「テレビドラマ界を、そして日本を世直しする一作に」作家・池井戸潤×俳優・遠藤憲一、新ドラマ『民王R Inspired by 池井戸潤』を語る

 コワモテの総理大臣の中身は、実はダメ息子だった⁉︎ 奇想天外な入れ替わりを描いた池井戸潤異色の政界コメディ小説『民王』。2015年の連続ドラマ化では、総理大臣・武藤泰山を遠藤憲一、その息子・翔を菅田将暉が演じ、話題を呼んだ。

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 その作品が、9年ぶりに『民王R Inspired by 池井戸潤』として復活する(テレビ朝日系列・10/22より毎週火曜夜9時~)。今度の入れ替わり対象は「全国民」? そしてタイトルに掲げられた「Inspired by池井戸潤」とは──。謎が謎を呼ぶ新作について、そして折しも衆議院選挙の真っ最中での放送開始を前に、池井戸・遠藤両氏が語り合う。

池井戸潤さんと遠藤憲一さん。文春文庫公式キャラクター「ぶんこアラ」と文春文庫版『民王』をもって

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「実は台本、読んでないんです」「マジですか?」

遠藤 9年ぶりに『民王』をやりますよと言われたとき、単純にうれしかったです。大好きな作品だったし、今度は息子じゃなくて毎回いろんな人と入れ替わると聞いたときも、「へぇ、面白そう」って。でも、いざやってみると、予想以上に大変で! 毎回毎回、子どもや若者、おばあちゃんなど、まったく違う属性の人と入れ替わってるので、本当に、俺の役者人生で今がいちばん大変なんじゃないか? っていうくらい。

池井戸 ハハハ。先ほど現場を見せていただきましたが、確かに大変そうですね。実は僕、台本を読んでいないので、内容、ぜんぜん知らないんです。

遠藤 (目を剥いて)マジですか?

池井戸 ええ。プロデューサーに「民王は 好きにやってね よろしくね」という川柳つきでOKしたくらいで。今回も一応、1本のプロットを考えて渡しはしたんですが、そうしたら1話完結の、ぜんぜん違う脚本が上がってきたんです。ああ、こういうふうにやりたいんだ、だったらそれでやるのがいいんじゃないかと。

遠藤 すごいなぁ。原作者なのに。

池井戸 だから、クレジットは「原作 池井戸潤」ではなく、「Inspired by池井戸潤」。今、原作の取り扱い方などを含めて、日本のテレビドラマ界はちょっとピンチの状態にあるような気がするんです。でも、たとえ原作通りでなくても、僕のつくった『民王』の立て付けを使ってクリエーターの人たちが自由に想像力を発揮し、面白いドラマにしてくれたら、それが日本の映像文化の底上げに少しはつながるんじゃないかと。

遠藤 おお、すげぇプレッシャー(笑)。でも、本当に面白いものになると思いますよ。『民王R』は1話ごとに泰山が入れ替わった人たちが抱える問題がテーマになるんですが、池井戸さんの作品の根底には、常に社会についての視点がありますよね。そういうものを、楽しみながら考えていける作品になるんじゃないかと。ちょうど今、選挙戦の真っ最中だし、政治に関心が集まる中で放送が始まるなんて、本当に「持ってる」ドラマだと思います。

お二人に質問・現実の総理と入れ替われるなら?

遠藤 総理に?……いやぁ、なりたくないなぁ。池井戸さんは?

池井戸 (食い気味に)なりたくない。

遠藤 でも、総理って、なりたくてたまんない人がなるんですよね。石破さん(茂。現首相)だって、4回か5回チャレンジしてるんでしょ?

池井戸 政治家は2世、3世の人たちも圧倒的に多いですからね。

遠藤 うーん……。きっと、ほとんどの人はものすごく純粋な理想から政治家を目指したんでしょうね。でも、どこかでしがらみのようなものに取りつかれて、「ま、このくらいはいいか」みたいなことをやらかしちゃったりして。

池井戸 政治資金の流れとか、お金のことはクリアにしないといけないですよね。でも、それ以外のプライベートなことは、ある程度は不問にしたほうがいいと思うんです。こんなことで政治を止めるのか? って思う場面が、最近、多すぎて。

遠藤 いやぁ、やっぱ俺は考えられないな……何をやっても叩かれるし、叩かれても淡々としていなきゃいけないのって大変そうだし。泰山だって、最初はぜんぜん立派な人間じゃなかったですよね。

池井戸 そうですね。でも、現実の政治家が劣化しすぎたのか、何だか泰山がいい首相に見えてくる(笑)。『民王』の世界がまともだっていうのは、ちょっとシャレになってないですね。

遠藤 ハハハ! 確かに泰山は純粋だし、正直ですよね。『民王R』でも、彼はこれまでの価値観にはなかった考え方に次々ぶつかるんですが、「何だこれは!」と憤りながらもそれらを自分の中に受け入れて、政策につなげようとする……。俺も偉そうなことは言えないけど、彼のように国のため、国民のためという気持ちを貫き通せる人が出てきてくれたら、素晴らしいだろうなと思いますね。

いけいど・じゅん 1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』で直木賞、20年野間出版文化賞、23年『ハヤブサ消防団』で柴田錬三郎賞を受賞。最新刊は『俺たちの箱根駅伝』(小社刊)

 

えんどう・けんいち 1961年東京都生まれ。83年、ドラマ『壬生の恋歌』で俳優デビュー。シリアスからコメディまで幅広い映像作品に出演。最近の出演作に映画『スオミの話をしよう』『赤羽骨子のボディガード』、ドラマ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』『君が心をくれたから』など

(大谷 道子/文春文庫)

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