「MOS RECORDS」の仕掛け人に聞く。モスバーガーが音楽業界に進出した理由

モスバーガーを展開する株式会社モスフードサービスが、新たなプロジェクトをスタートさせた。その名も「MOS RECORDS」。

2024年4月から全国のモスバーガー店舗で働くスタッフ(社員・キャスト)を対象に、次世代アーティスト・クリエイターを発掘・応援・共創する本プロジェクトは、どのようにして生まれたのか。モスバーガーが音楽業界に足を踏み入れた理由とは? ニュースクランチがモスフードサービスの太田氏に詳しく話を聞いた。

▲「MOS RECORDS」歌唱審査の様子

五感のなかで聴覚だけ満足が弱いと気づきました

――まず、初めに「MOS RECORDS」をスタートさせようと思った経緯から教えていただけますか?

太田:「なんでモスバーガーがレーベルを?」と思われますよね(笑)。外食産業というのは、食事を五感を楽しんでいただく場所だと考えているんです。食べ物を提供するということで、当然、見た目がいいというのは大前提。そこでまず、視覚で満足していただきます。そして、良い香りで嗅覚を、美味しい商品で味覚、歯触りで触覚を満足してもらう。そう考えると、聴覚だけ弱いな……と気づきました。

なんとなく、店内で音楽は流れているけれど、あくまでもお客さまの邪魔にならない程度に流れている。ただ、空間を演出するうえで耳から入ってくる情報も重要なので、意味を持たせたいと思ったんです。

――たしかに、店内で流れる音楽をそこまで能動的に聴きにいこう、と思ったことはないかもしれません。

太田:そうですよね。“音楽と外食”というものをテーマに研究を続けていたんですけど、そもそも音楽に関わっているアルバイト人口は多いですし、モスバーガーのアルバイトにもミュージシャンを目指している子がいたり、アーティストが目指している子がいる。

そういった意味では、“音楽やミュージシャン”と、“モスバーガー”と“アルバイト”って離れているようで近い存在なんですよね。

そんなことを考えているときにコロナ禍に突入し、さまざまな業界がダメージを受けた。音楽業界もライブができなくなったり、フェスが中止になったり、収入源がなくなり廃業される方もいらっしゃいました。それにプラスして、サブスク時代ということもあり、CDが売れないので、ミュージシャンが儲からないフェーズに突入しました。

日本の音楽文化を衰退させないためにも、僕らが協力して何かできることはないかと考えるようになりました。それで、モスバーガーの店舗で音楽をどんどん文化として流していこう、それって単純に面白いかもしれない。音楽業界の困りごとと私たちのプロジェクトを掛け合わせることで、人が集まってくれるかもしれない。そう考えて、音楽と外食をミックスさせる今回のプロジェクトが動き出したんです。

モスバーガーで働いてもらうためのキッカケ

――成り立ちのキッカケはよくわかったのですが、そこで“店頭で音楽を流す”という選択肢ではなく、自らが旗振り役となり、「MOS RECORDS」というレーベルを立ち上げてしまうというのがすごい発想だと思ったんです。

そして対象者が、モスバーガー(モスフードサービスを含む)で現在キャスト(社員・アルバイト)として勤務している方、全員というのも面白い。そこには、やはり人材確保という側面もあるのでしょうか。

太田:そうですね。このプロジェクトのメリットとして、働き手が増える可能性というのはもちろんあります。具体的に人口が減っていく時代に突入しているし、何もしなければ働き手はどんどく少なくなってしまいますよね。

特に、若い世代が減少している時代ですから、人手不足の解消をするための一つの手段として、モスバーガーで働くためのメリットというものを、時給以外にもつけてあげたかった。今回のプロジェクトはその一環でもあるんです。

モスバーガーでアルバイトをしたら、デビューができて、自分がスターになっていく可能性がある。なかなか面白いじゃないですか。弊社でアルバイトをすることが、こんなメリットがあるんだよ! ということを増やしてあげたいなと。

――働き手の人材不足は深刻なのでしょうか。

太田:時給だけで言えば、すごく上がっているんですよ。1,100円〜1,200円が当たり前の世界。僕がアルバイトをしていたときは600円くらいだったので、倍くらいになっているんですけど、それでも人手を集めるのは大変。

――たしかに、人材不足で24時間営業ができないコンビニも増えましたよね。

太田:そうなんですよ。昔は働き手がたくさんいたんですけど、人口が増えているところもシニアが増えているだけで、若年層が減っていますからね。全体的には増えているように見えていますけど、将来の働き手というのはどんどん減っている状況です。

――今回のプロジェクトは、若い世代にメリットとチャンスを与えるとともに、モスバーガーさんの人材確保ということが幹になっているんですね。

太田:ありがたいことに、モスバーガーでアルバイトをしていただくと、そのまま20年〜30年やっていただける人が多くいる職場なんです。そのほかにも、モスの世界観が好きと言ってくれる方や、モスバーガーがやっていることが好きだという人も多くいてくれるんですけど、第一歩目のハードルというのはどうしても高いですから。

気楽にアルバイトをしてもらう、と言うのも変ですけど、楽しんでモスバーガーで働いてもらうための、応募のキッカケ作りという側面がプロジェクトにはあります。

ハンバーガーも音楽も人を元気にすることができる

――ちなみに、このプロジェクトはいつ頃から着想されていたんですか?

太田:具体的に動き出したのは、ちょうど1年前くらいですね。それまでにも、外食と音楽を結びつけたいとは考えていましたけど、オーディション形式にして進めていこうと決めたのは、1年前ですね。コロナが5類に移行して、人が集まっても大丈夫な状態になった。このタイミングを機に進めて行こうと舵を切りました。

――コロナ禍は大きな要因になっていますか?

太田:はい。コロナ禍はいろんなものを変えてしまいました。我々、外食産業も商品の売り方を変えないといけなくなったり、音楽業界ではライブハウスが良くない存在のように報道されました。あの当時、多くニュースでも流れていましたけど、フェスを開催することも悪のような扱いになっていたり……。

あの報道を見たときに、ちょっと偏っているなと思ったんです。こんなことをやっていたら、みんなの好きな音楽がなくなってしまうと。我々もハンバーガーを食べて元気になってもらいたいんですけど、音楽をやっている方たちも音楽を聴いて元気になってもらいたいわけじゃないですか。「人を応援したい!」という心意気は、我々もミュージシャンの方たちも変わらないので。

そこで、同じ志を持っているのではあれば、業界が違えども一緒に組んじゃおうと勝手に思ったんです。自分にもミュージシャンの友人がいて、「ライブもなくなったし、モスバーガーでバイトでもしようかな」と言われたんです。半分冗談かもしれないけど、そんなことを言ってしまうほど、苦労している姿を見ていましたから。

――音楽と外食の結びつきを研究されていたんですよね。

太田:はい、我々の会社は外食ですけど、何かと何かの組み合わせで新しいもの作るということを大事しています。ハンバーガー自体も、アメリカからハンバーガーを持ってきて、日本人の舌に合うように変換して日本で展開したものなんです。

だから、 何か違うものと違うものを組み合わせして、新しいものを生み出すことを当初から続けてきた会社。音楽もそうじゃないですか? さまざまなものを掛け合わせて新しい音楽を生み出していく。これって同じ制作活動なんじゃないかと思うんです。

――今回のプロジェクトは、幅広いアーティストを生み出そうとしていますよね。シンガー・バンド・ダンサー・トラックメーカー・作曲家・ダンサーなどなど、音楽にまつわる活動者であればなんでもOKということも魅力だと思うんです。この先、MOS RECORDSからどのようなアーティストが誕生してほしいと考えていますか?

太田:僕らと一緒にやってくださるということは、現時点で社員・アルバイトをしているということ。チェーンに属してもらえるということは、ある種、人生そのもの、生き様だと思うんです。

それはレーベルに属する場合でも同じで、我々が大事にしている人生観である「利他の心」であったり、人間貢献や社会貢献という理念を掲げてやっているんですが、そういった心を持ったアーティスト、そういうったことを表現できるアーティストが、たくさん出てきてくれたらうれしいです。

自分のことより、他人のことを優先できるような人たち。ちゃんと周りのことを考えられる人たちで、なおかつ応援ができる人たち。そんなレーベルになったらいいなと考えています。

音楽プロデューサーの海老原俊之がプロジェクト参加

――将来的にMOS RECORDSはどのような形になっていくのでしょうか。現時点でのビジョンについても教えてください。

太田:僕らが思っていたよりも反響がありました。期待値は大きいのかなと感じています。その期待にはしっかりと応えていきたいと思いますし、どんどんレーベルを大きくしていって、将来的には一般の方からの応募も視野に入れています。

歌が上手い人、ギターが上手い人、ベースやドラムが上手い人など、点を線でつないで、まとめ上げるのも我々のミッションだと思っています。そこから世界で通用するアーティストが出たら、最高ですよね!

――現時点でも応募が集まっている状況だと思いますが、今回のプロジェクトには心強い監修者として、音楽プロデューサーの海老原俊之氏が参画していますね。

太田:僕が外食×音楽をやりたいと、いろんな人にベラベラ喋っていてもあまり相手にされなかったんですど、そのなかで“海老原さんというレジェンドがいるから、紹介しますよ”と言ってくれた方がいたんです。

海老原さんは、モスバーガーのことをよく知ってくださっていて、もちろんビッグな方たちのプロデューサーをされていた方ですから、音楽業界にも精通されている。非常に心強いですし、お力添えしていただこうということになったんです。

――なるほど。どのように審査は進んでいくのでしょうか。

太田:まずはサンプル音源を提出していただいて、海老原さんと我々で聴いていくことからスタートして、魅力を感じる方が現れたら、オーディションをさせていただくという流れになります。今も集まった音源を聴いている最中です。

現在進行形で路上ライブをしている方もいるし、セミプロの方、ビッグバンドに所属していたという経歴の方もいます。今回は若いというだけが条件ではないし、30歳でも40歳でもいいと思っていますから。人を感動させる才能があるのではあれば、年齢では区切ってはいけないと思っています。

▲審査会場の外にはモス店舗のような手書きの黒板

――ここで改めて、MOS RECORDSの魅力は?

太田:ビジネス的な側面で言うと、モスバーガーは全国に1300店舗以上あるので、その店舗でプロモーションができると考えると、ものすごくインパクトがあると思うんです。それにプラスして、185か国にサブスク配信させてもらいますし、公式のXのアカウントのフォロワーは180万人くらいいますから、そこで宣伝しようと思っています。

あとは、モスバーガーとのコラボグッズを制作し、グッズの収益も見込めたり、自分がやっていることが世界に広がっていく、すごいことじゃないですか。だから、一番の魅力は夢だと思います。大きな夢が見れる!

――スケールが大きいですよね。なかなか体験できることではない。

太田:ですよね! 1300店舗、北海道から石垣島までモスバーガーはありますから。そこに自分の顔や音楽が出ると考えたら……。

――デジタルだけでなく、フィジカルでさまざまな展開ができることを考えると、音楽の価値の再確認にもつながる気がします。

太田:ただ売れたい、ということではなく、僕らもアーティストを応援するのであれば、その人の生き様を応援したいので、そういったアーティストにたくさん出てきてもらいたいです。そして、清潔感というのは大きな要素になると思います。我々は外食産業で、モスバーガーというブランドを背負ってやっていくので。

――最後に改めて、今後の展望を教えてください。

太田:まだこれからなので今後の展望を語るのは難しいですが、まずは1回目のオーディションをします。コンテストではない、あくまでもオーディションです。順位をつけるわけではないし、もしかしたら合格者はゼロかもしれない。そしたらすぐに2回目のオーディションをしますけど。まずは、1人目のアーティストの方をちゃんとご支援させていただくことがスタートだと思います。

本当にどんな反応が起こるか、まだわからないですから、先の読めない状況を楽しみながらやっていきたいと思っています。

(取材:笹谷 淳介)


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