NHK『土スタ』に柄本佑さんが登場。大河ドラマ『光る君へ』撮影舞台裏を語る「自己否定しっぱなしの僕に、母・和枝ちゃんは言った〈『がっかりに慣れること』が役者の仕事〉」

「何よりの宝物は、巨匠たちの作品に出演できたこと、そして憧れの俳優さんと共演し、おしゃべりできたこと――。」(撮影:宅間國博)
2024年6月21日のNHK『土スタ』〈『光る君へ』特集 in 京都〉に俳優の柄本佑さんが、吉高由里子さんと共に登場。撮影の舞台裏や役への思いなどを語ります。今回は、好きな音楽や憧れの俳優、出演作について語った『婦人公論』2021年9月14日号のインタビュー記事を再配信します。

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コミカルからシリアスまで、作品ごとに別人のような表情を見せる柄本佑さん。巧みな演技で常に注目を集めていますが、自分の出演作を観ると落ち込むことが多いと言います(撮影=宅間國博 構成=篠藤ゆり)

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【写真】母の前で、僕はまだまだだなと思ってため息をついたら

映画ファンから 俳優の道へ

僕は何か好きになると、「徹底的にハマる」タイプです。今は、K-POP女性アイドルの音楽ばかり聞いています。きっかけは、共演者の方がTWICEの動画を見せてくれたこと。

その後ほかのアーティストも好きになって、ITZY(イッジ)、MAMAMOO(ママム)、IU(アイユ ー)、aespa(エスパ)、TRI.BE(トライビー)とか……、この話、一度始めると止まらなくなりますよ。(笑)

もともとアイドルは大好きなんです。10代の頃は薬師丸ひろ子さんや松田聖子さんに憧れました。今だったら、「フィロソフィーのダンス」っていうグループが好きですね。

もうひとつ、子どもの頃から一貫してハマり続けているのは映画です。両親ともに俳優(父は柄本明さん、母は故・角替和枝さん)で、家でも映画の話ばかりという環境だったので、自然と僕自身も熱烈な映画ファンに。そんな自分が俳優の道へと進んだわけです。

何よりの宝物は、巨匠たちの作品に出演できたこと、そして憧れの俳優さんと共演し、おしゃべりできたこと――。ひとりの映画ファンとして、なにより嬉しかったですね。

2011年に亡くなった原田芳雄さん、大好きな石橋蓮司さんや岸部一徳さんとも仕事でご一緒しました。子どもの頃から映画の中でよく見ていた方との共演は、ものすごく緊張しますが、その緊張も大事だと思っています。

共演はできなかったけれど、憧れている俳優さんも大勢います。森繁久彌さんや三木のり平さん、渥美清さん。なかでも小林桂樹さんは僕の目標です。シリアスからコメディまで幅広く演じていらっしゃるけど、口の端でニヤリと笑いながら、ちょっとシニカルに自分を見ているような演技に、ものすごくしびれます。

ただ、それぞれ個性のある方たちですから、自分に同じことができるとは思っていません。僕は僕なりの演技を探求するしかない。

役者としての悩みは深いですね。デビューして18年経ちましたが、いまだに自分が出演した作品を観ることには慣れなくて。アラばかりが目につき、作品を客観的に観ることができないんです。自らの演技に落ち込んで反省するんですが、反省が終わらないうちにまた自分が出てきて、また落ち込んで。(笑)

高校時代に出演したデビュー作の映画『美しい夏キリシマ』を、4年ほど前に観る機会がありましたが、まったくの新人で、しかもまだ子ども。もう、恥ずかしくて、息が苦しくなるくらいでした。

「待つこと」と「がっかりに慣れること」

演技に関しては、「そんなに自分に期待することもないのに」と思いつつ、「おまえ、何やってるんだ」と、毎回、自己否定しっぱなしです。だから、「次こそは」と思って十分に準備して現場に入るし、クランクアップすると「今回、あそこだけは少しできた気がする」という期待を持つんですけどね。でも試写を観ると、やっぱりがっかりする。その繰り返しです。

以前、母ちゃんにそういう話をしたら、こう言われました。「なに言ってるの。『待つこと』と『がっかりに慣れること』が役者の仕事だよ。私だって、ずっとがっかりし続けているんだから」と。

何十年とキャリアを積んできた和枝ちゃんでさえそうなんだから、僕はまだまだだなと思ってため息をついたら、和枝ちゃんは「でも、腐るなよ」と声をかけてくれた。そんなふうに、若い頃から先輩の言葉を身近に聞ける環境だったのは、ありがたいことだと思います。

スランプの原因は「自意識過剰」?

俳優だけでなく、映画監督や脚本家だって、クリエイティブな仕事にはこういう悩みがつきものなのでしょう。でも「悩む」ことが、創造につながっているのかもしれません。

ある監督さんが、「書きたいものがない」「書けない」という状態が積もり積もって、ある時、そこからなにかがこぼれだす瞬間がある。それを待つしかないと言っていました。だから、ひたすら向き合い続けるしかない、と。なるほど、と思いました。

スランプの原因はいろいろあると思いますが、「自意識過剰」はそのひとつかもしれません。映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』で僕が演じている漫画家の俊夫も、そんな一面があります。

俊夫は結婚5年目で、黒木華さん演じる妻の佐和子も漫画家です。彼はかつてヒット作を世に出しましたが、スランプに陥り、今では佐和子のほうが売れっ子。時々、佐和子のアシスタントをするくらいで、しばらく自分の漫画を描いていません。

俊夫にとって、次の作品に期待するファンや出版社からのプレッシャーは、ものすごく大きいんでしょうね。アイデアのかけらが見つかった気がして、いざ原稿に向かおうとしても、自分が何を描けるのかがわからない。そういう心理状態は、僕もけっこう身近に感じられます。

男は愚かで女は美しい

俊夫はあろうことか、佐和子の担当編集者と不倫をしてしまいます。しかも、彼には主体性がなく、巻き込まれるようにいつのまにか……これ、一番よくないですね。自覚無き不倫(笑)。本当にダメな男だと思います。

でも、監督は最初の打ち合わせの際、「ダメな面がある俊夫だけど、悪者にはしたくない」とおっしゃった。「どこか憎めない人物にしたい」と。彼を演じるうえで、そのギリギリのラインを意識していました。

売れっ子漫画家時代の俊夫が一瞬だけ出てくるんですが、どんな外見にするかをヘアメイクさんと相談しました。今の俊夫はぼさぼさ頭で無精ひげだけど、過去の俊夫はどういう顔をしていたんだろうと考えながら、いろいろ試してみて「これだ」と決まった時に、自分の中で俊夫像が定まった気がします。

一方、俊夫の不倫に気がついた佐和子は、なんと自分たちと同じ状況の夫婦の漫画を描き始めるんです。しかも、物語の中の妻は、若い男と恋愛関係に……。それを盗み見た俊夫は、不倫がばれているかもしれない恐怖と、妻の裏切りへの疑念で精神的に追い詰められていきます。どこからが現実でどこからが創作なのか、右往左往する俊夫の姿をご覧ください。

一方、佐和子の潔さ、確信を持って突き進むかっこよさも感じていただけると思います。そういうかっこよさって、女性はみんな持っているものなんじゃないでしょうか。僕は基本的に、「男は愚か。女は美しい」と思っていて。バカみたいなこと言ってますね(笑)。でも僕は、本当に根っこからそう信じているんですよ。

風吹ジュンさんは同級生のお母さん

義理のお母さん役の、風吹ジュンさんも本当に素敵な方。風吹さんとは個人的に縁があって、実は同級生のお母さんなんです。「あいつの母ちゃん」みたいな感覚が強いから、現場で「風吹さん」と呼ぶのは、ちょっと照れがありました。

現場では、いつもゆったり、柔らかい雰囲気でいらっしゃる。その佇まいはすごく勉強になりましたし、共演できて嬉しかったです。

撮影は、遅い時間までかかることもあって、みんなで日の出を見るなんていうこともありました。結構ハードではありましたが、現場にはとても穏やかな空気が流れていて、それが作品にも表れているような気がします。

不倫している夫役の僕が言うのもなんですが(笑)、不倫を描きながらドロドロにならず、爽やかな風が吹きぬけるような作品です。ぜひ、この夫婦の結末を見届けてください。

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