<ロッキー・バルボアを愛した人々>エイドリアン、アポロ、ポーリー…そしてファン

映画『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006)より

 写真提供:AFLO

 『ロッキー』シリーズはボクシング映画ではない。人間ドラマである。――シルヴェスター・スタローン自身がそう言っているのだから間違いない。確かにエモーションがダダ漏れするボクシングの試合シーン、テンションが爆上がりするトレーニングシーンは素晴らしい。素晴らしすぎる。しかしそれらのシーンは、濃厚な人間ドラマがあってこそ。本稿では『ロッキー』シリーズの人間ドラマを盛り上げたキャラクターたちの中でも、ロッキー・バルボアを愛した人々を取り上げたい。(※『ロッキー』及び『クリード』シリーズのネタバレを含みます。ご了承の上、お読みください。)

■エイドリアン・ペニーノ(アドリアナ・“エイドリアン”・バルボア)…ロッキーが生涯をかけて愛したただ一人の女性


 牛乳瓶の底のような眼鏡をかけてペットショップで働き、兄のポーリーと暮らす超シャイな女性だったが、感謝祭の夜にロッキーにデートに連れ出され、そのまま結ばれることになる。『ロッキー2』の動物園デートで虎の前でプロポーズされて結婚。当初は「私に飽きないで…」と弱気なことを言っていたが、以降はロッキーの精神的支柱となり、ロッキーの決断の際には常にエイドリアンの存在があった。『ロッキー3』ではスラムで共に寝泊まりし、『ロッキー4/炎の友情』ではソ連まで追いかけて心身両面でロッキーを支援した。しかし2001年秋に卵巣癌が発見され、2002年1月に病没。享年51歳。『ロッキー・ザ・ファイナル』ではロッキーは“エイドリアンズ”という名前のレストランを経営している。

 キャリー・スノッドグレスやスーザン・サランドンなどの有力女優が候補に挙がる中、オーディションでエイドリアン役を射止めたのはタリア・シャイア。フランシス・F・コッポラ監督の妹で『ゴッドファーザー PART II』でアカデミー助演女優賞にノミネートされている実力派。『ロッキー』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

■アポロ・クリード…ロッキー終生のライバルにして最高の友人

 無敵のヘビー級王者として君臨し、対戦相手の怪我によって試合がキャンセルされてしまうが、試合中止による契約不履行を回避するために無名の選手にチャンスを与えることにしたアポロは、“イタリアの種馬”というリングネームを持つロッキーを偶然見付ける。優秀な興行師でもあるアポロは、“アポロ・クリード対イタリアの種馬”という怪獣映画のようなタイトルを気に入り、それだけの理由でロッキーとの運命の試合を決めてしまう。生来のエンターテイナーであり、会見でのトラッシュトークを得意とする。15ラウンドの激戦の末に薄氷を踏む判定勝利を収め、ロッキーに「リターンマッチは無しだ」と言ったが、直後に「もう一度戦え!」と気を吐く負けず嫌い。再戦ではまたも15ラウンドを戦ってKO負けし、ボクシングを引退することで観客の尊敬を取り戻した。

 『ロッキー3』では新鋭クラバー・ラングに敗れたロッキーのハングリー精神の欠如を指摘し、「トラの眼を取り戻せ」とトレーナー役を買って出る(海で抱き合って大はしゃぎするアポロとロッキーの姿は最高!)。『ロッキー4』では再びスポットライトを浴びるためにジェームス・ブラウンをバックにリングに上がるも、ソ連製最凶ボクシングマシーンのイワン・ドラゴに殴り殺されてしまった。享年43歳。『ロッキー』シリーズの正統後継映画である『クリード』シリーズは、アポロの息子アドニスを主人公にした物語となり、ある意味でアポロの夢の続きを描く作品となっている。

 演じたのはカール・ウェザース。『ロッキー』のオーディションでスタローンに対してビッグマウスを叩き、そこが気に入られてアポロ役をゲットした。アポロ役はモハメド・アリ、シュガー・レイ・レナード、ジョー・ルイス、ジャック・ジョンソンといった黒人チャンプたちの性格やエピソードをミックスして組み立てられている。ウェザースはキャリア的には中小規模の作品への出演が多かったが、近年では『マンダロリアン』に出演して存在感を見せている。

■ミッキー・ゴールドミル…ロッキーの恩師


 マイティ・ミックのボクシングジムのオーナートレーナーで、ロッキーのポテンシャルを引き出した人物。ガラガラ声と偏屈極まりない尊大な性格の持ち主だが、ロッキーを厳しく叱咤しながら家族のような存在となっていく(エイドリアンが出産時に意識不明になった時は最後まで付き添った)。1905年生まれで自身も戦前~戦後にかけてボクサーであったミッキーは、ロッキーに僥倖が訪れたときにマネージャー兼トレーナー役を申し入れ、すったもんだの末に合意。以降はロッキーを守ることを第一とする経験豊かなトレーナーとして常にロッキーに寄り添っていた。しかし後に、ミッキーが王座戦の対戦相手を選り好んでいたことを知ったロッキーを苦悩させることになる。心臓に病をかかえており、『ロッキー3』のサンダー・リップス戦で体調を崩し、最初のクラバー戦前にクラバーに押されて発作を起こしてそのまま帰らぬ人となった。享年76歳。

 ミッキーを演じたのはベテランのバージェス・メレディス。テレビドラマ『バットマン』のペンギン役で知られた俳優。ハリウッドの赤狩りでブラックリストに載っていた時期もあったが、『イナゴの日』と『ロッキー』でアカデミー助演男優賞に2年連続でノミネートされて復権した。

 ミッキーの元ネタは、5人の世界王者を生み出したユダヤ人トレーナーのチャーリー・ゴールドマンと、イタリア系トレーナーのカス・ダマト。

■トニー・“デューク”・エヴァース…いつもリングサイドで汗だくでアドバイスを送る名トレーナー

 アポロのマネージャー兼トレーナーとして、対戦検討時点からサウスポーのロッキーを警戒するなど、常にアポロを心配していた。再戦には断固反対の立場を貫き、ロッキーの驚異的な打たれ強さと闘志に警鐘を鳴らしている。アポロ引退後は地元ロサンゼルスのスラムでタッチ・ジムを再開し、トラの眼を持つ原石たちをトレーニングしていた。アポロに頼まれてロッキーにハードトレーニングを課し、クラバーへのリベンジを成功させる大きな原動力となった。『ロッキー4』でアポロがドラゴに殺されてからはロッキーのトレーナーとして共にソ連に渡り、ポーリーと共にロッキーのセコンドに付いてドラゴ撃破を成し遂げた。そして引退したロッキーが現ヘビー級王者メイソン・ディクソンと対戦する際は、当たり前のようにロッキーのトレーナーを引き受け、勝機は“メガトンパンチ”にありとして、ロッキーを鍛えなおした。なお『クリード』シリーズにはトニーの息子トニー・“リトル・デューク”・エヴァースJr.が登場している。

 “デューク”を演じたのはトニー・バートン。アマチュアボクシングのミシガン州王者であり、アメフトの選手としても最優秀選手に選出される活躍を見せた(ついでに野球でも才能を発揮していたという)。その後道を踏み外して強盗の罪で3年間服役した際に更生プログラムで演技出会い、出所後は俳優の道を歩んでいる。またチェスプレイヤーとしても有名で、『シャイニング』の現場でスタンリー・キューブリック監督とチェスをして撮影を忘れさせるほどのめり込ませた逸話を持つ。

■トニー・ガッツォ…冴えない前座ボクサーのロッキーを気に入り、何かにつけて面倒を見ていた人物

 ガッツォはフィラデルフィアの高利貸し(ローン・シャーク)で、暴力を伴う取立人としてロッキーを雇っていた。ガッツォは底辺時代のロッキーに敬意をもって接していた数少ない一人であり、ロッキーのよき理解者でもあった。ロッキーの結婚式にも出席している。

 ガッツォを演じたのは悪役俳優ジョー・スピネル。友人であるスタローンが自身の企画『ロッキー』でブレイクしたのを真似て『マニアック』を製作。興行的には『ロッキー』のようにはいかなかったが、タイトル通りマニアに高い評価を受ける作品として今なお人気を集める。

■ポーリー・ペニーノ…ロッキー・サーガの裏主人公


 エイドリアンの兄であり、ロッキーの親友。ロッキーとエイドリアンが結婚した後は、ロッキーの義兄となり、本物の家族となる。ポーリーは恐ろしく自己中心的であり、自身の境遇に対して非常に強い不満を持ち、アルコール依存の傾向があり、激高しやすくケンカに弱いという、絵に描いたようなダメ人間。誰かの幸せや成功が妬ましくて仕方がなく、強烈な自己憐憫の感情を常に抱えて、周囲の皆は自分に借りがあると思い込んでいる。しかし「殴らないでくれよぉ…」「仕事をくれよぉ…」「生まれ変われたらお前のようになりたい…」とポーリーが本音を吐露する瞬間、観客の多くは心の底をえぐられるような感覚を受けるはずだ。このシリーズにおけるポーリーは成功したロッキーの合わせ鏡的存在であり、ロッキーはそれを知っているからこそポーリーを最後まで傍らに置き、決してポーリーを見放すことは無かった。ポーリーもまた、ロッキーを侮辱する者が現れると100倍の罵声を浴びせ、決戦に向かうロッキーには奮起させるエールを送るのだった。『ロッキー4』ではロボットのSicoという良き理解者を得ていたが、しばらくすると無かったことに。生涯をロッキーと共に過ごし、2012年2月22日死去。

 ポーリーを演じたのは、もちろんバート・ヤング。大量のフィルモグラフィを誇り、後期サム・ペンキパー映画の常連でもあったヤングは、17戦全勝のプロボクサーでもあった。『ロッキー』でミッキー役のバージェス・メレディスと共にアカデミー助演男優賞にノミネートされている。

■我々『ロッキー』サーガのファン

 1976年、わずか110万ドルで制作された『ロッキー』に世界は熱狂し、世界で2億ドル以上を稼ぎ出すメガヒットを記録した。当時誰も知らなかったシルヴェスター・スタローンという映画人は、この一作で世界的な知名度を博した。何より世界中にロッキーというキャラクターのファンが大量に生まれ、劇中に登場するフィラデルフィアのフィラデルフィア美術館正面玄関の階段(通称ロッキー・ステップ)では、多くのファンが階段を駆け上がってガッツポーズをとるようになっていた。

 『ロッキー2』(1979)、『ロッキー3』(1982)、『ロッキー4/炎の友情』(1985)という続編が登場し、批評的には徐々に評価を落としていったが、興行収入は右肩上がり。ファンはロッキーの活躍に一喜一憂し、常にロッキーに寄り添ってきた。しかし1990年、スタローンがシリーズの大団円を狙って制作した『ロッキー5/最後のドラマ』は、批評的にも興行的にも大惨事となった作品で、これまでついてきたロッキーファンもさすがに首を傾げる作品となってしまった(公開から30年経った今観ると、実はすごく良い映画である)。

 それから16年後の2006年、突如『ロッキー・ザ・ファイナル』が公開。誰もが「今さらロッキー?」と懐疑的になっていたが、批評的にも興行的にも大成功。感動的な結末を迎えた『ザ・ファイナル』のエンドロールは、ロッキー・ステップを駆け上がるロッキーファンの映像で終わる。あの場に行ったことがあるファンも無いファンも、皆の心は常にロッキーと共にある。スタローンはそれが分かっているのだ。そしてコロナ禍のステイホーム時にスタローン自身が再構築した『ロッキー vs ドラゴ:ROCKY IV』は、『ロッキー4』でスタローンがファンにとって意味のないと思えるシーンを削除し、ファンがよりキャラクター心理を理解するシーンだけを追加した激熱バージョン。是非楽しみにしていてほしい。(文・高橋ターヤン)

 映画『ロッキー vs ドラゴ:ROCKY IV』は、8月19日より公開。

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