教職43年以上。厳格な父に育てられたあばれる君。軽い気持ちでギターを買ったら、父がまさかの行動を…
* * * * * * *
【イラスト】息子と飛行機で2人旅。夢が叶っている瞬間。僕だって、ついこないだまで小学生だったのに。
厳格な父に育てられました。
僕は社会科の教員免許を持っていますが、教師という仕事はすごいものだと感じています。
その職業を43年以上続けたのが僕のお父さんであります。
福島の冬は厳しく、大雪も降るしフロントガラスも凍ります。
布団から出ることに恐怖すら感じる日でさえも、お父さんは同じ時間に同じ表情で出勤していきます。
僕はよく「身体を張っていてすごいね」とお褒めの言葉をいただくことがあるのですが、僕からすれば、全国各地の教職の方々のほうがよっぽどすごいです。
朝の動き
お父さんの朝の動きは完全に決まっていました。
無表情で顔を洗い、四角いメガネをかけて、神棚に向かって二礼二拍手一礼。
その手を打つときの音は、家中に響き渡るような破裂音でした。
神様への気持ちが、そうさせているのでしょうか。
ギターを買ったときのこと
僕が自分のお小遣いでギターを買ったときのことです。
間髪をいれずに父は、「音楽だけでは食べていけないことを詠ったポエム」を書いて僕の部屋のドアの下からすべり込ませてきたのです。
「野球をやっていた息子が音楽に走った」という書き出しでした。
それを読んで僕は涙が出ました。
(軽い気持ちでギター買っただけなのに。)
真面目だった父は、僕がギターを買ったことがショックだったのでしょう。
写真を怖がる明治時代の人と同じ心情でしょう。
父の反応
その後から大きな買い物をするたびに父の反応を想像して気にするようになってしまいました。
どんなポエムが飛んでくるのかビクビクしていたのです。
スケボーを買ったときは目立たないように戸棚の奥のほうにしまいました。
ギターであんな量の投書をしてくるのだからスケボーなんか見たら、「文明開化の音がする!!」と叫んで切腹する勢いです。
とにかく父を刺激しないようにしました。
そんな父も丸くなった背中で、今日も同じ時間に神棚に向かって手を打っています。
※本稿は、『自分は、家族なしでは生きていけません。』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
07/03 12:30
婦人公論.jp