「やだぁ~、絶対帰りたくないんだけど!」にしおかすみこ(49)が認知症の母、ダウン症の姉との同居を後悔していない“シンプルな理由”とは

 黒いボンデージ姿に「にしおか~すみこだよ!」の決め台詞。「SM女王様キャラ」でブレイクしたにしおかすみこさん(49歳)は現在、認知症&糖尿病を抱えた母、ダウン症の姉、酔っぱらいの父と4人で暮らしている。

【本人写真】認知症の母、ダウン症の姉、酔っぱらいの父と4人で暮らすにしおかすみこさん

 東京での1人暮らしを止めて実家に戻ったと聞くと、つい“過酷な介護生活”を想像してしまうが、にしおかさんは現在の生活を「ただ一緒に住んでいるだけ」と表現する。

 大喧嘩や衝突もしながら4年間続いている4人暮らしは、一体どのようなものなのだろうか。家族との日常を綴った著書『ポンコツ一家2年目』を発表したにしおかさんに、リアルな生活ぶりと心中について伺った。

にしおかすみこさん ©文藝春秋 撮影・杉山秀樹

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──にしおかさんがご実家に戻るきっかけは、久しぶりに帰った実家が“ゴミ屋敷”化していたことだったそうですね。一体どんな状況だったのでしょう?

にしおか 1年ぶりくらいに実家に帰ったら、床が砂と埃だらけになっていて、カーペットはカビや虫の死骸が散乱している状態だったんです。食べ残しやカップ麺がテーブルに出しっぱなしで、生ごみの臭いがする中に母がぽつんと座っていました。

――1年ぶりの帰省とのことでしたが、連絡は取っていたんでしょうか?

にしおか 会っていない間も、メールや電話でのやりとりは割としてたんです。メールでも電話でも母はしっかりしてました。本当はどこかに予兆があったかもしれないですが、私は異変に気づけなかったんですよね。で、帰ってみたら明らかに様子がおかしくて。ネガティブな言葉を言わない母が「頭カチ割って死んでやる!」と言ってきたりもして、ビックリしたしショックでした。

「やだぁ~、絶対帰りたくないんだけど!」

──にしおかさんにとって突然の変貌、それはショックを受けますね……。どのように受け入れていったのでしょう。

にしおか 受け入れた……いや、あまりにもわちゃわちゃとしていて、受け入れきれていないまま実家に戻った感じなんですよね。うちには母だけじゃなくて姉と父もいるから次々といろんなことが起きるし、あんまり考える暇もなく毎日が過ぎていって今に至ったような……。

──気持ちが追いつかないくらい、突然いろいろなことが押し寄せた。

にしおか 実家に戻った時、私は都内で引っ越しをする予定で、すでに物件も決めてあとはハンコを押すだけというタイミングだったんですよ。実家の状況を見てビックリしたけど、数日以内に予定通り引っ越しするか、実家に帰るかを決めないといけなかったんです。あのときはコロナ禍の真っ最中で、宅配業者さんも「いつ営業できなくなってもおかしくないから早く決めて」っていう感じで。元の家の退去日も決まってたから、とにかく焦りました。

──都内で長く1人暮らしをされていて、千葉の実家に帰ることに抵抗はなかったですか?

にしおか めちゃくちゃ抵抗ありましたよ! 帰る準備をしてるときも「やだぁ~、絶対帰りたくないんだけど!」と思ってました。腹がくくれていたわけでもないけど、母の様子は認知症の知識がない私でもすぐに“なんかおかしい”と思うレベルでしたし。うちは母がずっと大黒柱でした。その母が立ち行かなくなったら「あれ、これから3人どうするんだろう?」って。

──芸能界のお仕事は都内も多いと思うので、関東とはいえ仕事に影響があったのではないでしょうか。

にしおか もともと一発屋だし、浮き沈みは何回も経験してるから、仕事が減るとかで思い詰めたりとかはなかったです。そもそも当時はそんなに仕事があるわけでもなくて、引っ越しも少し小さいところへ移ろうと思ってたくらいですし。でも文章を書く仕事だったら、実家でもできるかなとかは考えていました。もちろん、それだけで簡単に生活できたりはしないんですけどね。

「誰だって認知症になったら不安だし怖いじゃないですか」

──ご実家に戻られて現在4年。「あのとき一緒に住むと決めてよかったな」と思いますか?

にしおか 何とも言えないです。母がよく笑うようになったので、一緒に笑えた時はホッとしますね。 母と姉と私の3人でよくトランプのババ抜きするんですけど、ババ抜きって3人でしてもおもしろくないじゃないですか。でも母と姉はすごい笑うんですよ。そういうのってちょっと幸せだなと思ったり「なんかいいな、悪くないな」と感じます。しかも姉はババを手札の上に出すから、絶対ババってわかっちゃうし(笑)。

──そう聞くと幸せな時間に感じます。現在、お母様の認知症はどんな状況なのでしょう?

にしおか 今ちょうど要介護認定の手続きを進めていて、この間、申請を出しにいったんですよ。

――ご本人は病状についてどんなふうに認識しているんですか?

にしおか 「自分は認知症じゃないと思ってる」ように見えるときもあるし「自分が認知症だとわかってる」と思うときもあって、日によるんですよね。私も直接聞いたことはないので、本当はどうなのかわからないんです。

 でも、誰だって認知症になったら不安だし怖いじゃないですか。だから普段はどっかで押し込めて、本当に忘れてるんだと思うんですよ。だけどやっぱり前と同じように生活できなくなってることに直面すると、その押し込めたフタが開いちゃうのかなって。

「ママはちゃんとしたほうがいいのかな? それともボケたほうがいいのかな?」

――本当に、理解したり認めたりするのが難しいご病気ですよね。

にしおか でもね、何であれ、母はいつも真剣ですよ。

 私が要介護認定の申請をしに行くときに「ママの健康状態を見に来る人がいるから、その予約を取ってくるね」と説明したんです。そしたら「その人が来る日はママはちゃんとしたほうがいいのかな? それともボケたほうがいいのかな?」って聞いてきたんですよ。「いつも通りでいいよ」とは返したんですけど「おや、そんなコントロールができるのか?」と(笑)。

──認知症を演じるかどうかのご提案を……?

にしおか たぶん母は「認定を受けられれば家族が何かラクになるんだろう」って思って、そのために自分がボケてるほうがいいのかなって考えたんですかねえ?

 認知症の診断を受けてからもう4年くらい経つんですけど、こんなふうにしっかりしてるときは「やっぱり誤診だったりしないかな?」って思ったりするんですよね。そんなわけないし、自分でも往生際悪いなとは思うんですけど。

──難しい質問ですが「今の生活が続けられなくなるかも」と考えたりすることはありますか?

にしおか どうなったらダメになるのかは、実はあんまりわかんないんですよね。実家に戻ってすぐの頃は「これ以上母がいろいろ忘れちゃったらどうなるんだろう」って思ってたけど、それから症状が進行した今でも、バタバタですけど生活は成り立ってますし。

──では「介護が苦しくてやめたい」と思うことも?

にしおか あんまり介護してるっていう意識がないんですよね。今はまだ、迷子になったり、寝たきりっていうわけでもないから「とりあえず見守ってます」みたいな状態というか。「家事で疲れたなぁ」と思うことはよくありますけど、 介護をやめる・やめないっていう考え方がそもそもないかもしれないです。

──確かにお聞きしていると、介護しているというよりも「ただ一緒に住んでいる」感じがします。

にしおか あ、本当にそれです。ただ一緒に住んで、ただ一緒に疲れてるみたいな。

──それってどの家庭でもあることですもんね。ただ、疲れが伴うなかでもご家族に優しくできるにしおかさんは本当にすごいと思います。そうしたくてもできない、という人も多いのではないかなと。

にしおか 私も、優しくできないときなんて山ほどありますよ。でも無理をせず、できる範囲でいいと思うんです。やっぱり「自分ファースト」が大事だと思うし、自分が元気じゃないと家族も幸せにできないから。

 だって……私は今49歳、もうすぐ50歳の元女王様キャラの一発屋の独身女性がですよ? 自分に優しくしなかったら誰が優しくするんですか!(笑) だからまずは自分に優しくしようと思ってます。

「私も腹が立ったら『クソババア!』って」“ポンコツ”な家族との同居生活を4年続けるにしおかすみこ(49)の「我慢」との付き合い方〉へ続く

(佐々木 笑)

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