【大島幸久の伝統芸能】染五郎が錦絵ばり光源氏 “いっくん”「染・高麗!」と声を掛けたい

「源氏物語」の坂東玉三郎(右)と市川染五郎(C)松竹

◆歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」(26日千秋楽)

 市川染五郎が夜の部「源氏物語・六条御息所の巻」で初役の光源氏に挑んでいる。“光の君”といえば11代目から当代まで市川團十郎の当たり役だ。高麗屋から誕生したとは、ちょっと驚いている。

 染五郎は「人間離れした美しさを持つ人物」と語っている。美形の二枚目立役が少ない現在、まだ10代の若手にすれば大抜擢(てき)だ。それも六条御息所(みやすどころ)を演じる坂東玉三郎が監修。次々と将来を担う若手・花形と組み、胸を貸す玉三郎には先月の秀山祭「妹背山婦女庭訓」の久我之助の指導を受けたばかり。期待の大きさが知れる。

 ここで突然、横道に入る。

 初舞台から15年、襲名から6年。来年、二十歳になる愛称・“いっくん(本名・齋=いつき)”。好物は唐揚げ、煮込み、もも肉など、母親得意の鳥の手料理。健康的でいいねえ。

 さて、出番は3回。第2場・六条御息所邸から登場した。花道に出て「御息所!」と、出迎える玉三郎への第一声。黒の烏帽子(えぼし)、純白の衣装。むちゃくちゃ美しい貴公子だ。

 続いて、「ああ、庭の桜が散り始めたか」。ゆったりとしたセリフで遠くを見やる顔付きに“雅(みやび)”の雰囲気が出た。玉三郎の手を引き、連れ舞になる。扇一つで寄り添い、舞う美男美女は錦絵か。

 男子を出産した正室葵の元へ戻る疾走感。思わず「染・高麗!」と声を掛けたい“いっくん”だった。(演劇ジャーナリスト)

ジャンルで探す