高嶋ちさ子さんが『A-Studio+』に出演。超せっかちな私生活とは「折れない心は〈気の抜けない家〉で育まれたもの」

「テレワーク演奏の動画は、900万回というすごい再生回数となり、音楽というものは、私が感じているよりもはるかに人の支えになっているのだと実感しました」(撮影:大河内 禎)
2024年3月15日の『A-Studio+』に高嶋ちさ子さんが登場。小学校からの同級生が語る幼少期のエピソードや、超せっかちという私生活が明かされます。今回は、高嶋さんがご自身の家族について語った『婦人公論』2020年7月14日号のインタビュー記事を再配信します。


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『婦人公論』2020年7月14日号の特集「〈家庭内ストレス〉に負けない!」内でインタビューに応えた高嶋ちさ子さん。毎年100本近くのコンサートに出演している高嶋さんだが、歯に衣着せぬトークが人気で、テレビやラジオなどのメディアにも引っ張りだこ。家で感じるストレスは仕事で発散してきたそうですが、今年は状況が一変して――(構成=平林理恵 撮影=大河内 禎)

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【写真】両親はダウン症の姉を守るために私を産んだ

3食作る以外の家事はしないと宣言

今回のコロナ禍で世の中は大きく変わってしまいました。私の仕事も、予定していたコンサートが次から次へと中止になり、結局28本が飛んでしまった。何もできないことに苛立って、音楽家なんていらない職業なんだ、わが子はいざという時に必要とされて、淘汰されない職業につかせなければとまで思ってしまいました。

でも、そのうちに、音楽には気持ちを盛り上げる力があるじゃないか、と思い直したんです。それで、自粛生活をしている演奏家の仲間と、テレワーク演奏をした動画をYouTubeにアップしました。そうしたら、900万回というすごい再生回数で、こちらがびっくり。音楽というものは、私が感じているよりもはるかに人の支えになっているのだと実感しました。

「元気が出ました」「またやってください」なんて言われるとうれしくて、調子に乗って5本、6本とアップしていくうちに、はたと気づいたわけですよ。あれ? この私は誰に元気にしてもらえばいいのかな? って。(笑)

というのも、家族4人が家にこもって過ごし始めてからというもの、私は3対1で責められ続けてきたんです。うちの夫はすごく細かくて、「生ごみの捨て方が悪い」「ペットボトルの飲み残しをそこらじゅうに置くな」と、うるさい姑状態。家族でトランプをすれば、息子たちから「ママはムキになりすぎ」「大人げない」とあきれられるし。

「私だって、コンサートができなくてイライラしてるんですけど……」とふて寝していたら、今度は夫が「キミはだらだらしていていいね」なんて嫌みを言う。悪いかよーって言い返しましたけど。

確かにこの自粛期間は、「家族のために3食を作る以外の家事はしません」と宣言していたので、ほかは夫にまかせきり。夫は、せっせと片づけに精を出してくれました。食器棚や納戸の中に入っているものを全部外に出して、ばーっと並べて、「これいるの?」「これ使ってる?」と、ひとつひとつ聞いてくる。

子どもたちにも「これでまだ遊ぶ?」「もう使わないよね」と。おかげで家の中は結構きれいに片づきました。会社に行くよりもよほど役に立つので、会社辞めてずっと家にいてほしいです。(笑)

時間を無駄にすることに罪悪感を覚える

長男は13歳、次男は11歳です。長男は昨年アメリカの学校に留学したのですが、今回のことでまさかの一時帰国に。留学前、彼は反抗期に入っていて、私に向かって「うぜえ」「うるせえ」と口答えばかりだったから、「どうぞ、どうぞ」という感じで送り出しました。

それが、すっかり素直ないい子になって帰ってきたんです。「人から何かしてもらったら『ありがとう』って言わないといけないんだよ」と下の子に諭しているのを聞いて、もうびっくり。次男はすかさず、「どの口が言ってんだよ!」って言い返していましたが。

長男のもともとの性格は、パパ譲りでもの静か。そんな子が、「また家族と暮らすことになるのなら、あんなに怖がる必要はなかったなあ」と渡米当初をしみじみ振り返るのを聞くと、12歳にとってはさぞ大変な経験だったろうと胸がキュンとします。

一方、次男の性格は私そっくりで落ち着きがなくうるさい。似たもの同士ですから、ずっと一緒にいると鬱陶しいったらないですよ。

兄弟は仲が良いので、一緒にバドミントンをしたり、同じマンションの友達とオンラインゲームをしたり。夫は家から一歩も出なくても大丈夫な人。外出自粛に一番痛手を受けて腐っていたのは、私でした。

三度の食事作りもだんだんしんどくなってきて。朝から、「僕はフレンチトースト」「俺はパンケーキ」とそれぞれ違うことを言うから、「うちはレストランじゃないんだよ」と(笑)。兄弟でオンライン授業の時間が違って起きる時間もばらばらになったので、朝食は各自勝手に食べてもらうことにしました。

私はせっかちで、時間を無駄にすることに罪悪感を覚えるタイプ。幼い頃から親が決めた分刻みのスケジュールに従って過ごしてきて、「ヴァイオリンの練習をしないと殺される!」なんて思ってた。そのせいか、大人になった今も、美容院で髪を切ってもらっていても、同時にお弁当を食べながら仕事の資料を読んだりします。座っているだけで何もしないなんて、時間の無駄だと感じてしまうんです。

高嶋さんのインタビューが掲載されている『婦人公論』7月14日号

そんな私が、このコロナ禍で、一日中ベッドでゴロゴロとか、3食すべてウーバーイーツで調達とか、初めて経験することの連続。以前なら、自分を責めていたんじゃないかと思います。でも今回ばかりは、自分の力でどうにかできるわけではない。最近は、いい意味であきらめがついて、「何もしないでいることって、こんなに楽なんだ……」とびっくりしています。

ある時、仲良しのママ友に電話で「ずっと家から出られず死んじゃいそう」とグチをこぼしたことがあります。そしたら、「何を言ってんの。あたしたち、いつもこうよ」「母親って、毎日家で子どもが帰って来るのを待つものなのよ」と言われて。ああ、そうかと。

家の中でじっとしているのが苦手な私にとって、仕事で出かけられることがどんなにありがたいことだったか。こんな時にグチるのはわがままだと気づきました。自粛生活を体験しなかったら、まったく思い至らなかったと思います。

厳しい両親のもとで強くなった

もしも母が生きていたら、「こんな時こそヴァイオリンの練習をして、腕を磨きなさい」と言ったかもしれない。でも、母はもういなくて、私は人生で初めて罪悪感なしに練習を休むという経験をしました。手を少し痛めていたので、休養するにはいい機会だったんです。振り返れば、楽器を修理に出して物理的に弾けない時以外、練習しない日なんてありませんでした。そうやってせかせか生きてきたんだなあ、と改めて思います。

育った環境の影響が大きいのでしょうね。わが家はなんというか、「気の抜けない家」でした。私には6つ年上のダウン症の姉・未知子がいて、両親は「この娘を守るために」、1つ年上の兄・太郎と私を産んだんです。幼い頃から「私たちが死んだ後、未知子の面倒はあんたと太郎で見るのよ」と言われて育ったので、そういうものかと納得していました。え? 別にショックじゃなかったですよ。

私の、ケンカっ早くて負けず嫌いな性格は、姉を守らなくてはという使命感みたいなものも影響しているのかな。姉をいじめるヤツは許さないという気持ちはずっとありました。だって、私は任務ありきで生まれてきたわけですから。

両親は私に特に厳しかったです。私は勉強が全然できなかったんですが、ストレートに「バカ」「ダメな子だ」と言われ続けました。たまに家族以外の人に「かわいいね」と褒められても、「あなたに人間としての魅力がないから外見を褒めただけだ」と諭されて。

何をやっても褒めてもらえないので、いつの頃からか、「面白い人間にならなくちゃ」と思うようになりました。褒められなくても、面白ければ注目してもらえるだろうと。

そんな努力もむなしく、私があまりにもうるさいから、家族旅行に姉と兄だけが連れて行かれ、取り残されたことがありました。しかも旅先で録った8ミリビデオを私の前で観るんです。悔しくて悔しくて、あの時は泣きましたね。それを見てみんな笑ってた。ひどいでしょ。(笑)

よくグレなかったね、と言われれば、確かにそうかもしれません。でも、今となっては、おかげで強くなれたと感謝しています。母はいつも「子どもを甘やかすのは百害あって一利なし」と口にしていました。私に特別厳しかったのは、「あなたは大丈夫な子だから」とも言っていた。自分でも、私は強いし、両親や姉から頼りにされているんだ、と思っていました。

おっとりした長男、ムードメーカーの次男

私は母ほど厳しくありませんが、2人の息子に対して同じような育て方をしているかもしれません。

以前、長男が運動会の徒競走で1位になれなかった時、「そんな子は家に入るな」とったことがあります。なぜなら、彼は1位がとれる実力のある子なんですよ。でも、競争心や目標に向かって練習を重ねる地道な努力が足りない。おっとりしていて、パパにそっくり。だから、そんなヤツは家に入れない、とハッキリ伝えました。なぜ、私がそこまで怒ったのか、長男はわかってくれたと思います。

それを聞いていた夫は、「キミに会うまで、志や目標を持って生きることの大切さを僕に教えてくれた人は誰もいなかった。僕はもう変われないけれど、長男には君が伝え続けてほしい」なんて言っていました。こんな大切なこと親が子どもに教えなくてどうする? と私は思うのだけれど。(笑)

一方次男は、私に似て負けず嫌いです。徒競走でも、練習に練習を重ねて頑張ります。それで1位になれなかったとしたら、本人が一番悔しがっている。だから、私に言うことはありません。2位だってかまわないんです。

そうそう、先日テレビで、「次男がアニメ『ワンピース』のナミっていう女の子のおっぱい画像ばかり見ようとしていた」と発言したら、「かわいそう」「学校でいじめられるのでは」という批判が相次ぎ、SNSが炎上してしまいました。

実はこれ、次男が小学校2年生の時の話なんですけど、朝起きてiPadを開いたら、おっぱいの画像がいっぱい出てきた。私は気にしないタイプですが、夫が2人を呼んで、当時小4の長男に「ちょっといくらなんでも早いよ」と言ったんです。そしたら、長男が次男に「だから、言っただろ」って。実は次男だった。え、お前なの? と、みんなで大爆笑。

テレビで話したのは、私が彼の話をすることを彼自身が喜んでいるからですし、家族みんなで笑える話だからですよ。あの子は家族のムードメーカーで、学校でも友達に慕われこそすれ、いじめられる子じゃない。「ナミのおっぱいのこと、みんなあんたがかわいそうだって」と言ったら、「まじウケる」と大笑いしていました。

わが家では、互いに「バカ」「バカ」と言いまくっていますが、それには理由があるんです。なんでも、夫は人から「バカ」と言われることがないまま成長し、30過ぎて私から初めて言われた時に、ものすごいショックを受けたんだとか。「子どもにはそんな思いはさせたくない」ということで、生まれた時からバカと言い続けていますから、大人になってショックを受けることは防げるでしょう。(笑)

テレビに出ている自分の姿を見て反省

ヴァイオリニストの私がバラエティ番組などにも出演しているのは、最終的にはコンサートにたくさんのお客様に来ていただきたいからです。この人のコンサートは楽しそうだな、と思ってもらいたい。そのきっかけを作るチャンスをいただいているので、テレビのお仕事は大事にしたいと思っています。でも、場合によっては家族にも迷惑をかけるから気をつけなくちゃいけないな、とも。

先日、私が出演しているテレビ番組を家族揃って観たんです。普段はそんなことしないんですが、自粛生活中だったので。もう、びっくりですよ。私、自分があんなに下品に大爆笑したり、長嶋一茂さんのことをぼろくそにこきおろしたりしているなんて思わなかった。ショックを受けて、息子たちに「ねえ、ママ、いつもこう?」と聞いたら、「いっつもだよ」。「家でもこう?」「ううん、家ではもっとひどい」。

でも次男は、「このままでいい」と言ってくれます。「俺、ママはこうじゃなきゃイヤだから」って。

一方、長男と夫は、「やめてほしい」と思っているみたい。夫は、テレビに出ている私は見たくない、ネットニュースも読みたくないんですって。そのかわり、クラシック音楽の殿堂「サントリーホール」でコンサートを開いたあとはむちゃくちゃ優しい。音楽家としての私だけが尊敬されていて、それ以外は蔑まれている感じです。

外出自粛で、突然家族4人で過ごすことになったこの数ヵ月。仕事ができずこもりっきりで、鬱々として息が詰まりそうになったけど、悪いことばかりではなかったかな。4人でゆっくりトランプやUNOをするなんて、以前だったらありえなかったと思うんです。

息子たちが将来何になりたいかについて、落ち着いて話すこともできました。いつもなら頭ごなしに、「お前は◯◯になれ」とか、「決められないなら、ママが決めるわ!」みたいな感じだった。

今回は彼らの話をゆっくり聞き、「なりたいものがみつからないなら、なれるものから考えてもいいんじゃないの?」なんてアドバイスをしました。そんな時間を持てたことが家族みんなにとって幸せだったと思います。

長男は秋にはアメリカに戻る予定なので、それまでの時間を大切にしたいです。次男はもうね、着々と女たらしに育っていて……。聞こえるか聞こえないかのささやき声で「オレ、なんでこんなにママのことが好きなんだろう」なんて言うの。それを聞いて長男は、「オエ~、お前、よくそんな気持ち悪いことが言えるな」って。「うるさい! 黙れ!」と、怒鳴る私を夫は笑っています。こんな賑やかな毎日って、悪くないです。

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