アルピー酒井健太「『有吉の壁』では自分の世界観を出してますよ」
2023年10月26日、アルコ&ピースの酒井健太が初の書籍『チャンサカの気まぐれパンチライン~読んでも何も残らない本~』(リットーミュージック)を発表した。本当に何も残らない……メッセージ性のない文章の素晴らしさを真正面から食らわされる内容、というか、ポップ極まりない文才とキャラクターを持つ酒井に驚愕する。
地下芸人だった頃の彼は、その天才性と狂気性により多くのマニアと同業者(芸人)から、畏敬の眼差しを向けられていたらしい。「酒井の作るネタで中野の地下が揺れた」と、お笑いマニアのあいだでは今でも語り草である。ニュースクランチは、本が発売されたタイミングにいろいろと話を聞いてみた。
酒井が続けていたトゥルーマンショーのようなラジオ
――芸人さんにも文章を書く人は多いですが、今回の執筆で意識された方やお手本にされた方はいますか?
酒井健太(以下、酒井) まったくないです。僕、芸人さんのコラム読んだことないですもん……あ、でも、松本(人志)さんの『遺書』は読んだことありました。あと、ハチミツ二郎さん(東京ダイナマイト)の『マイ・ウェイ』も読みましたね。あれは最高でした。
――相方の平子祐希さんは、酒井さんのことをよく「ミステリアスぶる」と言いますけど、このコラムではご自身のことをさらけ出した感はありますか?
酒井 さらけ出してやろうとは思ってないです、わりとニュートラルだと思います。ナチュラルに何も考えてないですね。
――書籍のタイトルが『気まぐれパンチライン ~読んでも何も残らない本~』。最初から読んで何も残らないような、あえてメッセージの性の少ないものを書こうという思いはあったわけですか?
酒井 まったくないですよ! それがこの本なんですよ。“狙って何も残んないようにしよう”もないし。
――たしかに、狙っているとメッセージ性が逆に出てきちゃいますもんね。で、コラム連載中には私生活でいろいろと変わったことがあったと思います。一番大きな出来事に、ご結婚があると思うんですけども。
酒井 そうですね。
――『チョコレートナナナナイト!』(酒井と後に結婚するアナウンサー・矢端名結が共演していた、静岡放送のラジオ番組)では、初回から矢端さんと陰で2人は付き合っているテイのコントを展開されていて。番組内では「俺たち本当に付き合ったら、この番組終わっちまうぞ」というくだりもありましたが、本当に交際がスタートする際に躊躇はありましたか?
酒井 プロデューサーやスタッフ陣に言うときは、“終わっちゃうかもしれない”っていうのは確かにありました。ただ、スタッフ陣も楽しんでやっていた部分があるので“うまくやってくれるかな”とは確信していました。
――佐久間宣行さんは「ラジオで彼女を作って、ラジオで結婚を決めて、ラジオ・トゥルーマンショーだよ」とおっしゃってました。
酒井 ハハハハハ、そんなこと言ってたんですか(笑)。確かに、トゥルーマンショーだな。
――ただ、酒井さんの人柄というか、酒井さんだからこそ面白くなった部分は絶対にあって。“二人きりで共演している女子アナと交際”って、ほかの芸人さんだとヘビーな印象になりかねないじゃないですか? それが、こんなにポップになるのが素晴らしいですよね。
酒井 ああ、確かにそうかもしれないですね。
――痛烈だったのが、『チャンスの時間』(ABEMA)で酒井さんが「地方の女子アナみたいなのに一番行きたい」という発言をしたあと、しばらくして矢端さんとの結婚報道があって。“うわっ。チャンサカ、有言実行じゃん!”と思いました。
酒井 「絶対、あのときから付き合ってたでしょ」って、いまだに言われますもん。
――あの発言はプライベートとは分離していて、“地方の女子アナ”というワードのおもしろさでしたよね。
酒井 そうそう、そうです!
――それをわかってはいるんですけど、あのときは痺れました。大井洋一さん(『チャンスの時間』の構成作家)も、酒井さんが「地方の女子アナに行きたい」と発言した瞬間の画像をTwitterにアップして祝福していたくらいですから。
酒井 大井さん、そんなことやってたんですか? 自分の番組なのに(笑)。
――ご結婚するとき、女性ファンの存在は気になるものでしたか?
酒井 そもそも、多くないっていうのはあるんですけど。『沈黙の金曜日』(エフエム富士)をやってると出待ちのファンがよく来てくれていたけど、いなくなった子は何人かいますね(笑)。
酒井軍団の後輩たちに慕われる理由
――酒井さんがリーダーを務める「酒井軍団」(ぐりんぴーすの落合隆治、コンピューター宇宙のはっしーはっぴー、ストレッチーズの高木貫太らが所属)には、すごく統率が取れているイメージがあります。酒井さんが言葉を発したら「ちょっと待ってくださいよ~!」と、みんなが一斉に立ち上がって言葉を拾おうとしたり。
酒井 ハッハッハッハ! それはね、ぐりんぴーすの落合なんですよ。みんな、僕にはビビんないんだけど、落合の目線は常に気にしてます。
――たけし軍団でいう、ダンカンさんみたいな。
酒井 あっ、本当にそう! マジでそうですね。めちゃくちゃ厳しいんです、落合は。
――逆に、酒井さんは縦関係におおらかな雰囲気があって。高校のサッカー部でも、酒井さんだけ後輩からタメ口を使われていたそうですし。
酒井 そうそう。今も、その辺はあんまり変わんないですね。
――酒井軍団のメンバーの方々は、酒井さんのどんな面をリスペクトして付いてきていると思いますか?
酒井 優しいとかじゃないですか? 僕、怒ったりもしないし、とっつきやすい先輩だからだと思いますよ。友達に近いのかな。
――平子さんがおっしゃっていたんですけど、「自分が一番上の立場に立つと、恥ずかしくてトップの振舞いができない人が多いけど、酒井はトップの顔を恥ずかし気もなくノーブレーキでできる」と。これ、本人はご自覚されていますか?
酒井 僕、学生時代はそんなに先輩付き合いをしてなくて。川崎だし、ちょっと怖い先輩も多かったんで。だから「こんな先輩がいたらなぁ」を、もしかしたらやってるのかもしれないですね。
――酒井軍団にはメンバーがいっぱいいらっしゃいますけど、「何かあったときに、俺がケツを拭かなきゃ」という親分肌的な考えはあったりしますか?
酒井 何かあっても別にニュースにもなんないヤツらしかいないですけど、なんかあったら。……うん、まあ、なんかあったら(笑)。
相方・平子は隠れて本を読みそう(笑)
――アルピーのお二人は、もともと先輩・後輩の関係性でしたよね。平子さんに対しては、まだ先輩という意識はありますか?
酒井 敬語も使ってますし。先輩……年上だなとは思いますけど。
――5歳差ですもんね。酒井さんから見て、平子さんは相性がいい人ですか? 相方としても、もっと広く人間としても。
酒井 難しいな、これは……。たぶん、平子さんと僕って全然違うと思うんですよね。
――だからこそ、やれている?
酒井 それはたぶん、当事者の僕らではわかんないんですよ。そう言ってくれる人もいるから、“たぶん、そうなんだろうな”とは思うけど。こればっかりは、ちょっと離れてみないとわかんないですね。
――これまでバチバチの雰囲気になったことはありますか? 1回、ちょっとありましたよね?
酒井 ああ、2018年のM-1ね。うん、それくらいじゃないですか。
――漫才のオープニングで「告白を練習したい」と酒井さんが振ったら、平子さんが急に「お前、最近彼女できたって言ってじゃん」と、マジなアドリブを入れてきたという。あれは事件というか……。
酒井 あれは事件ですよ! しかも、一番大事な3回戦で。
――まだ、コンビ間で消化しきれていないくらいの印象があるんですけど。それが逆に、いい距離感なんですかね?
酒井 そうっすね、うん。いい距離感だからこそ、やっていけてる感じはするな。
――ただ、平子さんがそういうアドリブをブッ込んできたのは、平子さんのほうが酒井さんの存在を欲している関係性の表れな気もします。
酒井 そしたら僕、出演本数ランキングの16位ぐらいに入っててもいいはずですよ! どこにも連れてってくれないんだから(笑)。
――(笑)。ちなみに、この本を平子さんに読んでほしいと思いますか?
酒井 うん、読んでもいいし……読むかな?
――たぶん、平子さんは酒井さんのあらゆることを知りたがってる気がするんですよね。昔、平子さんが鏡越しに酒井さんのことをめっちゃ見ていたというエピソードもありますし。
酒井 ハッハッハ、あったあった! 読みそうだなあ、隠れて(笑)。
野田が惚れ込んだ天才性は『有吉の壁』で吐き出す
――数年前に放送された『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)が、今も伝説です。野田クリスタルさんが「アルピー酒井がどれだけ天才だったか」を、とうとうと語った回でした。そういった一面を、アルピーファンやラジオリスナー以外にも認知させていこうという思いはありますか?
酒井 いやぁ~無理じゃないですかね、ああいうのって。若かったっていうのもあるし、あんなネタを今になってやりたいとも思わないし、たぶん伝わらないだろうし。
――モダンタイムスさんは「酒井はすごいネタをやっていた」と、今もよくおっしゃっています。ホトトギス(以前、酒井が組んでいたトリオグループ)時代に、酒井さん以外の2人が組体操をして、それを傍観するサングラスを掛けた酒井さんが、客席に「どう、オーディエンス? すごいっしょ」と尋ねるだけのネタ。
酒井 ああ、はいはい。
――そういう衝撃的なネタで、酒井さんは天才性を発揮していました。ただ、今のアルピーでは平子さんがネタを作ってますよね。お互いが天才的なネタを作っていたのに、なぜ平子さんだけがネタを作るようになったのか。それは、何かきっかけがあるんですか?
酒井 やっぱり、どっちかが1人で書いたほうがいいし、やっぱり平子さんが書いてるほうが、アルコ&ピースとしてはいいじゃないですか? 別に譲ったわけじゃないですけど、自然とそうなっていったという。
――発露したいという気持ちは、今はもうないですか?
酒井 でも、『有吉の壁』(日本テレビ系)に出させてもらうときは、2人ともネタを出さなきゃいけないので。そういうときは「自分の世界観を出そうかな」とかはありますけど。それで発散できてるというか、吐き出せる部分はあるので、それで別にまったく問題ないっていう。オンエアにのるかどうかは別の話ですけど(笑)。
――(笑)ということは、『有吉の壁』に出るときは、SOSSHO酒井(ピン芸人時代の酒井の芸名)に戻っているわけですか?
酒井 錆びついてるけどなあ、SOSSHO酒井も。
――いえいえ。ラジオを聴いていると、今もスイッチを入れれば行ける人なんだろうなと感じます。
酒井 もう、無理(笑)。マジ、無理。
――今振り返ると「これは尖ってたな」と自分でも感じる、地下芸人時代の言動ってあったりします?
酒井 たぶん、いっぱいあったと思います。地元の後輩と3人でやってた頃は、ライブに出てもエンディングには顔を出さないし、誰ともしゃべんないで3人で帰ったり。本当に、“作品”みてえな雰囲気出してました。一番ダサいって言われるような態度。
――野田さんが言ってましたよね。「みんな、酒井さんのことをラーメンズを見るような目で見てた」って。今になって「尖がってたままのほうがよかったかな?」と思うことはありますか。それとも、尖りはなくなったほうがいい?
酒井 なくなったほうがいいと思いますね。そんなふうに尖っていたままなら、こうやって本を出して取材も受けてないですから。尖ってたら尖ってたで、別の今があるのかもしれないですけど。
――天才と言われていた酒井さん、平子さん、野田さん。3人とも、今では大衆性も持ち合わせていますよね。
酒井 そうですね。それに気づく時期がないと、たぶん芸人を続けていられないとも思うので。
所ジョージに憧れ、志村けんのような活動を
――10月に、酒井さんは誕生日を迎えられました。今年から“40代のチャンサカ”が始まっていきます。これからのアルコ&ピースについて「こんなふうになっていきたい」と、目指すところはありますか?
酒井 う~ん、40代になってアルコ&ピースはどうなるんだろう……。
――平子さんとお二人で「今後のアルコ&ピースは、こうしていこう」と、会議を開くようなことは?
酒井 コロナ渦で少なくなりましたけど、以前はマネージャーと3人で……みたいなことを年に1回ぐらいやってました。マネージャー主導で「もっと、こんなのをやりたい」とか。
――賞レースに出る、出ないみたいなことはどうですか?
酒井 そういうときには、話すかもしれないですね。
――じゃあ、もしかしたら『THE SECOND』に出る可能性も?
酒井 今んとこは、ほぼゼロですね。出なさそう。
――「こういうタレントさんみたいになりたい」という理想像はありますか? 以前は「所(ジョージ)さんみたいな存在に憧れる」とおっしゃっていましたが。
酒井 所さんが一番いいんじゃないですか? 所さんみたいに、後輩にチャリとかあげたいですよ。ボールペンとかあげたい! 僕、なんとなくで所さんをイメージしてて、ワーって適当にやってるもんだと思ってたんです。
でも、『世界まる見え!テレビ特捜部』(日本テレビ系)に出たとき、すごい丁寧に振って、自分で話を持ってきて、ちゃんと落として。「仕切り、めちゃくちゃうまいんだ!」って、びっくりしたんです。
――所さんは噂によると、家で台本を全部覚えてくるんですよね。
酒井 すげえな! やっぱ、あれくらいの人はちゃんとスイッチ入れてんだな。
――最近は「自分たちの冠番組を持って~」と野望を口にする芸人さんも少なくなりましたが、酒井さんは「もっと突き抜けて売れたい!」と思ったりしますか? 「また、アルピーで冠番組を持ちたい」とか。
酒井 僕らは何回か番組を持って失敗というか、終わらせてきてるんで。それはそれで面白かったんですけど、もうちょっと時間が必要かもしれないですね。
――やっぱり、『勇者ああああ』(テレビ東京系)はハードディスクから消せないですよ。園山真希絵の回とか、本当に消せないです。
酒井 ハハハハハ!
――今、どの仕事をしているときが一番楽しいですか?
酒井 ええ、ムズっ。(熟考)……まあ、楽しくないですよ、この世界は別にそんな(笑)。
――『気まぐれパンチライン』というタイトルの本を出したのに、そんな悲しいことを言うんですか(笑)。
酒井 ライブをやりたいなって、ちょっと思いますね。「酒井軍団でやりたい」という話は、飲み会でよくしてるんですけど。一座で全国を回って、酒を飲んだりしたら楽しいだろなあって。志村(けん)さんの「志村魂」みたいに。
(取材:寺西ジャジューカ)
12/05 17:00
WANI BOOKS NewsCrunch