舞台『ブラック・コメディ』でヒロインを演じる市川美織「毎日が刺激的です」

アイドルグループAKB48、NMB48での活動を経て、現在はモデル、タレント、アーティスト、俳優など多岐に渡って活躍する市川美織。この夏、彼女がヒロインを務める舞台『ブラック・コメディ』の上演が決定した。

『ブラック・コメディ』は、英国の著名な劇作家ピーター・シェーファーが生み出した戯曲。室内の電灯が点いている設定のときは舞台上を暗く、停電の設定のときは舞台上を明るくするという明暗が逆転したユニークな手法を用いて、登場人物たちの本音や嘘を表出させるコメディの傑作だ。

今回の上演ではヨーロッパ企画の大歳倫弘が上演台本・演出を手掛け、主人公である無名の彫刻家ブリンズリーを浜中文一が、ブリンズリーの婚約者のキャロル・メルケットを市川が演じる。

ニュースクランチでは今回、市川にインタビューを実施。作品の見どころや稽古中のエピソードなどを語ってもらった。

 

キャロルは明るくてちょっと世間知らずなおバカちゃん

――まず『ブラック・コメディ』の一番の特徴といえば、明暗が逆転した表現手法だと思います。

市川:停電で真っ暗という設定だけど舞台のライトは点いていて、登場人物にいろんな災難が降ってくるのを皆さんに見ていただくコメディ作品になっています。まず、その発想がすごく面白いなと私も思いましたし、演じる側としてそこが一番の課題だなと思っています。

――現在、稽古中だと思いますが、暗闇という設定で演じてみていかがですか?

市川:今はまだ手探りですね。実際に真っ暗にして、マッチを擦ったらどこまで見えるのかというのを、みんなで試したりしながら感覚を掴んでいる段階です。私も自宅で電気を消して、リビングからベッドに移動するのを試しているんですけど、普段と違う場所にティッシュがあってぶつかっちゃったりして、「暗闇で動くってこういうことなんだ」と気づいたり。

――日常でも暗闇で動くシミュレーションをしているんですね。

市川:はい。そこでヒントを得ながら、より面白い作品作りに生かしていけたらと思っています。

――市川さんが演じるキャロルはどのような役柄でしょうか?

市川:キャロルはとてもポジティブで明るくて、でもちょっと世間知らずなおバカちゃん。考え方が純粋で、すべてを真に受けちゃうようなところは、私に似ているなと思いました。キャロルは主人公ブリンズリーの婚約者なので、役作りをするうえで「どういうところに惹かれて好きになったのかな」と考えています。

純粋だからこそ、夢を追って頑張っている人を見ると応援したくなっちゃうのかな、とか。厳格な父親に育てられた箱入り娘が、大人になって初めて一人で出歩くようになり、ブリンズリーに出会って、彫刻という新しい世界に触れて「よくわからないけど、なんかいいかも!」と憧れたのかな、とか(笑)。

 

――そんな純粋なキャロルが暗闇でどんな行動をとるのか、見どころの一つですね。

市川:しかも、そこにクレアという恋敵が登場したり、いろんな住人も出てきて、ぐちゃぐちゃにかき乱されていくんですけど、キャロルならではの素直な反応を楽しんでいただけたら。お客さんから見てもキャロルはわかりやすいと思いますし、感情移入しやすいキャラクターかなと思っています。

浜中文一は“掴めそうで掴めない存在”

――では、共演者の方々の印象や稽古場でのエピソードを聞かせてください。

市川:まず今回のキャストのなかで唯一、過去に共演経験があるのが、キャロルの父のメルケット大佐を演じる渡辺いっけいさん。7年ぶりだし、さすがに覚えてくれていないと思ったんですけど、お会いしたときに「お久しぶりです、覚えていますか?」と聞いたら「もちろんですよ!」と言ってくださって、本当にうれしかったです! いっけいさんと親子役ができるのがありがたいです。

――親子役として稽古をしてみて、いかがですか?

市川:いっけいさんは本当に引き出しが多いです。稽古の序盤から、いろいろ仕掛けてくださるんですよ。急に今までとは全然違う大佐になったりして「そういうアプローチで来るんだ!」といつも驚かされます。学べるところはちゃんと学ぼう、と思いながら共演させてもらっています。

 

――婚約者のブリンズリーを演じる浜中さんの印象は?

市川:ブリンズリーとキャロルは婚約者同士ですし、お芝居のなかでも連係プレーをしなきゃいけないので、普段からコミュニケーションを取るように心掛けています。というのも、最初はお互いぎこちなくて、動きが恋人同士に見えなかったんです。だから、距離を詰めなきゃと思ったんですけど、浜中さんのことをいろいろ調べたら「極度の人見知り」って書かれていて(笑)。

でも、関西人だけあってシュールなボケを挟んできますし、稽古でも面白いことを仕掛けてくるので、不思議な方だなぁという印象です。“掴めそうで掴めない存在”みたいなところは、ブリンズリーそのままですね。

――稽古場では皆さんで仕掛け合っているんですね。

市川:ミス・ファーニヴァル役の朝海ひかるさんも、台本にないのに突然「うるさい!」とか言い出したりして面白いです。ちなみに、偶然タクシー乗り場にいる朝海さんを見つけてご挨拶したら、「一緒に乗ってく?」と言っていただきタクシーを相乗りしたこともあります(笑)。

――キャストの皆さんとの距離もどんどん縮まっている、と。

市川:はい。クレア役の三倉佳奈さんとハロルド・ゴリンジ役のシゲさん(山口森広)と三人でご飯にも行きました! でも、お芝居の話はせず、お二人の子どもの話をずっと聞いていたりと、いろんな方とコミュニケーションを取り、打ち解けていっています。

あと、シゲさんはいつも汗だくなんですよ。稽古でも汗だくだし、なんなら駅から稽古場に歩いてくる段階で汗だく! なので、浜中さんと私でミニ扇風機を使ってシゲさんに風を送っていたら、突然“美容院でドライヤーで髪を乾かしている”みたいなアドリブミニコントが始まったりして(笑)。

――すごく楽しそうな稽古場ですね!

市川:はい、本当に面白いです! 稽古でも、絶対笑っちゃいけないシーンなのに、つい笑っちゃう。そもそも、演出の大歳さんが一番笑っていますから! 本番では笑いを堪えなきゃいけないけど、今は楽しみながら稽古を進めています。

 

「役者をやっているんだな」という充実感がある

――ちなみに、市川さんは7月中旬まで舞台『放課後戦記2024』に出演。『ブラック・コメディ』の稽古をしながら、『放課後戦記2024』の本番に臨んでいた期間もあったそうですね。

市川:ありました。2つの作品が重なることが初めてだったので、とても不安でした。『放課後戦記』は、もう9年もやらせてもらっているので基本的には大丈夫だったんですけど、なかなか『ブラック・コメディ』の脳に切り替えられなくて。

最初は「台本を覚えるのは『放課後戦記』が終わってからでいいかな」と先延ばしにしていたんですよ。でも、本番が終わる前に『ブラック・コメディ』の稽古に入ることになって、「ヤバい! この量すぐに覚えられない」とすごく焦りました。

――そのピンチをどう乗り越えたんですか?

市川:大歳さんが「台本を読みながらでいいので、楽しくやりましょう」と言ってくださったんです。本当に救われました。「稽古場でやったことは全部忘れていいんで、(『放課後戦記』の)本番頑張ってください!」と言われ、それはそれでどうかと思ったんですけど(笑)。

――キャロルを演じるにあたって、大歳さんからはどんな指示がありましたか?

市川:台本のセリフには、昔の言葉や今では使わない言い回しがあって、言いづらい部分もあったんです。そこで大歳さんが「自分の言いやすい言葉に変えてもらって大丈夫です。ニュアンスが違いすぎたり『ここは変えずにいきたい』という部分があればお伝えしますけど、基本は言いやすいように変えて構わないので」と言ってくださいました。おかげで、キャロルが自分の中に馴染んできました。

 

――違和感なくキャロルを演じられるようになったわけですね。

市川:はい。しかも、皆さんがたくさん仕掛けてくるので、自分の動きもどんどん変わっていくんですけど、「私、今役者をやっているんだな」という充実感があって、とてもとても楽しいです。

――まさに演じる楽しさを実感している、と。

市川:『ブラック・コメディ』というステキな作品に出合い、役者の大先輩方と一緒にお芝居ができて、毎日が刺激的です。稽古場の段階ですでに面白いので、ぜひたくさんの方に劇場でこの作品の楽しさを体感してほしいです!

やりたいことをいつまでも続けていけたらいいな

――ところで、市川さんは現在、舞台作品に立て続けに出演しながら、レトロポップユニット・FANCYLABOのメンバーとしてステージにも立っています。多忙でありつつも、毎日が充実しているのではないですか?

市川:自分のやりたいことをたくさんやらせていただけて、とてもありがたいと思っています。AKB48時代と比べたらお仕事の量は減ったかもしれないけど、やりたいことを全部できていますから、毎日が本当に充実しています。今は「悔いのないように生きよう」「自分がやりたいことをとことんやろう」と心掛けています。

 

――では、市川さんが描く今後の展望は?

市川:もちろん、やりたいことはいっぱいあるんですけど、具体的な目標がないことが悩みで。「やりたいことをいつまでも続けていけたらいいな」というのが一番の夢です。例えば、舞台だったら「帝劇(帝国劇場)に立ちたい」、ドラマだったら「朝ドラに出たい」みたいな目標をみんな持っているじゃないですか。もちろん、私も出られたらうれしいけれど、それよりも今こうしてお仕事をいただけていることが本当にうれしいんです。

だから、「自分がやりたいことをずっと続けたい」という方向に夢が変わってきました。ビッグな夢じゃないかもしれないけど、応援してくださる方が1人でもいる限りは続けていきたいですね。

――いやいや、ステキな夢だと思います!

市川:……と言いつつ、FANCYLABOで世界進出したいという夢も持っています!


〈左藤 豊〉

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