CENT(セントチヒロ・チッチ)「キラキラした恋を書くのが苦手、ヘンテコが合ってる」

2023年6月に解散した“楽器を持たないパンクバンド”BiSHの元メンバー、セントチヒロ・チッチ。ソロプロジェクト・CENTとして歌手活動を行うほか、加藤千尋として本格俳優デビューも果たし、活動の幅を広げている。

そんなチッチが、11月3日(日・祝)と4日(月)に横浜BUNTAIで開催される『YOKOHAMA UNITE音楽祭 2024』の初日、11月3日(日・祝)に出演する。ニュースクランチでは、音楽祭に向けた意気込みや、新曲『堂々らぶそんぐ』にまつわるエピソードのほか、パーソナルな部分にも迫った。

▲セントチヒロ・チッチ【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

BiSHのなかでも一番自信がないタイプだった

1962年に横浜開港100周年祭の記念事業として開業して以来、音楽やスポーツ、プロレスの聖地として親しまれてきたのが旧横浜文化体育館。今年4月に「横浜BUNTAI」として生まれ変わり、横浜の新しい文化発信地として注目を集めている。そんな横浜BUNTAIで初めて開催される音楽祭に参加するチッチは「すごく楽しみです!」と心境を語る。

「“劇場型アリーナ”で、お客さんと近い距離でライブができるって考えるとワクワクします。横浜には、ライブを見るのでよく行きますし、初めて出演した舞台『雷に7回撃たれても』の稽古で1か月ほど通ったこともあるんです。

そんな思い入れのある横浜を盛り上げるイベントに参加できることが光栄です。横浜BUNTAIの外階段には、これまでの歴史が書かれているのですが、これから10年、20年と積み重なっていく歴史に私も加われることがうれしいです」

BiSH時代はもちろん、CENTとしての活動をスタートしてからも、数々のライブに出演してきた。「フェスは出会いの場であり、戦いの場でもある」といい、ワンマンライブやツアーとは心持ちが少し異なると話す。

「ワンマンライブは、そのバンドやそのアーテイストが好きな人が集まっているから、安心感があるなかで、どれだけ自分のメッセージを伝えられるか。一方、フェスは、自分以外のファンもいるから緊張感はありつつも、新しいお客さんに出会える大事な場所です。

自分のことを人と比べても仕方ないから、比べるよりも、どれだけ自分がそのフェスで全力を出せたか、を大事にしたい。フェスごとに、どんな自分でいたいか、いつも向き合っています」

ベストを尽くそうと奮闘する一方で、じつは緊張しいで自信がないタイプだと話してくれた。そんな彼女は、フェスに向けて「不安を潰していく」ことでベストな状態に自分を仕上げていく。

「ライブではどうしても緊張しちゃうので、とにかく全力で自分が一番楽しむことを目標にしてます。やっぱり自分が楽しめたライブって、お客さんにも伝わって“楽しかった!”と思ってもらえることが多い。

BiSHが解散して1年ほど経ちますが、不安なことはいっぱいあるので、リストアップして潰していきます。なので、ライブ前はずっと考え事をしています。BiSHではリーダーみたいな役割をしていましたが、じつは一番自信がないタイプなんです…(笑)。

ステージ上でも、冷や汗が出たり、震えたりすることもあるし、お客さんの反応を真に受けちゃうタイプ。ステージ上から“この人、全然こっち見ないな”と感じたら、その人に対してものすごいアピールしちゃうんです(笑)」

ライブに向けて気持ちを作っていくチッチだが、スイッチがオンに明確に切り替わる瞬間というのはないのだそう。

「昔からスイッチとか、あんまりわかんなくて。グループのときは円陣をしていましたけど、今はとりあえず“イエーイ(小さめに両手でグータッチをするチッチ)”で出ていきます。

アドレナリンが出て“疲れたねー”とか“楽しかったねー”とか言っていることもあるけど、けっこう素のままで、テンションは変わらないんです。あるべきだと思うんですけどね、スイッチ……今も探してます(笑)」

音楽祭で初公開となる曲は聴けるのだろうか? そう尋ねると「どうかな、どうかな…?」と、にやりと目を細めながら答えてくれた。

「今ちょうど新曲を作って発表している時期なので、11月までに良い曲ができるように頑張っています! 新しい曲も絶賛レコーディング中です。別のワンマンライブも控えてるので、もっと曲を増やしたいなと思ってます」

やりたいことは自分で舵を取ることが多いです

8月に配信され、9月にMVが公開されたCENT1年ぶりの新曲『堂々らぶそんぐ』。人間味が詰まったロックなチューンで構成された1stアルバム『PER→CENT→AGE』から一転、ポップさ全開のラブソングを作ったのは、「いろんな恋をCENTらしく応援したい」という気持ちからだったそう。

「今年の夏はすごく暑くて、”とにかくストレートなラブソングをやってみたい!”って気持ちになったんです。『PER→CENT→AGE』を作り終えて、やっと曲を作れる時間ができて。自分が今聴きたい、ピースフルでポップでストレートなラブソングを作りました。恋愛だけじゃなくて、みんないろんなことに恋してると思うので、そういう気持ちを応援したいなって」

奇想天外な展開に向かうMVにも、チッチのこだわりが詰まっている。

「恋って、ヘンテコだと思っているんですよ。最初は美しく純愛なものに見えているんだけど、どんどんのめり込んでいって、自我が出ちゃったり、わがままになったり。MVでは綺麗な恋が描かれることが多いと思うけど、それはあんまり自分らしくないなって。ちょっとずつおかしな方向に行ってしまう、そんな恋愛を描きました。結局、恋愛と関係ない結果に終わるんですけど、それが面白いと思っています。

当たり前って、当たり前じゃないから、そこに焦点を当てたい。私はキラキラした恋を書くのが苦手だから、ちょっとヘンテコなほうが合ってるんです。監督がすごくステキなMV案を作ってくれたので、“最高!”って」

撮影は「まさかの5時間押し!」だったそうだが、ドラマ仕立てのMVに楽しんでチャレンジしたという。

「撮影時、大雨だったんですよ。なので、時間をかけて撮ってもらいました。ソロになって初めてストーリーのあるMVの撮影で、すごく楽しかったし、同僚役の方たちも楽しんでくれていました。ちなみに、あの腕は手作りのサイボーグ腕なので、そこにもご注目です!」

 

アーティスト名であり、ユニット名でもある「CENT」。その舵取りは、チッチ自身でしている。

「納得いかないことに囚われてしまうタイプなので、グループで活動している頃から、決断することが多かったし、やりたいことは自分で舵を取ることが多いです。だから、委ねることに慣れていなくて……。でも、委ねることも覚えたいんです。

それは、“こうしたい”と思ったときに相談したり、頼ったりできる人が周りにいるからです。『CENT』という同じ船に乗ってもらっている人はたくさんいて、助けられて生きています」

BiSH解散から1年で思うこと

BiSHが解散して以来、ソロ音楽活動に加え、俳優業や声優業など、活動の幅を広げてきている。台本を覚えたり、曲を作ったりと普段から忙しくしているのだろう……と心配の声をかけると、「いや! 追い込むのは嫌いなので(笑)」と即答。オフでは自分の気持ちのままに過ごすことで英気を養い、創作や表現に活かす。

「オフの第一優先は、自分のやりたいことをやるって決めています。好きな物を食べて、溜まっているドラマや気になっている映画を見て、ゲームして……。それから友達も好きだから、友達と会うことも大事にしています。自分の人生をちゃんと楽しもうと思って生きることで、湧き出るインスピレーションがあると思うんです」 

ソロ活動を開始してから「自分の好きな表現ができるようになってきた」と話すなかでも、素でいられるのは「CENTでいるとき」と語る。

「どの自分も同じ1人の人間なんですけど、加藤千尋でいるときは、自分と違う人の人生を重ねて生きていくので、自分の知らない自分に出会えます。音楽やバラエティーで、自分のパーソナルが出るのとはまた別の表現をしている感覚があります。

一方で、音楽をしているときは、そのままの姿でいる。表現をしているんだけど、ありのまま。BiSHにいた頃は、”BiSHのセントチヒロ・チッチ”という感覚だったので、発する言葉は自然体だけど、自分でも気づかないうちにまとった鎧があって、今ほどユルッとできていなかった。どれも私で、その時々で違った楽しさがありますけど、一番素でいられるのは、CENTでいるときかもしれない」

そんなチッチのモットーは、アニメ『かいけつゾロリ』のタイトルにも含まれる「まじめにふまじめ」。インタビュー中も終始柔らかい空気を放ちながら、にこやかに話してくれたが、核にあるしなやかなマインドは、さまざまな経験を経て身に付けてきたものだ。

「不真面目になる時間も大事にするからこそ生まれる、自分の芯があると思います。たぶん私は、真面目に生きすぎると、すごく凝り固まった人間になると思うんです。実際そういう時期もあったし、それってすごく追い詰められるし、人を追い詰めることもある。

選択肢として残しておいた逃げ道に回ることで、人生が良くなったりすることに、ここ10年ぐらいで気づいたから、“無理をしすぎずに逃げ道を見つけること”をすごく大事にしています。

人に対しても同じで“なんでできないんだ!”じゃなくて、その人なりにできない理由があると思うから、一緒に逃げ道を探そうって。無理なら1回やめようって。そういうことを大事にしてきました。自分に優しく、人にも優しくしていきたいです」

(取材:吉田 真琴​)


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