限られた予算でテンコ盛り! 飛行機事故からサメ登場『エア・ロック 海底緊急避難所』
7月に開催された第一回東京国際サメ映画祭で、審査員賞を受賞したクラウディオ・ファエ監督『エア・ロック 海底緊急避難所』が8月16日に公開される。
それにしてもサメ映画祭、映画ライターとしてさまざまな映画祭を見てきたが、この類は知らなかった。ほかにもあるか調べたら、ありました! パリ・シャーク・ウィーク。そちらと、今回の映画ご紹介に、関連ジャンルの良作も選んでみた。
日本勢が大活躍と言えるサメ映画祭
世界初のサメ国際映画祭と紹介する人もいるパリ・シャーク・ウィークだが、定かではない。2022年、2023年のプログラムがあるので、少なくとも3回目以上となる今年9月開催では、夏目大一朗監督『ラブ・シャーク 心霊調査ビッグサマー』も上映されるらしい。
夏目監督といえば『ラストシャーク』が、東京国際サメ映画祭で上映されている。今回の『エア・ロック 海底緊急避難所』は同映画祭の開幕映画で、閉幕映画は井上森人監督『温泉シャーク』だった。
パリ、東京とも10本前後上映される規模の映画祭なので、日本勢大活躍と言えるサメ映画祭界だ。
『エア・ロック 海底緊急避難所』
飛行機が墜落し海底に沈没、あいた穴から海水が入るも、斜めになった機内の端にできた空気だまりに生存者は固まる。だが、穴からは海水だけでなく、サメも入り込んでくる……。
心霊とサメ、温泉にサメなど、サメをどこに出すか、何と組み合わせるかが勝負らしいサメ映画祭界で、飛行機内にサメという夢のような状況を作り出したのが、まず高ポイントだ。
「機内の死体を食っている!」。恐ろしい状況が繰り広げられているらしい。えぐい映像を浮かべて引き気味の方、ご安心を。そのシーンは映らず、台詞のみだ。
だが、勇敢なる主人公エヴァが、サバイバル用に機内から物を探そうと、海水に顔をつけたり、泳いだりするときは、いつもクリアで視界良好、血で海水が濁ったり、肉片が漂うこともない。こぼさず、残さず、綺麗に食べるマナーの良いサメだ。
そういった予算的制限は最初から感じられる。通常は多くの人でざわついている空港や機内が、妙にスカスカだ。「人が少ないわね」と言うエヴァに「朝早いからだよ」と連れが応える、見る人への言い訳としか思えないシーンなど涙ぐましい。
潤沢な予算ではなさそうだ、と早々にわかってしまう映画ながら、飛行機事故にサメとパニック映画を二重に組み合わせたばかりか、限られた空間で薄くなっていく空気に、飛行機のボディが水圧に耐えられるかという潜水艦パニックの三重だ。
絶体絶命の危機を主人公たちはどうやって切り抜けるのか? 勇気と助け合いとラッキーだ。もちろん、そこまでラッキーではない人もいて、ちゃんとサメに食われるが、深い人物描写がないので、さほど悲しくない。
映画制作者のチャレンジを思ったほうが、よりスリリングかもしれない。このテンコ盛りな危機を、限られた予算でどう見せるのか? うまいことかわしていく。危機的状況が作り出されるまでのテンポは良く、目が離せない。そして、危機的状況まで見てしまうと、どうなるのか最後まで見ずにはいられない。全部見てしまった自分が悔しい。
無事に第一回を終えた東京サメ国際映画祭に、第二回があるのかも見守りたい。
おまけ:サメ・飛行機・潜水艦パニックの良作
「こうきたか!」「その手があったか」など言いつつ、サメ映画を愛でる気配のサメ映画祭に水を差すようだが、特にサメ映画を愛でる気もない皆さまのために、この映画の設定であるサメ・飛行機・潜水艦パニック、それぞれの良作もご紹介しておきたい。
サメパニック:『ジョーズ』
言わずと知れたサメ映画の名作。公開から来年でちょうど半世紀になるが、これを超えるサメ映画はまだない、さすがのスティーブン・スピルバーグ監督作。
飛行機パニック:『フライト』
今回の映画は嘘のような嘘の話だが、こちらは半分ほんとうで半分は説得力ある嘘。生存者が無かったアラスカ航空261便墜落事故にインスパイアされているが、映画にはデンゼル・ワシントン演じる機長の神業的な飛行がある。飛行技術だけは天才的なアル中、ドラッグ中毒の機長という設定が良い。
潜水艦パニック:『潜水艦クルクスの生存者たち』
こちらは実際にあったロシア潜水艦クルクス事故の映画化。艦内事故により沈没、薄くなっていく空気と艦にかかる水圧に耐える乗組員たち。彼らの帰りを待つ家族、事故を察知し救助に向かおうとするイギリス海軍、原子力艦であるクルクスの秘密を守ろうとするロシア……。幾重にもスリリングな事故の様子を、マティアス・スーナールツ(乗組員)、レア・セドゥ(家族)、コリン・ファース(英海軍)などオールスターキャストで見せる。
08/17 12:00
WANI BOOKS NewsCrunch