仲里依紗ら人気俳優たちが脚本・監督する短編映画シリーズ。予算は同じ、本人が出演、25分以内…『アクターズ・ショート・フィルム』の魅力
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多種多様なラインナップ
人気俳優たちが自ら脚本・監督する短編映画シリーズ、『アクターズ・ショート・フィルム』。
今回は仲里依紗、福士蒼汰、森崎ウイン、千葉雄大が作品を発表。ホラーからヒューマン・ドラマ、ミュージカルと多種多様なラインナップだ。
このシリーズ、製作にあたりルールがある。
1 時間は25分以内であること
2 予算は全作同じ
3 題材はオリジナルに限る
4 監督本人も出演すること
今回も4人の監督は上記4つのルールをクリアして撮りあげた。では一足早く、彼らの作品を紹介したい。
千葉雄大監督『ハルモニア』
冒頭、俳優である語り部、よしあき(一ノ瀬颯)がインタビューを受けている。このシーンの画面は本編のドラマと関係なく素晴らしい。背景の暗緑がかった色艶、語る一ノ瀬の茶系の衣装が、これから始まることへの引力がある。撮影の花村也寸志と照明の志村昭裕の技術の賜物だ。
映画はよしあきの仲間、キャリア職だろうゆりねえ(ヒコロヒー)、子を授かったもんちゃん(工藤遥)、ゲイであるさと(山崎樹範)が集い、語り合うことで前へ進んでいく。仲睦まじい4人の点描を序盤に見せ、さとの母が事故死したことで、再び葬式の後に皆が集まる。
互いに抱えた不安、出産や不妊、性差などを語り合う。昨年亡くなった脚本家・山田太一のドラマを思い出す展開だが、特定の言い回しや抑揚の規制もない(山田ドラマにあるような関係の解消というヤマ場も排除される)だけに、現代的なナチュラルさを意図した会話劇が進む。フワッと、人の善性を肯定し、良い意味で青臭さを残した作りに仕上がっている。
こうしたスタイルの劇は、非常に俳優陣に負担のかかるものだ。それを一ノ瀬のキュートさ、工藤の揺れ、ヒコロヒーの不思議な貫禄が推進力になっているのだが、特筆すべきは万年青年俳優、山崎の芸達者ぶりだろう。
数多くのドラマと映画に出演経験のある懐深さと、子ども番組『ワンワンパッコロ!キャラともワールド』での優しいお兄さんぶりなど、演技と人柄が寄り合ったことで、今回は短編ながら当たり役を演じたと思う。
本作は、こうした4人の演者から良質のパフォーマンスを引き出した千葉雄大の演出力を楽しむ作品だろう。
福士蒼汰監督『イツキトミワ』
ボーイ・ミーツ・ガールの物語を見事にまとめ上げたのが本作だ。
清水尋也演じる一葵はグループ展に自らの絵を出展する。一葵は建設会社で働きながら、障害のある弟をケアする日々を送り、その傍らで絵を描いている。ある日、彼の絵を見にきた芋生悠扮する三羽と知り合うのだが……。
この短編、福士蒼汰という「爽やかな好青年」的パブリックイメージで触れるとケガをする。前半の淡い恋路は非常にナチュラルに主演2人や小澤征悦や木村了の共演者が演じ、恋愛で生じる多幸感の表現も抑制されている。
一葵と三羽がLINEを交換する際のぎこちなさ、居酒屋での会話のテンポなど、ドキュメンタリーすれすれの流れで切り取り、積み重ねる。
荒廃、喪失、再生への祈りのドラマ
そして、どう恋路が進むのかと気になったところで、黒澤明『生きる』やギャスパー・ノエ『アレックス』のような時間操作が途中でなされる。
長編なら時間の逆行はエフェクト作用やドラマ内の説明により、スムーズに観客に伝わるけれど、その説明をするいとまもない短編では勇気がいる。脚本段階からの狙いだったようだが、福士はエフェクトに頼らず、俳優の力で時間遡行を敢行する。
過去と現在を区切るスターター伊澤彩織の凄みは必見だ。彼女が缶チューハイをあおり、タバコを吹かして三羽と会話する場面だけで全てが理解できるというのは驚きだ。けれど、見る側は福士が俳優陣の演技力を信じる姿勢に感動している暇も与えられず、すぐさま荒廃、喪失、再生への祈りのドラマに連れ去られる。
これまで絵を描く様は『ミステリアス・ピカソ 天才の秘密』や『美しき諍い女』などの映画が描写していたが、ラストの清水尋也の姿は嘘が限りなく存在せず、ただ観ることで感情を動かされる。役を超越して「人がキャンバスに向かうこと」を示す、素晴らしい場面だ。
福士作品は短編ながら作品の構成の冒険、自然で言葉少ない会話、そしてクライマックスのキャメラ、演出、俳優の充実において非常に完成度の高い作品になっている。
03/12 12:30
婦人公論.jp