Aマッソ加納「私、ご飯にあまり興味がないみたいです(笑)」

エッジの効いたネタで各方面から高い評価を得て、近頃はバラエティでの活躍も目覚ましいお笑いコンビ・Aマッソ。そのメンバーである加納愛子が2冊目となるエッセイ『行儀は悪いが天気はいい』(新潮社)を11月16日に発表。ニュースクランチ編集部が、エッセイを書くうえで考えたいたことや、思い入れのある一遍についてなど、ざっくばらんに話を聞いた。

▲加納愛子(Aマッソ)【WANI BOOKS-NewsCrunch-Interview】

そんなに書けることあるかな?

――まずは、このエッセイを書くことになった経緯からお聞かせください。

加納:新潮社さんからお話をいただいて、という感じですね。もともと筑摩書房さんの「webちくま」でエッセイの連載をさせていただいていて、そっちは自由に好きなことを、時にはフィクションの要素を含みながら書いていたんですけど、こっちは「芸人になる前のお話を中心に」ということでお話をいただきました。「オチとかは考えずに気楽に書いてください」ということだったので、こちらは素に近い、本音を書いたと思います。

――「芸人になる前の話を書いてください」と言われたとき、率直にどう思いましたか?

加納:“そんなに書けることがあるかな?”と思いましたね。エピソードの数が足りないんじゃないかと。そんなに記憶力がいいほうでもないので。

――そうなんですか?

加納:ひとつ思い出すと、それに付随する思い出を“ブリンッ!”って思い出すんですけど、そのひとつめをあまり覚えてないって感じですね(笑)。記憶って面白いなと思いました。表面には上がってなかったけど、思い出すと連動して出てくるもんなんだって。“脳って面白いなあ”なんてことも考えながら書いてました。

――変わったというか、本当に面白いご家族のエピソードがたくさん書かれていますが、ウチって変だな……とか思ったことはなかったですか?

加納:なかったんですよ。今回のエッセイを書いて、周りの反応を見て“変だったんだな”って気づきました(笑)。

▲このエッセイの反応を見て“私の家族って変だったんだ”と気づきました

学校にいた面白いヤツは「面白いこと」に興味がない

――加納さんにとって「芸人になる前」と「芸人になってから」で、明確に違う部分ってありますか?

加納:難しいな……。(しばらく考えて) 私にとって芸人になるというのは、自分の肉体が人前に出るということかもしれないです。初舞台からフィジカルの部分で感じることが大きかったですね。それまでも脳内で面白いことを考えたりはしていましたが、体を使って人前で披露するということで、その威力みたいなものを感じました。

――「最高の仕事」を読んで感じたんですけど、芸人になるような人は、同じクラスに自分より面白い人がいたって、あまり言わないと思うんです。でも、加納さんはそれを書いていたんで、珍しいタイプの芸人さんだと思いました。

加納:学校にいた面白いヤツって、面白いのに「面白いこと」には興味ないんですよ。それって悔しいじゃないですか。私は自分よりそいつのほうが面白いと思ってるのに、そいつはファッションとか恋愛とかに夢中になってる。

でも、私はそいつのことを面白いと思ってる。そのもったいなさを小さい頃から感じてたので、その執着みたいなものが私をこの仕事に向かわせたのかな? というのは芸人になってから強く感じますね。「私、芸人になったで!」っていう感じ。

――エッセイを書くにあたって参考にしたり、影響を受けたりした方はいらっしゃいますか?

加納:岸本佐知子さんですね。岸本さんのエッセイを読んで、“こんなに自由でいいんだ”って思いました。Webちくまの連載では、書き方で遊んだりしているんですが、それは筒井康隆さんの影響かもしれないです。ああいうのに憧れてます。自分はまだ全然できてないですけど、やってみたいですね。

――Aマッソのネタでも、筒井康隆さんっぽいなと思うものがある気がします。

加納:そうですね、影響はあると思います。

やっとフワちゃんのことを書く権利を得た

――特に思い入れのある話はどれでしょうか?

加納:フワちゃんの話は、ちょっと前だったら書かれへんやったやろなって思います。フワちゃんとはすごく仲が良くて、ずっと遊んだりしてました。フワちゃんがテレビに出始めたときは、すごくうれしかったんです。ただ、自分たちのライブのゲストに呼んだり、YouTubeに出てもらったりというのは、自分の中で“やってはいけないこと”になっていたんです。私がフワちゃんを利用してるように見られるのがイヤで。

当時のライブシーンでも「フワちゃんと仲いい」アピールをする芸人があふれかえってたんですよ。そういうもんですよね、売れたら親戚が増えるとか聞きますし。でも、私のほうが先輩だし、自分がそうなるのはカッコ悪いなと思って。そんな時期を経て、自分がちょっとずつお仕事をもらえるようになって、今だったら利用してるんじゃなくて、本当に友達としてフワちゃんのいいところを書けるんじゃないかって。

エピソードもいっぱいあったし、いつでも書ける状態ではあったんですけど、ようやく「権利を得た」という気持ちになって書けたって感じですね。時間はかかりましたけど。

――個人的には「バスク」〔加納と阿久津大集合が主催していたライブ〕を見に行ったことがあって、その話がとても印象的でした。

加納:バスクは、私の中では本当に大事なライブだったんですけど、自分がこれについて書けたことにビックリしました。

――そうなんですか?

加納:バスクについて書いたことによって、“バスクが正式に過去になったな”って感じました。

――はあ~、なるほど!

加納:寂しさがありますね。今までは延長だったというか、ちょっと前に出てたライブくらいの気持ちだったんですけど。ライブに出てた人もみんな売れて、辞める人は辞めて……。今までは、うちらのファンだったら絶対にバスクに来てくれてたけど、最近のファンはバスクのことを知らないということもあって、“過去になったなぁ”という気持ちですね。

――ケリをつけたみたいな気持ちもあるんですかね。

加納:そうですね、それもあるかもしれないです。

▲このエッセイを書いたことで“バスクが正式に過去になったな”って感じました

――加納さんは小説も書かれていますが、今回のようなエッセイ、フィクションの小説、お笑いのネタ、それぞれ共通することや違いを感じる部分ってありますか?

加納:分けるとしたら、「エッセイ」と「小説・ネタ」ですね。小説とネタは創作なので、頭の使い方が違いますし。ネタを書くためにノートを開くと、真っ白じゃないですか。毎回“真っ白やで~”って思うんですよ(笑)。

創作ってある種の神聖さを感じるところがあって。ホンマに何もないところに、私が今からなんか考えて書くって、面白いなあって新鮮に思う気持ちが毎回ありますね。エッセイは“なんかあったかな?”って考えて、“せやせや”って書き始めるものなので、創作とは違いますね。

――書くためのメモを取ったりはするんですか?

加納:最近はメモするようになりましたね。仕事が増えてきて、思考があっちゃこっちゃ行くことが多くなって本当に忘れてしまうので、メモを取るようになりました。

――自分のエッセイを読んでみて気がついたことって何かありますか?

加納:私、ご飯にあまり興味がないんだなってことですね。中華について書いたりもしてるんですが、読み返してみると「食った」くらいしか言ってなくて。食事に興味がある人は、ちゃんと何を食べたとか味の感想とかを書くと思うんですけど、「中華」って書いてるくせに味の描写も全くないですし(笑)。

心に残っている言葉「明るさは知性だ」

――このエッセイを読んでもらいたい人を一人挙げるとしたら、どなたですか?

加納:本音を言うと、さくらももこさんなんですよね。読んでほしいというか、会いたかったですね。

――絶対にAマッソのこと好きだと思いますよ。

加納:いや、どうなんですかね? ホントですか? それも聞きたかったですね。昔、M-1の予選を見に行ってるっていう噂が流れたことがありましたけど。

――お笑いが好きだったらしいですからね。座右の銘とか、人に言われて心に残ってる言葉ってありますか?

加納:どこかに書いたかもしれないんですけど、米粒写経の居島一平さんが言ってた「明るさは知性だ」という言葉ですね。場を盛り上げてくれる人とか、空気が滞ってるときに率先して何か喋れる人って、「明るい」とか「コミュ力ある」って、イジるノリで言われることもあるんですけど、結局は知性だと思うんですよね。居島さんも、ものすごく明るい人ですけど、それを知性と思っていることもカッコイイです。

――それを聞くと、加納さんがフワちゃんのことを初対面から好きになったというのもうなずけますね。カラオケにみんなで行って、1曲目をすぐ入れて歌える人ってカッコイイなと思いますし。

加納:私もそう思います。高校生の頃に10人くらいでカラオケに行って、入った瞬間に曲を入れたヤツがいたんですよ。そのときに“こいつには勝たれへん”って思いましたし、さらにそいつめっちゃ歌ヘタやったんですよ。

――ははははは(笑)!

加納:だから自慢したいわけでもないんですよ。こいつがこの場において一番カッコイイって思いましたね。

▲カラオケで“こいつには勝たれへん”って思いましたね

映像ネタをもう少し突き詰めて作りたい

――最近、興味があることやハマっていることってありますか?

加納:いろんなところで言ってるんですけど、ジョギングをしてます。最近はいろんな人とジョギングしてますね。今まではフワちゃんとやってたんですけど、スケジュールが合わないことが多くなってきて。近所に住んでる後輩の芸人とかを誘って、代々木公園で走ってますね。

――ジョギングを始めようと思ったキッカケがあったんですか?

加納:10年くらいやってるんですけど、当時、住んでた家が駒沢公園に近かったってことですね。運動はずっと好きだったので。

――運動でもジムに行ったりとかではなく、ジョギングなんですね。

加納:そうですね。それこそ最初は、後輩と遊びたいけど金がないから、ジョギングして銭湯に行こうっていうのをやってたことですね。みんなで集まりたいけど、居酒屋に行っておごる金はないから走ろうや! みたいな。金をかけずにできる趣味ですね。当時の趣味といえば、ジョギング行くのと、ブックオフで安い本を買うくらいしかできなかったんで。

▲私の書いたエッセイ『行儀は悪いが天気はいい』読んでみてください

――最後に、今後の野望、やってみたいことを聞かせてください。

加納:全国7都市くらい回れるように、単独ライブの規模を大きくしていきたいです。あとは、映像ネタが「THE W」で負けて終わってるので、もう少し突き詰めて作りたいです。これはクリエイターとの出会いもありますが、もっと誇れる映像ネタを作りたいとはうっすら思ってます。

――「THE W」でのネタ、あの年に賞レースで見たネタで一番面白いと思いました。

加納:ありがとうございます。三拍子の高倉さんにも同じこと言われました。

――(笑)。それはうれしいです。執筆活動ではどうですか?

加納:やはり長編小説にはチャレンジしないといけないなと思っているので、長編を書きたいです。

(取材:山崎 淳)


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