篠田直哉(メモ少年)「ロバートの元ストーカーからテレビ局員に。自分なりの100点を目指してきたから、明日死んでもいいなと思える」
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◆1分でわかる「メモ少年」篠田直哉P・プロフィール
1996年大阪府生まれ。小学生の頃からお笑いグループ・ロバートの熱狂的なファンで、ライブでメモを取り続けたことから「メモ少年」と呼ばれるようになる。より近づくために東京の法政大学に進み、学園祭の実行委員として3,000人以上を動員するロバートの学園祭ライブを成功させる。その後、メ~テレ(名古屋テレビ放送)に入社し、念願のロバート・秋山氏との番組制作やメ~テレ60周年記念番組『秋山歌謡祭』を実現。テレビ番組『激レアさんを連れてきた。』に出演したことがきっかけで、書籍『ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~』を出版。さらに『秋山歌謡祭2024』で社長賞を受賞した。
秋元康や女優・杏も注目するZ世代のコンテンツ・クリエイターとして活躍中。テレビ局の公式SNSアカウントは番組名で発信されるのが一般的だが、メ~テレは「メモ少年」名義でYouTubeチャンネルを展開。1,000万回再生を達成している。現在、メ~テレ(名古屋テレビ放送) コンテンツビジネス局 副主事。28歳、独身。
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◆史上初・メモ少年を採用した人事部長にインタビューしてみた
はじめてのメモ少年は「他よりおとなしい子だった」
池松:今回は「篠田さんを採用した人事の方」というオファーをしたら、人事部長の遠山藤男さんがいらっしゃるので驚きました。7月に人事部長になられたそうで、おめでとうございます。
遠山:ありがとうございます。
池松:人事部長になる前もずっと人事畑だったのですか?
遠山:いえ、初めて人事に異動して担当した採用が、ちょうど篠田くんの年でした。しかも、私が人事部に来て初めて企画したインターンシップだったので、特に記憶に残っています。
池松:最初に会った篠田さんの印象は?
遠山:最初にお会いしたのは、東京支社での就活試験前のインターンでした。個性が際立つ就活生が多かったですね。その中で篠田くんはあまり目立たなかったのです。ただスッキリとした顔つきのイケメンだったので、その点は記憶に残っていますが、どちらかというとおとなしい印象でしたね。「平均的な子」というイメージでした。
池松:それは「アクが弱い」って感じですか?
遠山:今思うと、篠田くんはすべてを考えて行動していたように思えます。たとえば、徐々に個性を出すタイミングや、様子を見て自分の強みを発揮するポイントを見計らっていたのでしょうね。我々は知らず知らずのうちに、篠田くんのその戦略にハマっていったのかもしれません。
採用的には「なに枠?」
池松:人事採用的には「なに枠」で見られていたんでしょう?採用には、そういう枠があると思うのですが。
遠山:篠田くんは「段々と評価を上げていくタイプ」でした。選考が進むにつれて、自己表現が出てきたのです。制作チームからは「メモ少年」という面白い子がいると情報が入っていましたが、採用試験ではフラットに見ることが重要だと思っています。だから、その情報がありつつも先入観を持たないように、固定観念なしで評価しました。しかし、篠田くんはエントリーシートや面接でも「自分がメモ少年だ」とは前面に出さなかったのです。我々としては、その「武器」で勝負してくるだろうと予想していたのですが、意外にもそこには触れてこなかった。むしろこちらから、その話を聞きに行くような展開になりました。面接が進む中でも、そのスタンスは一貫してましたね。しかし掘り下げていくと、ネタがたくさんある。聞けば聞くほど、どんどん出てくるという感じでした。
池松:えー!それって秋山歌謡祭のコンテンツ構成そのものじゃないですか!ひょっとして僕も乗せられていたかもしれませんね。(笑)
篠田:いやいや、そんな計算してないですよ!(笑)。たぶん、後から振り返って今の仕事ぶりを見て、美化されているような気がします。(困り顔)
遠山:いま振り返ると、特にインターンのときに「その場でやるべきことを前向きにやろう」という姿勢が際立っていました。放送局でコンテンツを作る人間は、自発的に動くこともあれば、仕事を与えられることもありますが、どちらでも「どうすれば良くなるか」を考えることが求められます。その点では、確実に目立っていました。
池松:そこにビビッと来たんですね。人事部の視点で言うと、それはどう表現しますか?
遠山:「自分の好きなことを胸を張って『これが好き!』と言える人」ですね。「それ面白いですね!」とか「コレを僕は好きなんです!」と言うのは、簡単なようで意外に難しいですよね。私自身も、自分の趣味を「これが好き!」と堂々と言うのは難しいと思います。
「自分のスキを胸を張ってスキ!と言える人」とは?
池松:才能と能力は別物だと思います。能力は努力して身につけるもの、才能は生まれつき持っている嗅覚のようなものだとすると、「自分のスキを胸を張ってスキ!と言える人」とは、どのような才能を持っているのでしょうか?
遠山:これは現時点だから思う事ですし、繰り返しになるのですが、篠田くんの才能は「これが面白い!これが好き!」と、明確に言い切れる点だと思うのです。経験を積んでも、これは意外と難しいことではないでしょうか。特にテレビのような「正解のない世界」で、自分の企画に対して「これが絶対に面白い!」と言い切るのは簡単ではありません。でも篠田くんは、そのブレない信念をキラキラした笑顔で、技術陣や先輩に対しても堂々と伝えていくのです。そこが本当に素晴らしいと思います。
池松:それは「解像度が高い」ということなのでしょうか?好きを堂々というのと「解像度」がちょっと結びつきにくいかなとも。好き!だけじゃなく緻密で論理的なことが「解像度」だと思うので
遠藤:そうですね。例えば、『秋山歌謡祭』のような大規模な番組を実行するには相当なストレスがあるはずですが、篠田くんの現場は、美術さんや技術さんが一つの方向に向かっているのが印象的です。彼の論理的な説明力が非常に高いからこそ、そうした一体感が生まれているのだと思います。当初は、みんな彼の「スキ!」という情熱に引き寄せられたのだと思っていましたが、実は論理的な説明力とコミュニケーション能力が、彼を支えているのだと感じます。
人事部長が語った「篠田Pから教わったこと」
遠山:人事に異動して採用を担当した頃、採用って何だろうと考えていました。当時は「採用には正解がない」と思っていましたが、今では一つの正解として「自分の好きなことを胸を張って言えること」があるのではないかと感じています。もちろん、それが唯一の正解ではありませんが、採用の一つの答えだと思っています。
池松:もう少しお聞きしたいのですが、篠田さんに、先輩としてどんな大人になってほしいですか?
遠山:まずはメ~テレに所属し続けていただいて。(全員笑)
池松:同感です。(笑)
遠山:ただ、ここがゴールではなく、次のステージに進んでほしいと思っています。私が入社した頃、「30代はすごく面白いよ」と言われましたが、日本中にたくさんある放送局の中でも、これだけ若くして成果を出せた人は少ないと思います。これからが楽しみですし、篠田くんが「面白い!」と思うことをどう実現していくのかを見たいですね。
池松:私の経験から言うと、20代で突き抜けた人には独特の個性があると思います。そこに対して期待はありますか?
遠山:今と変わらず「これが面白いです!」と言い続けてほしいですね。研修などで「会社に不安はないですか?」と聞かれても「特にないです」と答えるような、前向きなマインドを持っているので。
池松:人事部長には言いにくいかもしれませんが、メ~テレは秋山歌謡祭などいい意味で若手が自由に仕事をやらせてもらえる「緩い」会社に見えます。しかしテレビ局という仕事は、決まった正解がない分、人間力が試される職場だと思うのですが?
遠山:そうですね。「緩い」とよく言われますが、私は、社員の精神年齢が比較的高い、つまり大人な集団だと感じています。各自が仕事への誇りを持って働いている人が多い会社だと思っています。
池松:つまり「社員を信頼している」ということですね。先日、篠田さんが同世代のYouTubeディレクターである中山詩都さん※のYouTube※に出演されていたのですが、そのなかで「うちの会社は自由」とおっしゃってました。なので「好きなことを仕事にしている人」が「好きなことを仕事にしたい人」にスキルをシェアする、ゆるくリラックスした雰囲気のトークイベントなど開催するのは魅力的ではないかと。来年の『秋山歌謡祭』への予告に繋がるかもしれません。若い世代からも共感される篠田さんがいるのは大きな存在ですね。ほんとに良かったですねぇ。
※中山詩都さん:株式会社Diary 動画ディレクター。しゅんダイアリー就活チャンネル、キャリアJUMP【第二新卒 転職】など担当。自らYouTube「なかやましづ」チャンネルを運営。
※秋山歌謡祭プロデューサーのメモ少年と"映像業界"ぶっちゃけトーク。YouTube×テレビ業界のリアルを話します!
YouTube:https://youtu.be/azgJqinPm0g?si=3bi5F_NHBIPKL5CI
遠山:はい。(小声で)居てくれてよかったぁ。(全員笑)
篠田Pの「アタマの中のメモ少年」
池松:子どもの頃から、今の自分を想像できましたか?
篠田:それはなかったですね。
池松:人生の急展開で、ときどき辛くなることはありませんか?
篠田:これは記事に使っていただけるかわかりませんが…「あした死んでもいいかな」と思うくらいの感覚で生きています。
池松:その感覚は、具体的にどのような感じなのでしょう?
篠田:無責任に仕事をしているわけじゃなくて、後悔なく生きているというか…うまく説明できませんが、最近ずっとそう感じています。結婚や子どもができたら変わるかもしれませんが、今の段階では、自分がやれることは全部やったかな、と。言語化が難しい、不思議な感覚なのですが。
池松:そこはもっと掘り下げたいですね。
篠田:「テレビ局に入って番組を作るなんてすごいね」とSNSでよく言われるんですが、僕のスタートはロバートを追っかけて来たことです。でも、自分がロバートのメンバーになるとか、お笑い芸人で売れるという道は見えませんでした。しかし、大学を出て吉本興業に入れば、マネージャー職になれるのは時間の問題だと考えていたのです。いや、「絶対なれるはず」と思っていたのです。だからテレビ局に入って、自分がやりたい企画を番組で実現することも可能だと思っていました。世の中には、そのような状況のときに途中で諦める人もいますが、僕は「できる」と思ってやってきました。28歳までにやりたいことは、全部やれた気がします。
池松:凄い。それは羨ましいなぁ。
篠田:なんか、嫌味に聞こえましたかね…。
池松:ごめん。いや、そんなことは無いです。心がまっさらなシーツみたいです。シミも黄ばみもない感じというか。素敵です。これは重要な部分ですね。篠田さんの本質に触れた気がします。
篠田:「あした死んでもいいかなと思うくらいに」というのは、28歳までに自分で立てた目標が達成できたからだと思います。これはあくまで「自分の中の100点」であって、世の中にはもっと高い…例えば400点を目指す人もいるでしょう。たとえば、大谷翔平選手のようにもっと上を目指している方々もいるわけです。でも、自分なりの100点を目指してきたからこそ、ここまでの人生をやり切れたとでも言いましょうか…。
池松:篠田さんの心の内を聞けた気がします。それは、今後会社の環境によって変わるかもしれませんね。
篠田:どうでしょうか。人任せにせず、自分で決めていきたいと思っています。これまでもそうやって生きてきたので。
篠田Pの信じる生き方とこれから
―対談インタビューを振り返って
人事部長の遠山さんは穏やかに話される方です。丁寧に説明していただいたのが印象的でした。がしかし、テレビ局らしく明るく元気な面もお持ちです。秋山歌謡祭2024「MEMOTO!〜Shisyunki〜」のバックでギターを抱える姿から、メ~テレの多様多才ぶりを痛感しました。テレビという仕事は「創意工夫した明るさ」が大事だなと。
そして「未来は若者のためにある」ということを改めて実感した日でした。「目の前のことに全力を尽くす」と言うのは簡単ですが、実際には難しいことです。そこで、篠田Pの「スキになれる力」とは何か? 一言で要約するのは難しいのですが、あえて5つのポイントにまとめました。
スキを突き詰める篠田Pの「5つの力」
1:スキだからこそ、前向きに取り組む姿勢
2:普通の感覚を大切にする意識
3:素早く多くの人に届けるためのスキルを磨く
4:「演者(タレント)愛」を持つことの重要性
5:コンテンツ(番組)への深い愛情
120分にわたる対談インタビューを通して、私が皆さんにお伝えしたかったのは、「メモ少年のアタマの中」という壁打ち形式のドキュメンタリーなのかもしれません。これは篠田さんの人生のほんの一部ですが、その本質的な部分に少しでも触れられたのではないかと感じています。このような企画をしたのは、篠田さんには人を惹きつける魅力があるからです。それはYouTube1000万回再生や社長賞など、多くの成果を出すことで評価が高まっても天狗にならず、一般の感覚を失わないある種の「マトモさ」から生じるのではないかと思うのです。これはテレビ局で働くからこそ培われた「視聴者視点を忘れないスキル」だけとは思えません。ですので「正解のない時代」に記事に書くべきことだと考えました。情報が大量に溢れて正解が見えない時代。特にSNSでは「陰謀論」や「仕組まれた熱狂」に踊らされがちです。
だからこそ、通常のインタビューより長い120分もの時間を割いて頂き、対談インタビューをお願いしました。構成上ここに書ききれなかった話が沢山あります。いつか機会があれば皆さんにお伝えできればと思います。
篠田さんが、これからも楽しくて記憶に残る、新しいコンテンツを生み出し続けることを期待しています。この記事をきっかけに、読者の皆さんにも「篠田さんのアタマの中のメモ少年」をより深く感じていただければ嬉しいです。本当に感慨深い時間でした。皆さんと一緒に、来年の「秋山歌謡祭2025」を楽しみに待ちたいと思います。
09/18 07:00
婦人公論.jp