東ちづる×マメ山田×ドリアン・ロロブリジーダ×エスムラルダ マイノリティが本音で語る「不条理」「もやもや」「生きづらさ」
(聞き手・構成◎さかもと未明 撮影◎本社 奥西義和)
* * * * * * *
障害のあるパフォーマーの活躍
東 私たちが「まぜこぜ一座」を旗揚げしたのは2017年。日本では海外とは違って障害のあるパフォーマーの活躍する場が少ないので、それを変えたかったんです。 障害のある団員で構成される一座が、見世物小屋をイメージした舞台をするということで話題になり、記者会見は大入り満員。内心「明日からすごーい!」と。でも、それを放送してくれた媒体はゼロ!
――ええ? なぜでしょう?
東 なぜなんでしょうかねえ。取材された放送もありましたが、マメさん(日本一小さい俳優・手品師)や車椅子・義足ユーザーやダウン症などの主要メンバー全員が映っていなくて。
ドリアン・ロロブリジーダ(以下ドリアン) そうそう。
――なぜそんなことが起きるんでしょう?
東 私も知りたくてテレビ局に聞いたんです。すると「私はいいんですが、代理店さんが」とか、代理店は「スポンサーさんが…」、スポンサーは「視聴者さんが…」、と言い訳。「それじゃダメじゃん」と思ってこの映画を作りました!
笑えて、ドキドキする映画
エスムラルダ(以下エスム) ダイバーシティーとか、多様性のある社会とかいうけど、現実は違うのよね。
東 そうなの。今回も当初、話題になればと脚本家に超有名な人を選んで依頼しました。でも「暗い映画じゃなく、コメディにしたい」というと、「障害者をどう扱っていいかわからない」と悩まれちゃう。挙句「1ヵ月ワークショップをしてから…」と言われ、お金も時間もないので残念ながら実現できなかったんです。
それなら、エスムさんはもともと脚本家で、自身がドラァグクイ―ン。マイノリティの気持ちもわかるからとお願いしたの。勿論大正解!
――なるほど。エスムさんは、脚本を書く上での工夫は?
エスム 法廷ものなど色んなアイディアは出たんですけど、「笑えて、ドキドキして」と詰めていくと、「やっぱ殺人事件、密室ミステリーじゃない?」と。(笑)
東 「なら、私が殺されたい」って頼んだの。私は今まで事件を解決する側の役などが多かったから、殺される役が回ってこない。だから経験がなくて。
――え、そうなんですか?
東 テレビ業界の暗黙の了解みたいなものがあるんですよ、実は。
エスム そこで東さんに死んでいただくことにしたんです。それも、何度も。(笑)
――拝見しましたが、アーティスティックな映像でした。殺された東さん、すごく美しくて。
東 本当に? 嬉しい。照明とカメラマンさんの力です。 衣装やメイクもよかったでしょう?キャストの皆さんのように、多くの人と違う体形だったり、車椅子だったりすると、衣装は大変なんですよ。でも衣装担当が、素晴らしいものを用意してくれた。メイクも通常の映画の倍の人数を頼んで。
――特に「だうんしょーず」の峰尾さん。可愛くて、踊りも素晴らしく感動しました。
東 彼女は普段、「ダウン症のある人は、ダウン症の特徴がなくなるから」とメイクしてもらえないことがあるの。彼女らしくきれいだったでしょ?
――はい。逆にドリアンさんは地のままが素敵で。
ドリアン そうなのよー、今回は自分役だから、役作りがなくて楽だった。でも進行役だから、異常にセリフが多くて。これはエスムさんの意地悪だと思うんだけど。
エスム いやいや。(笑)
でも、カンペなしでやり切りましたね。内心すごいなと。
ドリアン 私が出ずっぱりで、みんな飽きたんじゃないかと思うんだけど。
東 その「圧」の強さで持つのよ! ちなみに何故この一座に入ってくれたの?
悩んでいる人には楽になってほしい
ドリアン それはもう、東ちづるの辣腕ですよ(笑)。お声をかけていただいたのは、コロナの最中でしたよね。私自身はLGBTになるんだろうけど、「生きづらさ」を感じてはこなかったの。でも、マイノリティに対するみんなの「もやもや」は感じてたから、一石を投じたいし、悩んでいる人には楽になってほしくて。
――なるほど。ちなみに、ヒールを履いたら190センチのドリアンさんと、114センチのマメさんを、同時に画面に入れるのは、カメラマンが大変だったのでは?
ドリアン まさに! 2人ともカメラマンさんからしたら画角殺しで。
――椅子を使ったり工夫された?
マメ いやいや、それじゃ意味ない。
ドリアン まあ最後は私の頭が見切れればいいので(笑)。でも、私はマメさんとの撮影、すごく楽しかった。最後2人で泣くシーン。あれが一番好きで。
マメ まあ、こっちも楽しかった。でもドリアンの傍にいると、「なんで自分は電車に子ども料金で乗れないのか」とつくづく思うよね。
――マメさんは子ども料金じゃないんですか?
マメ ないんだよ
東 いや、一目見たらおじいちゃんとわかるじゃないですか?大人ですよ。
マメ いやでも、目方とサイズなら自分は子どもサイズだし、エレベーターや券売機のボタンに手が届かないからね。
――もしかして、障害者手帳もないんですか?
マメ ないよ。
「人の役に立つ社会」を作らないと
それは大変ですね。昔あった「こびとプロレス」なども差別的と言われてなくなり、働く所は減っているのに、国から保障もされないなんて。
東 そうよね、障害者年金もないしね。
マメ でも社会はそういうことを見ようとしない。どこかの局は、ロケの街の風景に車椅子の方が横切っただけで、観た人からクレームが来たんだそうです。なぜ車椅子なんか映すんだと。
――おかしなことです。なぜそんな反応を?
東 多分、障害のある人と会うと不安になるんですよ。その奥には「社会の役に立たないと生きる資格がない」という思い込みがあると思う。自分がそこからこぼれてマイノリティになることが怖い。だから関わるのも躊躇するのではと。
ドリアン 障害者を扱う番組とかも、「守ってあげなきゃ」的に上から目線だったり、「ダウン症の子はみんな天使」みたいに型にはめちゃう。見ると「もやもや」するわ。もっとフラットでいいのに。
東 最初は戸惑いもあるだろうけど、慣れればなんてことないですよ。同じ人間なんだから。
エスム 「健常者で健やかである」ことだけがよしとされる社会って不健全よね。みんないろいろ違うのに。
東 あと、最近は「障害者も役に立てる社会に」という圧もあって。とんでもないですよ。役に立てる力がない人も沢山います。人が社会の役に立つというより、「人の役に立つ社会」を作らないと。
――ですね。誰もがマイノリティの側になる可能性もあります。もちろんそれは悪いことではないですが。
ドリアン そういう「もやもや」をちょっと見つめてほしいかなって。でも私たちは「世の中を啓蒙しよう」とか力んでもないのよね。まずは楽しんでほしいの。
エスム 最初はこの映画を観た方は「ここで笑っていいのかな」と、戸惑ったりもするかも。でも私たちは楽しんでほしくてやっているので、遠慮なく自由に笑ってほしい。
マメ でも自分は今でも、「電車に子ども料金で乗りてエー!」って主張したいよ。
全員 (笑)
普通に思いやりをもって接してくれればいい
――ちなみに映画の中でマメさんのセリフにありましたけど、「俺たちの障害を利用してる」なんて思いが、みなさんから東さんにぶつけられることもあるんですか?
東 映画のセリフの中のクレーム、みんな、本当に言われてます!
エスム ああいうことを普通に、飲み会とかで話し合うわよね。
ドリアン そういうことを言い合えるから続いてるんじゃない?コミュニケーションが深まって関係ができれば、互いの特徴をジョークにして笑えたりするし。
――世間には、皆さんと関わりたい人はたくさんいて、でも失敗を恐れて踏み出せていない気がします。障害のある方たちと交流するとき、気をつけるポイントやルールはありますか?
ドリアン そういうのは関係性とか、時と場合によるから…「この言葉はだめ」とかは単純には決められないかな。
東 普通に思いやりをもって接してくれればいいのよね。
エスム そういう「もやもや」はあとで考えるとして、まずは映画での、ちづるさんの色んな殺され方を楽しんでいただきたいわ。そして勿論最後のどんでん返しも。
マメ とにかく電車に子ども料金で乗せろー!
東 (笑)…とまあ、本当にまぜこぜな一座が全力で取り組んだ映画、ぜひお楽しみください。最初は戸惑っても、やがて本気で笑って楽しめます。そして一緒に「まぜこぜ社会」を実現しませんか?
●映画『まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり』は全国順次公開、詳しくは公式サイトでご確認ください
https://mazekoze-matsuri.com/
11/08 12:30
婦人公論.jp