コンビ歴25年。麒麟“じゃないほう”だった川島明を支えてくれた大喜利

『M-1グランプリ』決勝進出5回という漫才師としての確かな実歴に加え、MC・トーク・大喜利など、芸人としての全ての力を兼ね備える令和のオールラウンダー、麒麟・川島明。「麒麟」というコンビにフォーカスを当てながら、川島の土壇場だった頃について聞いた。

▲俺のクランチ 第65回-川島明-

炎上の匂いがしたらちょっと砂糖をまぶします

どんな仕事もそつなくこなすように見える川島。MC仕事で緊張することはないのだろうか?

「今はないですね。これまで、特番のMCなんかでは“ゲストが不愉快にならないように”とか、“さんまさんとか島田紳助さんのいいところはこうで……”とか、いろいろ考えながらやってたんです。でも、毎日となると、そんなん無理で。『ラヴィット!』が始まってから他の人のMCを見てたら、皆そんなことを考えずに勝手に色が出てるってことに気づいたんです。

内村(光良)さんは居るだけで空間を和やかにしてるし、加藤(浩次)さんは自分でドリブルしていくスタイル。今田(耕司)さんはその両方のバランスで……とか、もちろん皆さん努力はされてるけど、たぶん“こうなろう”と思ってなったんじゃなくて、“人間そのもの”で仕切ってはんねんなって。それに気づけた今は緊張せずにできてます」

そんな川島のドンと構えた自然体が周囲にも安心感を与えているのだろう、『ラヴィット!』では自由奔放な出演者の言動も見どころの一つとなっている。しかし、SNSが普及した昨今、些細なことでもネット炎上につながりやすい。炎上を回避するための、MCとしての立ち回り方を教えてくれた。

「生放送っていうのもあって、話題狙いでガンガンくる人もいますからね。(相席スタート)山添くんとか、(さらば青春の光)森田くんとか(笑)。それを本気で受け取っちゃう人もたまにいるから、“これなんかちょっと危ないぞ”って感じたときは、そういう人もいるけどね、個人の感想ね、とか。ちょっと砂糖まぶすような感じのひと言を、ボソッと言うようにはしてるかな。

明らかに行き過ぎてると感じたときは、先に僕が怒ったフリをして、周りが“もうコイツのこと許してやってください”って雰囲気になるようにしてますね」

▲MCとしての立ち回り術を教えてくれた

フォローにまわる機会も多い川島、当の本人は炎上とは無縁のイメージがある。そのバランス感覚はどのようにして磨かれていったのだろうか。

「う〜ん……自分ですごく意識して気をつけたりとかはないです。確かにあんまり(自分の炎上は)ないですけど、それはたぶん、基本的に芸能ニュースとかに全く興味ないタイプやから、いらんこと言わないってだけかもですね(笑)。

SNSもほぼ告知しかしてないし。今、X(旧Twitter)でいらんこと言うて変なことになる人が多いから、そんな真剣にやらんでもええのにな、とは思っちゃうんですよね」

楽しかった6年ぶりのトークライブ

個人での活動が多いなか、昨年9月に、6年ぶりとなる麒麟トークライブ『ふたりっきりん』を開催。このライブにファンは驚きと喜びに満たされ、大きな話題となった。

「そもそも、コンビでトークライブをやることに対して、周りがめちゃくちゃビックリしてることにビックリしたんですよ。6年間、二人でトークっていうことがあんまりなかったからなんやろうけど、“コンビでライブやるんですか!?”って言われても、当たり前やろって(笑)」

以降、半年に一回のペースで開催され、今年の9月28日には第3回目が開催される。川島にとって、数ある仕事のなかで“続けていきたい仕事”だと思えたのだろうか。

「そうですね。ちょっと田村を養っていかないと……っていうのは冗談ですけど。テレビで僕のことを知ってくれている人のなかには、なんで僕が『“麒麟の”川島です』って言ってるのか知らん子どももいますし、“相方の田村もおもろいな”と思ってもらえたら一番うれしいんです。

それと、若い頃は単独ライブでもDVDになるようなネタばっかりやってて、それはそれでよかったんですけど、今はちょっと一息入れたようなライブなんですよね。それを、お客さんもゆったり聞いてくれる空間だったのがうれしくて、ついエンディングで“定期的にやる?”って一言漏れました。

せっかくやったのに、また6年空くのはイヤやなと思って。半年に1回っていうペースは、田村がそれくらいのペースでやりたいと言ったからです。二人とも単純に楽しかったんでしょうね」

結成当初から麒麟のネタを書いている川島。『ふたりっきりん』をはじめ、どんな仕事も手を抜かないという彼のスタイルが、ファンの満足度にもつながっているのだろう。本ライブはどのくらい準備をして挑んだのだろうか?

「田村はゼロですね。初回ですら“嘘やろ!? コイツ、なんのトークも用意してきてないやん”と思いました。漫才も、あいつが大阪に住んでるというのもあって、当日しか合わせてないんですよ。2~3日くらい前に僕がメールでネタを送りました。

そもそも、このトークライブって田村が“コンビでやりたい”と言って始まったのに、結局、僕が会場を押さえて、お客さんの声を取り入れながら開演時間も考えて、せっかくやしサプライズで新ネタも1本入れて漫才師ってことを伝えたいなとか……構成も全部決めてるんですよ? あいつは出囃子だけ“これがいい”って要望出してきたんですけど、配信あるからそれも使えへんねん(笑)。

でも、昔からそういうバランスのコンビなんで、別に“あいつなんもやらへん”とかいうことでもないんですよ。僕がやりたがりっていうところもあるんでね」

麒麟は他のコンビと違って特殊な関係

個々での活躍のイメージが定着している今、改めて麒麟のバランス感に着目したい。我々は今、このコンビの関係性をどう捉えるのが正解なのだろうか。

「うちのコンビって、他のコンビと違って特殊な関係やと思うんです。トークライブの出だしが“最近……どうですか?”って、どんなコンビやねんっていう(笑)。でも、そこから徐々に友達に戻っていく感じが僕はおもろいなと思ってるんで、今回もそれでいいんじゃないかなと。なんやったら、そのために楽屋も別にしてますし。だから、その辺の違和感をお客さんにも楽しんでほしいですね。

ライブ終わりに、ちょっとした感想を喋ったりするんですけど、それも久々で楽しいんですよ。でも、半年でまた関係性も戻るんです。なので次も、田村が僕に対して敬語になるところから始まります(笑)。それと今は、年齢が年齢なんでお互い妬みもなんもないので、この感じもいいのかなと」

▲呼吸が合わないと言いつつも相方・田村への愛は深い

コンビ歴25年にも関わらず違和感を楽しんでもらいたいというのは、まさに特殊な関係性だ。相方以外とタッグを組んで仕事をすることも多い川島だが、田村との相性についてはどう考えているのか。

「いやぁ〜、呼吸は合わないんじゃないですかねぇ? 僕は辛気臭い男で、アイツはクラスのど真ん中にいるタイプの太陽みたいに明るい男ですから。このトークライブでも、僕の場合は仕事の関係者が見に来てくれてたんですけど、かたや田村は自分の英語の先生を呼んでたんですよ、楽屋に『ハロ〜』って。いやプライベート過ぎるやろ、マジで友達呼んでるやんって(笑)。

でも、コンビ組んだときから、その真逆さがいいのかなと思っていて。そもそも、やりやすい・やりにくいとかではない状態からスタートしてるんです。僕は田村としかコンビを組んだことがないから。家族と一緒におって“うちのおかん、ええわ〜”とか“おとん、やりにくいわ〜”とかって考えながら過ごすわけじゃない。それに似た次元なのかもしれないです」

今は夢が叶ってる途中という感じ

今年7月に発売された、田村の著書『ホームレス中学生』(小社刊)の新装版に、川島は帯文を寄稿した。「タダでやってますからねぇ」と笑いながら話すが、この本が大ヒットした17年前が、川島にとって一番しんどかった時期だと振り返る。“じゃないほう芸人”として扱われた土壇場から、いかにして抜け出したのだろうか。

「あの当時は、『フットンダ』『ゴッドタン』『アメトーーク!』が呼んでくれて、それが本当に助けになってました。特に『フットンダ』には支えてもらいましたね。僕にまだ大喜利のイメージがない時期だったのに、麒麟で出たときの1回を見て定期的に呼んでくれるようになって。

そこから準レギュラーにしてくれて、すごく愛を感じました。タカアンドトシさんが、いろんなところで“あいつ、大喜利おもろいぞ”と言ってくれたのがデカかったですね」

▲土壇場を救ってくれたのはタカトシさん

多岐にわたり活躍する川島は、どのジャンルの現場であろうとも言葉の節々から知識量の多さが窺える。

「知ってることを大きい声で言ってるだけなんで、知識量はどうなんやろな?って感じなんですよ。例えば、僕人生で1回も『ハリー・ポッター』を見たことないんですけど、6回ぐらい読み直してる『こち亀』のことはめっちゃ喋ってる。そうすると、なんとなくのイメージで“アイツはたぶん、ハリー・ポッターも見てるやろ”みたいになるんですよ(笑)」

そうは言うものの、芸歴問わず面白いと思う芸人の活動は欠かさずチェックし、お笑い賞レースに関しては予選から見る徹底ぶり。『川島・山内のマンガ沼』では毎週のようにオススメ漫画を紹介し、『サンデーPUSHスポーツ』ではスポーツの話題に触れ、休日は番組で紹介された飲食店に自ら足を運ぶこともしばしば。つい“川島の努力”を探ろうと、情報収集のコツを尋ねてみた。

「好きなことは仕事にしつつ、知らんことまで手をつけて仕事しないようにしてますね。何か調べるにしても、“好き”から突破口を考えてるんです。知らないジャンルがあったら、まずは1組だけ推しを作るようにしてて。

例えば、僕は韓国アイドルに詳しくないんやけど、(G)I-DLEっていうグループの1曲だけ、たまたまめっちゃ好きやったんですよ。だから、その子たちをYouTubeで見るようにしてたら、韓国アイドルの内情とかが自然と見えてきたり。野球も、巨人が好きになって毎日楽しく追ってたら、自ずと対戦相手のこともわかるようになってきて。

“別に勉強したくないけどな”って思いながら頭に入れても、その仕事が終わったら忘れちゃうと思うし、やっぱり好きなことしか頭に残らないんで。だから、いきなり教科書を読むんじゃなくて、“これめっちゃ好きやな”から、ぼんやり周りが光っていく感じの勉強なのかな」

『そもそもの話』(2024年4月・銀シャリ橋本ゲスト回)では、橋本から今後のキャリアプランについて問われた際「考えたことがない」と言い切っていたのも印象的だった。最後に、今もその気持ちに変わりないのかを問う。

「いやぁ、ないねんなぁ。本当にありがたい話、仕事で“こんなんやりたいな”と思ったら、そういうオファーをいただけることが多いんです。夢が叶ってる途中という感じだから、その質問には“ない”って答えになっちゃうんですよね。

やる気がないってことじゃなくて、幸せですという意味合いの“ない”です。忙しくて倒れるんちゃうかって心配の声をかけてもらうことも多いんですけど、心のしんどさみたいなものは本当に全くないんですよ。今、本当にすごくバランスが良くて、どの仕事も楽しいんです」

「知之者不如好之者、好之者不如樂之者」という孔子の言葉がある。“楽しむ者には勝てない”という意味だ。努力を努力と思わず楽しんでいる川島は、まさに無敵状態。これからも、“楽しむ川島”に、我々も楽しませてもらえることだろう。

(取材:佐々木 笑)


 

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