橋幸夫「わずか1年での引退撤回。80歳を超えたって、学ぶことも、自分を変えることもできる。脱水からの脳梗塞も乗り越え、僕はまだまだ歌います」
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脳梗塞で入院生活も経験し
続けていた書画を学び直したいと入学した大学は、現在3年生。順調に単位を取っています。
通信制なのでキャンパスに通うことは滅多にありませんが、先日は授業の一環として、20人ほどで小田原の江之浦測候所に行きました。ギャラリーなどを見学してレポートを提出すれば、2単位もらえる。こんな体験も新鮮です。あと1年での卒業を目指しています。
また、僕は2017年に現在の妻と再婚し、18年には静岡県熱海市に住まいを移しました。ここに暮らすようになってから、地元の方との交流が増えたのも、僕にとっては新鮮で。
熱海署の「特別安全対策監」として、地域の防犯活動にも協力しているんです。地域には高齢の方が多く、誰かが行方不明になったという放送が入ると、警察署に電話してその後の安否を確認したりして。
長年、警察官や機動隊を応援する歌をたくさん歌ってきたので、地元の警察の役に立てるのはとても嬉しいですね。熱海署に行くと、警察官の方が僕に敬礼してくれるんだよ。
今、一番気になるのは、やっぱり体調管理かな。健康維持のために、短い時間でもウォーキングや水泳をしたりと、運動を心がけています。
ところが、昨年11月、プールで泳いだ後に軽い脳梗塞を起こしまして。その日は20分くらい泳いでから、サウナや風呂に入りました。ところが更衣室で服を着ようとしたところ、どうしても服のボタンを留められない。ズボンのファスナーも上げられない。
僕がなかなか出てこないので、妻が心配して電話をかけてきた。すぐに更衣室に来てもらって、いったん帰宅しました。
その後、両手を開いたり閉じたりすることはできるけれど、片方の腕がだらんとしていることに妻が気付いてくれて。看護師をやってましたから、体のことには詳しいんです。
すぐに病院へ行き、MRI検査を受けたところ脳梗塞が見つかり、即入院となりました。点滴で様子を見ながら、5日間の入院生活。呂律が回らないということもなく、自覚症状のほとんどない脳梗塞だったのですが、多少の記憶力の低下がありました。完全に調子が戻るまでには3、4ヵ月かかったかな。
何が原因だったかというと、医師いわく、脱水だったようです。僕は長年の習慣で、普段からあまり水を飲まなかった。水分をとらないのが一番いけないと言われました。
今は常に水を手元に置くようにしています。読者の皆さん、ぜひ意識して水分をとりましょうね。(笑)
「最近、変わったね」と妻に言われて
昨年、僕の引退宣言にともなって、「二代目橋幸夫」のオーディションをしました。約1000人の応募者から選ばれた3人組のユニット「yH2」とは今、コンサートで同じステージに立っています。
まだまだ彼らに教えたいことは山ほどあるけれど、ファンの方たちも喜んでくれていますし、復帰後の僕のそばに若い彼らがいてくれるのはラッキーだなと思って(笑)。ステージを一人で背負っていくのは大変ですが、今後は彼らが僕をフォローしてくれることでしょう。
当初、「私は橋幸夫のファンだから、yH2は応援しないわよ」と言うファンの方もいました。でも僕と一緒にステージに上がっているうちに、いつの間にかyH2のことも応援するようになっちゃってね。
僕ら4人で歌った「恋のメキシカン・ロック」でノリノリになったあるファンの方は、休憩時間にロビーでメンバーにひょいっと近づいて、「あの歌、よかったわよ」と声をかけてくださったとか。
さらに、姉御肌の方などは、「あの歌のときはこういうふうに動いたら」とアドバイスしてくださった。みんなファン歴が長いですから、もう身内感覚なんです。こういう交流のしかたは珍しいかもしれないけど、嬉しいじゃないですか。
yH2の3人は「橋幸夫」の二代目ですから、歌以外にもいろいろ教育しなくちゃなりません。共演する方に楽屋でしっかり挨拶するという礼節の基本から、昔僕が出演した映画を観ることまで、幅広いよ。彼らが歌や演技を通して、橋幸夫流を引き継いでくれたら本望だよね。
そう言えば、復帰宣言の直後、ファンの方から事務所に電話がありまして。
不安げに「どうしましょう……」とおっしゃるのでスタッフが話を聞いたら、「また橋さんにお会いするためにお出かけするから、お化粧しなくちゃ、服も買いに行かなくちゃ。大変だわ!」。これだって、嬉しいじゃないですか。(笑)
最近はステージが終わった後に、グッズを買ってくださったファンの方とツーショット写真を撮るようになりました。昔はそんなことしなかったんです。
握手会で、「ずっとファンでした。頑張ってください」と言われても、僕は黙ったままでした。今は、「え、そうなの。どちらからいらしたの?」なんて、つい会話が弾むこともあります。
「最近、変わったわね」と妻から言われるんです。外出時に変装めいたことをせずに、堂々とファミレスにも行くようになりました。買い物にもついて行きます。デパートの食品売り場へも。
世間や人との距離が縮まったんですかね。優しくなったとも言われますが、自分の意思で、人にもっと優しくしようと思っているんですよ。
僕はまだまだ歌います。新曲のレコーディングとか、やりたいこともいっぱいある。80歳を超えたって、学ぶことも、自分を変えることもできるんです。伸びしろはまだまだある! 僕はそう信じています。
09/06 12:31
婦人公論.jp