永江朗「ベストセラーを読み解く」高齢女性“犯罪増加”のからくり 利権、癒着‥‥警察の闇に迫る

永江

 法の番人とは警察や検察、裁判所、そして法務省を指す。「これが今とんでもないことになっている」という告発と警告の書である。

 冒頭の文章が衝撃的だ。

〈一般的には、犯罪が行われるから警察などが取り締まると考えられている。しかし犯罪学・刑事政策学は、取り締まるから犯罪が発生すると考える〉

「悪いことをするとお巡りさんに捕まるよ」

 子供の頃、親にこう言われた読者も多いことだろう。だが現実は逆だ。警察に捕まったので(あるいは裁判で有罪が確定したので)、罪を犯したということになる。あなたを犯罪者にするかどうかは法の番人たちが決める。彼らは公明正大だといえるだろうか。

 警察はマスコミを使って印象操作を行っていると著者は指摘する。一例は「警察白書」に関する報道だ。毎年、新版が出るたびに「サイバー犯罪急増」「テロの脅威、現実に」などという見出しで記事が出る。読者は「犯罪が増えている」「日本も安心していられなくなった」と思うだろう。

 ところがこれがトリックだ。実は犯罪の認知件数は減少している。交通関係を除いた刑法犯の認知件数は03年が約279万件だったのに対して、21年は約57万件。なんと5分の1ほどに激減している。つまり治安は、ものすごくよくなっているのだ。

 もちろん「警察白書」のデータを細かく読めばそれはわかるはずだ。だが、警察が報道各社に向けてブリーフィングしたり記者会見する時は、できるだけ悪化している印象を与えるよう情報の切り取りが行われる。そして、新聞記者はそこを突っ込めない。

 なぜ、治安が悪化しているかのような印象操作を行うのか。それは「人件費も含めた予算獲得のためだ」と言うが、まさに犯罪的!

 刑務所に入る高齢女性が増えている。これは統計上も事実だ。というと「高齢化社会だからね」「困窮し、孤立する人も多いからね」と納得しそうだが、これにも裏がある。

 まず法改定。高齢女性の犯罪の圧倒的多数は万引きである。以前の法律では窃盗には懲役刑しかなかった。だから万引きで懲役にするには、かわいそうだからと始末書で終わることが多かった。

 ところが法改定で罰金刑が導入され、起訴される人が増えた。罰金刑を受けると前科になる。2度目にやると必ず起訴され、懲役になる人も増える。

 つまり、万引きする高齢女性は昔からいたが、法制度が変わったので刑務所に入る人が増えたのだ。73歳の女性が1984円の日用品を万引きして裁判を受け、次に95円のおにぎりを万引きして刑務所に入ったという実例が出てくる。「罪は罪。法律に書いてあるんだから従うしかない」という意見もあるだろう。

 だが、パーティー券のキックバックを裏金にして警察からも税務署からもおとがめなしの政治家がいる一方、95円のおにぎりで刑務所に入れられるのは、なんか釈然としませんね。

《「腐敗する『法の番人』警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う」鮎川潤・著/1078円(平凡社新書)》

永江朗(ながえ・あきら):書評家・コラムニスト 58年、北海道生まれ。洋書輸入販売会社に勤務したのち、「宝島」などの編集者・ライターを経て93年よりライターに専念。「ダ・ヴィンチ」をはじめ、多くのメディアで連載中。

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