MIRRORギョン・トウ(姜濤)がニューヨークで魅せた“ヒップホップダンサーの夢と恋”〈日本未公開の大ヒット作『ニューヨーク協奏曲』〉

20年の時を経て映画化されたベストセラー小説『ミルクティーを待ちながら』…新世代の台湾アイドルはなぜ起用されたのか?〉から続く

 リム・カーワイ監督をキュレータ―に迎えてリニューアルした「台湾文化センター 台湾映画上映会」。その第6回が9月25日、台湾文化センター(東京・港区)で開かれた。

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 日本でも人気のアイドルグループMIRRORのギョン・トウ出演の未公開作が上映されるとあって会場は賑わいを見せた。

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 この日上映されたのは2023年製作の『ニューヨーク協奏曲』。上映後のトークイベントには、本作のユー・シェンイー監督がニューヨークからオンラインで、会場には日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』を昨年製作した藤井道人監督が登壇した。

『ニューヨーク狂騒曲』台湾版ポスター

『ニューヨーク協奏曲』
ニューヨークに暮らす3組の台湾人たちを描いた、オムニバス映画。犯罪や裁判の現場で働き、ニューヨークに残るか故郷に帰るかを悩む、通訳の女性(ビビアン・ソン)。夢と現実の狭間で悩む若いヒップホップダンサー(ギョン・トウ)。心を病んだ息子との生活に苦悩する若い夫婦。3つの物語が大都会で少しずつ接しながら展開する。監督:ユー・シェンイー(俞聖儀)/出演:ビビアン・ソン(宋芸樺)、ギョン・トウ(姜濤)、ジャック・ヤオ(姚淳耀)、マンディ・ウェイ(魏蔓)/2023年/台湾/120分/©️Rumble Picture Co.,Ltd. Man Man Er Co.,Ltd. Taiwan Creative Content Agency.Taipei Film Commission.

生きた通訳のアルバイトの経験

ユー・シェンイー(以下、ユー) 日本での上映とても嬉しく思います。

藤井道人(以下、藤井) 3本のショートフィルムが1つの作品に、そしてニューヨークに溶け込んですごく素敵な作品でした。僕は4歳までニューヨークに住んでいましたし、祖父は台湾の人なので、とてもご縁を感じました。主人公のひとりビビアン・ソンさんにもお会いしたことがあります。(ビビアンが演じる)母国語でない言葉を操る通訳を主人公にするというのは、とても難易度が高いと思うんです。どのように選ばれたんですか。

ユー 私はニューヨークで映画の勉強をしているときに、通訳のアルバイトをしていたんです。あるとき、通訳を主人公のひとりにすれば、ニューヨークのいろいろな面を描けるのではないかと思いつきました。それでまず通訳を主人公にした短編を撮って、それが長編に発展したわけです。2つ目と3つ目の話は、私がニューヨークで暮らしているうちに見聞きした様々な移民の話がもとになっています。

キャスティングの理由

藤井 この作品はニューヨークの地下鉄のロケなどドキュメンタリー的に撮られていますが、撮影はどのくらいハードルが高くて、それをどうクリアされたのでしょうか。

ユー 実際にはそれほど難しくはなかったですね。きちんと申請すれば大抵は大丈夫です。確かに地下鉄は申請が通りにくいので、ドキュメンタリー的に撮りました。たとえば映画でギョン・トウに反則切符を切る警察官が出てきますが、パトカーや警官の制服が出てくるような場合は、地域の警察に申請をして、警官立ち合いのもとで撮影しなければなりません。それは、俳優が演じる警察官が本物だと間違われないためなんです。

リム・カーワイ(以下、リム) ギョン・トウは香港の人ですが、なぜ彼に台湾人の役を演じさせようと考えたのでしょうか。

ユー 彼にやってもらった役は、ダンスが出来て、演技が出来て、台湾華語を話せなければなりませんでした。台湾やアメリカでも俳優を探していたんですが、なかなか見つからなかった。そこでプロデューサーがギョン・トウを推薦してくれました。私は彼のことを全然知らなかったのですが、オンラインで彼と話してみて、とてもスクリーン向けの魅力があると感じました。そして彼はダンスも演技もできるし、なまりのない台湾華語を話すこともできるんです。

藤井 ビビアン・ソンさんもこうした異国の中で戦うという役を見たのは初めてでしたので、とても新鮮で素敵でした。

 本作は映画内の時間軸では最初のほうの場面が最後に再び描かれる“円環構造”を持っているが、観客からその狙いについて質問が出た。

ユー こうした3つの物語がある映画をいくつか観て参考にしたのですが、なかでも『ビフォア・ザ・レイン』(1994)という作品は時間と人間が交錯する構成をしていて、とても面白いと感じました。900万人が住む大都会で人びとが行きかうさまを表現するのにもいいと思いました。

ギョン・トウは自転車に乗るのはとても上手です

 また、ギョン・トウのファンだという観客から「彼の演技が観られて大変嬉しかったが、公園で自転車を漕ぐシーンで、(乗り方が)すごく不安定に見えたのですが、あれは演出なのでしょうか」と質問が出ると、ユー監督は爆笑。

ユー 彼は実際には自転車に乗るのはとても上手です(笑)。ですが、一緒にいた彼の恋人役の女優が、あまり自転車に乗るのがうまくなかったんですね。彼女に合わせてゆっくり漕がなければならなかったので、不安定に見えたのかもしれません。

リム おふたりにとって台湾映画の魅力はどういうところにあるのでしょうか。

藤井 去年台湾の仲間たちと映画を作りました。ホウ・シャオシェン(侯孝賢)やエドワード・ヤン(楊德昌)の映画を観てきましたが、台湾映画には言葉にならない温かさがあって、それは皆さんも感じると思います。また、若い監督たちは今までとは違った新しい台湾映画をつくろうとしている。そういう様子を見て、僕も元気をもらっています。

ユー 台湾映画の根底にはいつもヒューマニズムがあります。若い作り手たちはいろいろなジャンルの映画に取り組んでいますが、その中にもこのヒューマニズムという伝統は脈々と受け継がれていると思います。

(週刊文春CINEMAオンライン編集部/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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