高学歴ドラァグクイーン「八方不美人」私たちが昼間のショッピングモールで歌える日が来るなんて!
(構成=内山靖子 撮影=本社写真部)
* * * * * * *
【写真】ゴージャスなビジュアル、ちあきホイみさんのソロ初シングル
小さな子からお年寄りまで
――2018年12月に結成された八方不美人は、Winkの「淋しい熱帯魚」などのヒット曲で知られる作詞家の及川さんが全面プロデュース。このユニークなユニットはいかにして誕生したのか。
エスムラルダ(以下エスム) 結成して約2年、今、こうして3人で活動しているのって、実はわたしたちが一番驚いてるかもね。
ドリアン・ロロブリジーダ(以下ドリアン) そうそう。始まりは、お酒の席の軽いノリだから。
エスム もとはと言えば、普段は文筆業の仕事をしているわたしが『プリシラ』っていうミュージカルの台本を翻訳していたとき、その作品の訳詞を担当なさっていた及川眠子さんと仲良くなって、よく通っている新宿2丁目のお店にお連れしたのね。そこで、たまたま歌っていたドリアンを眠子さんが気に入って、「浮いている曲があるから、あなたに1曲あげるわよ」って。
ちあきホイみ(以下ホイみ) で、その曲を作った中崎英也さんを、後日、眠子さんがそのお店に連れていらっしゃった。
でも、その日、昼間は会社員としてPRの仕事をしていたドリアンさんが残業で遅れて、そのお店の常連だったわたしが前座で歌うことに。そうしたら、その場に同席していたエスムさんも含めて、「3人でユニットを組めばいいじゃない」という話になって。
ドリアン ソロデビューするはずだったのに、遅れたばかりに3人のユニットになっちゃって。(笑)
エスム でも、それがむしろよかったんじゃない? 3人ともまったくタイプが違ったおかげで絶妙なバランスがとれて。歌い方ひとつとっても、ドリアンは声がデカくてパワフル、ホイみは繊細で情感たっぷり……。
ホイみ エスムさんは説得力がありますしね。
エスム 最初は、思い出作りにミニアルバムを1枚出せたらいいなくらいに考えていたら、世間様の反応が思いのほかよかったので、あれよあれよという間に2枚目も。
ドリアン ライブも、去年は年間で約50ステージ。CD店や各地のショッピングモールでイベントもやらせてもらって。本当に《ドリームズ・カム・トゥルー》な感じ。
ホイみ 名古屋でイベントをやったときは、4、5歳くらいのお子さんが一緒に踊ってくれて、その隣で80代のおじいちゃんやおばあちゃんが杖をついて見てくれた。
ドリアン ダイバーシティ(多様性)をあらためて感じたっていうか、ボーダーレスにみなさんに愛されているのがうれしいですね。
エスム コロナの影響でしばらく自粛してたけど、10月からライブも再開。おかげさまで忙しくなりそうだけど、男の自分でいるときとドラァグクイーンでいるときで、気持ちを切り替えたりしている?
ホイみ わたしの場合、平日は地道にサラリーマンをやらせていただいているので、男性用のスーツを着て取引先に伺っています。でも、自分がゲイであることや八方不美人の活動をしていることも会社ではオープンにしているので、精神的にはいつもあまり変わりません。
ドラァグクイーンを始めたばかりの頃は、「昨日はみんなの前で華やかなショーをやったのに、今日は地味な日常……」みたいなギャップがあったんですけど、今は八方不美人でいる時間もすっかり日常化していますから。
ドリアン わたしも常に同じテンション! 「一度きりの人生だから、好きなことを思い切りやろう」と、今年の2月に会社を辞めて、歌やパフォーマンスの仕事一本にしぼったんですけど、会社にいるときも、歌いながら社内を歩いていたし。以前から、男性のままスッピンで歌も歌っていますしね。
ホイみ エスムさんは、つけまつげをつけた瞬間、人格が変わる?
エスム わたしは、普段は舞台の脚本を書いたり、ネットでコラムを書いたりと裏方の仕事をしているので、スイッチが入るのはやっぱりステージに上がった瞬間かな。
ホイみ 確かに! ステージに立って客席から喝采が上がった瞬間に、めちゃくちゃ気分がアガる。それが一番の快感ですよね。
カミングアウトを決めた瞬間は?
――エスムラルダさんが48歳、ドリアンさんが35歳、ホイみさんが34歳。自らのセクシャリティに気づいたのはいつ頃だったのだろうか。
エスム わたしは幼稚園の頃から、同級生の男の子に対して「好き」という感覚があったの。でも、それは誰にも言っちゃいけないことだというのもなんとなくわかっていたので、20歳を過ぎるまではずっと黙っていたのよね。
ホイみ わたしも幼稚園の頃、テレビで『恐竜戦隊ジュウレンジャー』を観てたとき、イエローが悪役に連れ去られて、敵の基地で拷問されるシーンにときめいちゃって(笑)。それが最初の性の記憶。男性が好きっていうだけじゃなく、若干SMのケも入っているという。
でも、小学校3年生のとき「おまえってオカマみたい」って言われたことで、自分の欲望は秘すべきものなんだと気づいて。そこから大学4年のときに親友にカミングアウトするまでは、自分の思いをずっと封印していました。
ドリアン わたしは初めて同じゲイの人と会ったのが15歳のとき。自分がゲイだと気づいたときからそれほど悩んだことはなくて。高校を卒業する頃には数人の友達にカミングアウトして、大学に入ってからは完璧にオープン!
エスム 家族にも、早い時期からカミングアウトしていたの?
ドリアン なんとなく、なりゆきで。きちんと告げる前に母は亡くなってしまい、父と2人の兄たちには、母が亡くなったタイミングで自然と知られてしまって。でも、自分は末っ子だったこともあり、父も兄たちも「いいんじゃない。お前の好きにやれば」って。
エスム その距離感、いいよね。わたしが大学3年で家族にカミングアウトしたときなんて、最初の3日間、母が毎晩、わたしの枕元にやってきて、「男性が好きっていうのはあんたの思い込みだから。今なら、まだ戻ってこられるよ」って。
でも、母は悩みが長続きしない性格なので、4日目の朝には「将来、結婚もしないだろうから、料理も覚えなきゃね」って。(笑)
ホイみ 切り替えが早い!
ドリアン 2人とも、2丁目に通い始めたのはいつ頃? わたしはインターネットで2丁目のことを知って、高校を卒業するくらいのタイミングで、このめくるめく世界にやってきたんだけど。
エスム わたしの頃はまだネットがなくて、週刊誌の「2丁目特集」を見て、「まずは、ここに行くしかない!」って意を決して。最初に行ったお店で、「18歳で80人とつきあった経験がある」なんて話を聞いておじけづいたんだけど、その後、もう少し硬派なグループの中でゲイの友達ができて、すっかり気分が高揚しちゃった。
ホイみ わたしが2丁目デビューしたのは、22歳と遅めだったんですけど、恋愛相手がほしいというのはもちろんのこと、やっぱり仲間がほしかったんですね。
ドリアン そうそう、ゲイって、社会の中ではやっぱりマイノリティなので、孤独や不安を常に感じているから。そんなわたしたちにとって、2丁目は合コン会場であり、サークル活動の場であり、安心できるお茶の間でもあるのよね。
ホイみ でも、わたしが2丁目に初めて足を踏み入れたとき、自分より若くてカワイイ男の子がモテまくっていて。自分は恋愛対象としてまったく価値がないっていうことに気づかされ、頭をハンマーで殴られたみたいに打ちのめされて。
それで、どうしたらもっと自分に自信が持てるんだろうと考えていたときに女装と出会った。恋愛市場では評価されなかった自分でも、ドラァグクイーンの姿でステージに上がればみんなが注目してくれたので、今では女装したまま成仏できたらいいなって思うくらい。
エスム ホイみの場合、女装は自分の承認欲求を満たしてくれる手段なのよね。女性の場合も同じだと思うけど、誰かから愛されたり、「モテること」って、自分の承認欲求を満たす強力な手段でしょう。でも、年齢を重ねるごとに、恋愛市場における自分の価値が下がってしまうから、精神的にどんどん危うくなっていく。
ドリアン 特にゲイの場合、社会的に成功していようが年収が高かろうが、モテない人はモテないし。
エスム しかも、男女の恋愛の場合なら、結婚して子どもを作って家族になることで、恋愛市場とは違った次元で居場所を見つけることができるけど、ゲイの場合は一生恋愛市場から降りられないから。
ホイみ だから、トシをとって、自分の価値がどんどん下がっていくことの恐怖は、ちょっと可愛くてモテちゃった子のほうが、実は深刻なのよ。(笑)
生きづらい人たちを歌で応援したい
エスム そんな現実の中で、ドラァグクイーンとして歌って踊って、みんなに楽しんでもらえることは自分のアイデンティティよね。
ドリアン わたしはどんな格好をしていてもモテるけど(笑)、正直な話、女装するとゲイの間ではモテなくなっちゃう。ゲイは往々にしていわゆる《マッチョ》なタイプが好きだから。でも、ドラァグクイーンとしてみんなから拍手をもらうことで、強力な自己肯定感が得られるのは確かよね。
エスム それにつけても、八方不美人が『婦人公論』さんに取材していただけるなんて。近頃は、ゲイに対する世の中の反応も大いに変わってきているって感じますね。同性婚が認められるようになったり、LGBTに関する社会の理解も深まっているし。
ドリアン 本当に! わたしたちドラァグクイーンが、青空のもと、昼間からショッピングモールで歌うなんて、昔だったら絶対にありえない。わたしが2丁目デビューした頃だって、ドラァグクイーンはもっとアンダーグラウンドな存在だったから。
ホイみ いろんなことができる可能性が広がったので、わたしたちゲイにとってはありがたい話です。コロナが落ち着いたら、定期的にライブもやっていきたい。今って、世の中がすごく窮屈で、決められた常識の枠の中にすべてを押し込めようとしている感じが強いので、その枠をわたしたちの歌で破れたらいいなって。
ドリアン そもそもドラァグクイーンってそういうもの。「男らしさ」や「女らしさ」を笑い飛ばして、「こうあるべき」という世間の価値観を揺り動かしていくのがわたしたちの役目だから。
エスム 世の中の「正しい」とか「普通」から逸脱した存在だもの。
ドリアン 新曲の「地べたの天使たち」でも、「いろんな生き方がある。何が正解かなんてべつに決めなくていいね」って歌っています。世間の「正しさ」からはずれて、生きづらさを感じている人に、ぜひ聞いてほしいなぁ。
エスム わたしたちだって、まさかメジャーデビューできるなんて思っていなかったもの。「自分の人生なんて、こんなもの」とあきらめている人たちに、「いやいや、最後まで何が起こるかわからないよ」っていうメッセージを一人でも多くの人に伝えていけたら。
ドリアン そのためには、まず『紅白歌合戦』に出なきゃ!
ホイみ そうそう、紅組でも白組でもどちらでもOKなので、あとはNHKさん次第。(笑)
エスム 大晦日のスケジュールは空けてあるので(笑)、スタンバイはバッチリです!
11/07 12:30
婦人公論.jp