『フジロック』第1回から参加している音楽ライターが実感するコロナ後のアップデート

7月26日(金)・27日(土)・28日(日)に新潟・苗場スキー場で開催される『FUJI ROCK FESTIVAL '24』。苗場での開催が25回目という記念すべき同フェスが、時代に合わせてサービスをアップデートさせているという。快適なフェスライフの提供について、1997年の第1回から参加している音楽ライターが徹底的に解剖する。

▲今年の『フジロック』ではどんな奇跡を見られるのだろうか?

SZAがキャンセル…でもキラーズがいる!

今やすっかり日本の夏の風物詩となった『フジロック・フェスティバル』。音楽ファンのみならず、近年ではアウトドア好きのファミリー層にも大人気のリゾートイベントだが、今年は会場を新潟県の苗場に移してから25回目の開催というアニバーサリーイヤーである。

筆者は1997年の第1回から毎年参加している古参だが、この地で見てきた数々の伝説的瞬間を思いながら胸を熱くしている。きっと同じように感じているフジロッカー(フジロック愛好者の総称)は多いだろう。

今年は、初日のヘッドライナーに決定していたグラミー賞3部門受賞のシンガー・SZA(シザ)が、発表後に異例の出演キャンセル。フェスのヘッドライナーというのは名実ともに大きなアーティストが務めるものなので、誰もがSZAに代わる格のアーティストをこれからブッキングできるのか…? と危ぶんでいたが、最終的に海外のフェスで何度もヘッドライナーを務めたアメリカの大物・キラーズが決定した。

これは本当に意表をつく展開だったが、長らく日本の洋楽ライブシーンを牽引してきた主催者・スマッシュならでは! 鮮やかな交渉力を見せつける形で、フジロッカーたちはますます盛り上がっている。

2日目は「電子音楽界のビートルズ」と称されるドイツの伝説的バンド・クラフトワーク、3日目は元オアシスのソングライター、ノエル・ギャラガー率いるハイ・フライング・バーズと、いずれも見応えのあるトリが揃った。

また、音楽フェスは“ネクストスター”、つまり有望なアーティストをいち早く見つける機会でもある。これまでも、ストロークスやケミカル・ブラザーズ、King Gnuなど、フジロック出演がきっかけで格段に人気が上がったバンドは多い。

今年の注目株は、あのローリング・ストーンズの前座も務めたガールズ・バンド、ザ・ラスト・ディナー・パーティー(27日出演)や新世代のハードコア・バンド、ターンスタイル(28日出演)、フィンランド出身のガレージ・ロック・バンド、US(アス:28日ほか出演)あたりだろうか。

特にUSは、5月にデビュー・アルバム『アンダーグラウンド・ルネッサンス』をリリースしたばかり。絶好のタイミングでのフジロック出演だけに、今後の展開も楽しみだ。

シャトルバスや専用ラウンジで快適なフェスライフ

参加アーティストのラインナップはもちろん、場内ファシリティも今年はこれまでになくバラエティに富んでおり、特に飲食エリアに初出店の店が増えている。

メニューを見てみると「シンガポールチキンライス」や「ジャークチキン&ライスアンドビーンズ」「四川蟹麻婆飯」「うな重」など、フェス飯とは思えないほど本格的で、国際色が豊かな料理が並んでいる。フジロックのフードは美味しいと定評があるが、毎年参加している筆者に言わせてもらえば、それは本当だ。今から何を食べようかワクワクしている。

また、昨年は「FUJI ROCK PLUS」として、飲食のファストレーンや専用ラウンジを提供し、混雑がつきもののフェスを快適に過ごすためのサービスが話題を呼んだが、今年は「FUJI ROCK go round」と装いも新たに、ステージ間を移動するためのシャトルバスと専用ラウンジ&トイレをパッケージ(1日¥15,000)。

そのほか、場内のキャンプヴィレッジでは、キャンピングカーをレンタルできたり、テントやタープなどのキャンプセット一式を借りられたりと、宿泊のバリエーションも細かなニーズに対応するべく増えている。

自分が“どう過ごしたいか”に沿ったコースを選べば、快適なフェスライフを送ることができるというわけだ。このあたり、最近でも話題になっていた東京ディズニーリゾートの変化(入場保証付きパッケージ・ツアーや有料の時間指定パス=プレミアム・アクセスなど確実に楽しみたい層に向けたサービスの登場)にも通じるものがある。

このようなバリエーションが登場した背景には、やはり新型コロナの影響があるだろう。フェスのみならず映画・演劇・テーマパーク……あらゆるエンターテインメントが「コロナ以前の客足には戻っていない」という現状。しかも、この円安では、単価の上昇やアップグレードシステムの登場は必然の流れと言える。

▲ファミリーで参加するフジロッカーも増えてきた

その一方で、値頃なチケットの種類もしっかり増えており、あらゆる層に門戸を開くフジロックらしいオープンさは健在だ。

今年から登場した「金曜ナイト券」(¥16,000)は、金曜日の仕事終わりに来場する人たちに向けた割安1日券。また、22歳以下の「Under 22」(¥18,000)、18歳以下の「Under 18」(¥9,000)と、年齢に応じた割引チケットが用意されている。また、これまで通り15歳以下は保護者同伴に限り無料なので、ファミリーでの参加が年々増えているのも納得だ。

また、昨年から「ふるさと納税」の返礼品にフジロックのチケットが入ったので、これを利用する人も増えている。この「ふるさと納税」、寄付額に応じてさまざまなタイプのチケットが用意されているが、人気なのは会場内の飲食店で¥3,000分の食事が楽しめる「Thank you Ticket」。

美味しいフェス飯を堪能しつつ、同時に開催地である新潟県・湯沢町に愛や感謝の気持ちを示すことも出来るというプランなのがフジロッカーたちに好評とのこと。

▲場内No.1の人気を誇る名物は苗場食堂で提供される「きりざいめし」と「けんちん汁」(筆者提供)

また、今年はクレジットカードの入会特典としてチケットがプレゼントされるなど、これまでのフジロックとは違ったアプローチも行なっているが、これらもロック・ファンのみならず一般層にまで認知度を広め、多くの人たちに来場してもらうことがフェスの維持のためには必要だということなのだろう。

フェスの楽しみ方は時代と共に変化していく。昨年からはアフターコロナの余波の大きさを感じる場面も多々あるが、フジロックでなければ味わえない開放感と感動に浸るため、今年もまた苗場に行く。


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