慎ましく暮らす羊飼いの夫婦。白い嵐が吹き荒れたクリスマスの晩、何者かが羊舎に侵入し、春が来て一頭の雌羊が奇妙な赤子を産み落とした。その容姿に驚きながら、夫妻は子羊をアダと名づけて育て始める。愛情を受けてすくすくと育ってゆくアダ。それは夫妻にとって神の祝福か、それとも…。母国アイスランドで異例のスマッシュヒットを記録し、北米では『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』の気鋭スタジオ、A24が配給権を獲得。全世界震撼のネイチャースリラー『LAMB/ラム』で長編映画デビューを果たしたヴァルディミール・ヨハンソン監督は今、新たな才能として注目を浴びている。

■アイデアの出発点は、長年書き記した“ムードブック”

――『LAMB/ラム』は単なるホラー映画とはひと味違う、神話や民話を思わすユニークな仕上がりでしたが、アイデアはどこから生まれたのですか? 母国のアイスランドに似たような話があるのでしょうか。

ヴァルディミール・ヨハンソン監督:出発点は僕の“ムードブック”です。雰囲気やスタイルを形にすべく、面白い着想や気ままな落書きを長年書き記したアイデア帳から誕生しました。脚本執筆の段階で北欧民話の要素を少し取り入れましたが、具体的な原作はありません。

――これが長編初監督作品ですが、特に集中力を要求された場面はありますか? 記憶に残るベストシーンを挙げるとしたら?

ヨハンソン監督:猛吹雪の中で馬たちが逃げ出す冒頭の場面です。冬を待って撮影したので日程的にはこれが最後の現場で、悪天候を狙ってカメラを回したので手応えのある絵が撮れましたが、気苦労が絶えませんでした。好きな場面は気分に応じて変わるので、とてもひとつには絞れません(笑)。

――主演・製作総指揮のノオミ・ラパスさんは、『プロメテウス』や『ミレニアム』シリーズで日本でも有名な女優ですが、彼女との仕事はいかがでしたか?

ヨハンソン監督:脚本段階から母親のマリア役には彼女が最適だと確信していました。ノオミはアイスランド育ちですが、アイスランド語の映画はこれが初めて。女優としても献身的で作品に深く関わり、実力のすべてを発揮してくれました。

――アダが生まれたとき、夫婦があまり動揺していないように見えるのも面白かったです。彼らには何かが起こる「予感」があったのでしょうか。

ヨハンソン監督:そう見えましたか? 僕は映画には余白を残したい。羊飼いの夫妻は大きな喪失感を抱えて苦しんでいる。それを埋められる存在、心の拠り所に巡り会えたら、どんなものでも自然に受け入れるのではないでしょうか。

――でも、母のマリアは「奇跡」を懸命に守った結果、悲劇を招いてしまう。これは彼女の罪についての物語なのでしょうか。

ヨハンソン監督:いろいろな反応が出るのはうれしいです。僕にとって本作は、親であること、哀しみと嘆きについて、自分が失ったものを手に入れるために人はどんな行動をとるのかを見つめた物語です。

■最初、アダにはセリフがあった

――アダはかわいらしいけれど、寡黙で謎めいたキャラクターでした。『スチュアート・リトル』や『パディントン』のように動物が話す映画はたくさんありますが、他の作品と異なるアプローチ、自ら表現をセーブした部分はありますか?

ヨハンソン監督:最初のシナリオでは、アダにもセリフがありました。でも、何も話さない方が彼女の思考や心情に興味が向く。他の動物たち、犬や猫、母羊の瞳にこちらの感情を投影してしまうようにね。彼らは人間よりも饒舌で、テレパシーのような能力で交信しているのではないか。感覚も鋭敏で、人が気づかない存在も感じ取る。アダも動物的な部分を多くすれば、より力強いキャラクターになると思ったんです。

――ちなみに、アダにはどんなセリフがあったんですか?

ヨハンソン監督:2つくらい。「イエス」とか「パパ、ママ」とか。まあ、簡単な言葉です。

――アダの左手が人間で、右が羊なのはなぜですか?

ヨハンソン監督:今回はすべての場面で絵コンテを描いたのですが、アダは直感的にこの姿になりました。両親から受け継いだ特徴ですね。

――本作はアイスランドでスマッシュヒット、アカデミー賞国際長編部門のアイスランド代表作品に選ばれ、第74回カンヌ国際映画祭のある視点部門では「Prize of Originality」を受賞。華々しい成功を収めました。その理由をズバリ、分析するのなら?

ヨハンソン監督:まったく分かりません(笑)。正直、予想もしなかった展開で。世界各国で多くの観客が劇場で本作を観てくれた。アメリカで評価されたのもうれしい驚きでした。

■尊敬する映画監督は?

――監督の経歴について教えてください。過去に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などの大作で特殊効果を手掛けていますが、映画界に入ったきっかけは?

ヨハンソン監督:ひとことで言えば、僕は根っからの映画好き。アイスランドで映画学校に通い、卒業後すぐ業界に入り、素晴らしい出会いと良縁に恵まれ、世界を旅してきた。さまざまな部署で働き、現場で多くのことを学びました。

――影響を受けた監督、好きな映画人は? 『LAMB/ラム』は、どこかイングマール・ベルイマンを連想させますね。

ヨハンソン監督:ホントですか? 実はちょうど昨日、『ベルイマン監督の 恥』を観たのでうれしいです。尊敬する監督は大勢いるけど、タル・ベーラにリン・ラムジー、カルロス・レイガダス、アピチャッポン・ウィーラセタクンかな。

――夫婦とアダの生活に変化をもたらす風来坊の弟が、元ミュージシャンなのも面白かったです。彼のビデオクリップがやけに凝っていましたが…。

ヨハンソン監督:あっ、それはありがとう!(笑) ひと昔前のレトロで、ちょっとダサい仕上がりを狙いました。ロケハンや楽曲にもこだわってね。告白すると、僕はずっとMTVの監督を夢見ていて(笑)。ぜひ、その場面にも注目して下さい。

(取材・文:山崎圭司)

 映画『LAMB/ラム』は公開中。

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