「#俺たちの菅波」でセカンドブレイク…『おかえりモネ』には坂口健太郎こそ必要だった“本当の理由”

「セカンドブレイク」という言葉がある。説明するまでもないとは思うが念のため説明すると、一度ブレイクして落ち着いてから、もう一度大きな波が来ることである。二度目を体験する人は実力も運もホンモノ。二度ブレイクすることを目指して芸能人は日夜爪を研ぐ。

【画像】壁ドン、顎クイ、バックハグ…やはり「恋愛もの」でセカンドブレイクを果たした“朝ドラ俳優”

 今、セカンドブレイクの波に乗っているといえば坂口健太郎であろう。“朝ドラ”こと連続テレビ小説『おかえりモネ』から、昨今の人気枠・火曜ドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』への出演と活躍の場が続く最近の坂口。

『モネ』で演じた菅波光太朗がSNSでハッシュタグ「#俺たちの菅波」として盛り上がったことで確変した。言わば “#俺たちの菅波の変”である。

23歳での俳優デビュー

 坂口健太郎は19歳でファッション誌「メンズノンノ」のモデルになり、23歳のとき俳優デビュー。朝ドラ『とと姉ちゃん』(16年)ではヒロイン(高畑充希)の初恋の相手を演じて女性ファンを獲得し、最初のブレイク。翌年は映画『君と100回目の恋』(17年)などで泣ける恋愛ものにも出演した。

 バレー部活動で鍛えたのびやかな身体、ギラギラしない爽やかな顔立ち、柔らかなささやき声という武器に、“読書好き“という知性面をプラスし、このままいわゆる「イケメン」路線を歩むかと思いきや、同年、映画『64-ロクヨン- 前編後編』(16年)の若き新聞記者役で第40回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。18年『シグナル 長期未解決事件捜査班』で連ドラ初出演、このドラマは21年映画化もされた。

坂口健太郎 ©AFLO

 19年の主演ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』など社会派ものやミステリーなどで硬派な役が増えていく。舞台にも挑み、そこではチェーホフの『かもめ』、シェイクスピアの『お気に召すまま』と古典の名作中の名作をしっかり抑える堅実さ。このまま渋い作品に手堅く出演していくのだろうかと思ったら、2021年、再び朝ドラに出演したことで空模様が変わってきたように感じる。

『とと姉ちゃん』からの“変化”

 ファーストブレイク作『とと姉ちゃん』での坂口はヒロインと別れる役だった。序盤で別れがあり終盤にも登場、再び別れが……。その無念をはらすかのように『モネ』ではどうやら相手役として最後まで完走しそうな気配である。

『モネ』で坂口が演じた役はヒロイン・百音(清原果耶)の恋人・菅波光太朗。ただし「#俺たちの菅波」は決して甘いムードを醸す人物ではない。優秀な医者ながら理屈っぽく、他者との会話がぶっきらぼうになりがちなキャラである。百音にも堅苦しいことばかり言うのだが、そんな彼に「キュン」となる視聴者が続出した。

 例えば、百音との会話から彼女の誕生日を割り出し百音の勉強に役立つ本をプレゼントするような菅波にドン引きする人もいる反面、そんな菅波が愛しく見える人もいた。百音自体がそんな菅波をいやがることなく、ぶっきらぼうな言葉の裏の他者を慮る気持ちを汲んでうまくつきあってきた。

ふいにやってくる「どうしたの?」

 そして視聴者もまた菅波のコミュニケーションが得手でない感じが嫌いではなく、むしろ他人事ではないように感じた人もいるようで、多くの人がはらはらしながら「#俺たちの菅波」を応援してきた。

 菅波はじつに慎重で、百音と正式につきあうようになるまでに出会いから2年半もかかった。一歩前進したのはコインランドリーで洗濯している間の48分間、蕎麦屋でランチすること。2年半もかけて蕎麦屋でランチとはなんという歩みの遅さであることか。

 彼女の身体に触れることもなかなかない。理論派だからまず頭で考えて行動するため、性急さがない安心感の反面、もどかしさもある。そんな彼があるとき、長らく丁寧語で百音と話してきたところふいに「どうしたの?」とタメ口になるギャップは、計算ではないからこそ萌えた。やがて百音とは遠距離づきあいに。これは、すれ違いものの金字塔『君の名は』の令和版か(ドラマの舞台は平成だが)と思うような展開になる。

坂口健太郎だからこそ演じられた

「#俺たちの菅波」は不器用でもどかしく恋愛のべたついたところのない、どこまでいっても理性で互いを理解して最善の道を模索している。この役は坂口健太郎だからこそ演じられたといっていいだろう。

 真面目で堅苦しい人物を戯画的に表現するやり方は、過去のエンタメにはよくあったことである。それに比べて菅波は真面目で堅実であることをからかわれるのではなく、尊重されるべき人物として演じている。そしてこれこそが坂口健太郎のセカンドブレイクの鍵である。若さゆえの情熱で突っ走る恋愛の力がファーストブレイクとすると、セカンドブレイクは理性でコントロールする人間愛にまで昇華させた魅力。

 それを表現するのは新人では難しい。『64』などで社会を見つめる役を演じ、チェーホフやシェイクスピアで人間の奥深さを学んできた坂口だからこそ、菅波のような人物の複雑な魅力を演じることができた。ちなみに『モネ』以前に坂口は、東日本大震災を題材にしたヒューマンラブストーリー『そして、生きる』(19年)に出演し、“笑っているのに泣いて見える”という複雑さをもった人物を演じている。

 繰り返すが、恋愛ものというと、俳優の素の瑞々しさをキラキラと提供するものが多いが、新鋭の時代を超えて様々な仕事を経験した上でもう一度、恋愛ものをやることで一歩進んだ深みのある恋愛ものができる。坂口健太郎のセカンドブレイクはまさにそれだった。

 恋愛もの=若手の登竜門というイメージがあり、実力を積み重ねてきた俳優が何もわざわざやるものではないように思うことが筆者にはあるのだが、実はそうでもなく、恋愛の機微とは演技巧者だからこそ演じ甲斐のある仕事なのではないだろうか。

「恋愛もの」でのセカンドブレイクは他にも……

 恋愛ものでセカンドブレイクした最たる例として挙げられるのが、佐藤健である。「仮面ライダー」出身で、どちらかというとやんちゃなアクションのあるような作品に出て、幕末時代漫画の実写化『るろうに剣心』シリーズで頂点を極めた。

 その後、朝ドラ『半分、青い。』(18年)でヒロイン(永野芽郁)の相手役を演じた。終盤、ヒロインと朝方、毛布にくるまれてキスするシーンはあまりにも絵になり伝説の域に。

 その後、火曜ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(20年、以下『恋つづ』)ではヒロイン(上白石萌音)に対して壁ドン、顎クイ、バックハグ……と恋愛ドラマの基本は一通り抑えつつ、応用技も次々繰り出し最初から最後まで絵になる恋愛シチュエーションを演じ続けることで、『恋つづ』ブームを起こした佐藤。

 アクションの決めを恋愛の決めに置き換えたかのような佐藤健の仕留める瞬間の演技は1分の隙もない。これもまた、彼のこれまでの鍛錬の結晶であろう。

向井理、綾野剛の場合も……

 恋愛ものでセカンドブレイクしているもうひとりは向井理である。朝ドラ『ゲゲゲの女房』(10年)でブレイクし “イケメン”ブームの先頭を走ってきた。スマートで知的な印象の彼が『神の舌を持つ男』(16年)で今までのイメージを変えるような個性的な役を演じたり、舞台に挑戦したりして、力を蓄えた後、『着飾る恋には理由があって』(21年)で恋の本命ではなく当て馬的な人物を演じ、本命を凌駕しそうなほどの圧倒的な魅力によって、ヒロインはどっちを選ぶの?という恋愛ドラマのスリルを盛り上げる立役者となった。

 イケメン向井理健在なり。これが当人の望んでいる評価なのかは別として、セカンドブレイクとは本人の資質を世間に定着させるためにも重要なフェーズなのである。

 綾野剛も今年、恋愛もの『恋はDeepに』(以下『恋ぷに』)に出演した。主演映画『ヤクザと家族 The Family』(21年)や今期のドラマ『アバランチ』などいまや性格俳優の印象すらある綾野剛だが、ファーストブレイクは朝ドラ『カーネーション』(11年)。ヒロイン(尾野真千子)と想いを寄せ合う役・周防役は当人に妻子がある設定で、いわゆる不倫だったため賛否両論を呼びながら、綾野剛の強烈な色気に抗えない視聴者が続出した。

 その後の綾野は映画『日本で一番悪い奴ら』(16年)の道を外れた警官や『パンク侍、斬られて候』(18年)の倫理観に欠けた人物など、褒められた生き方ではない人物を迫真で演じていく。その一方で、『恋ぷに』ではじつにやさしい表情でヒロイン(石原さとみ)を思いやる演技をするからそのギャップに驚かされる。

『恋ぷに』はヒロインが人間ではない海から来た謎の生き物の設定で、展開がファンタジーでともすると安っぽく見えてしまいそうな心配もあったが、数々の作品を演じてきた綾野が真剣に演じていることでぎりぎり回避している印象があった。

「愛する心」をどう表現するか?

 松本大洋の漫画の実写化『ピンポン』(02年)で注目された井浦新(当時ARATA)は、その後は主として映画界で活躍していたが、『アンナチュラル』(18年)で演じた法医解剖医では、口が悪く変わり者ながら、実は愛する人のことを深く深く想っていたことが後にわかるという流れでセカンドブレイクし、以後テレビドラマ出演が増えている。

 彼もまた数々の映画体験が、類型的になりかねないテレビドラマの登場人物の「愛」の価値に厚みを加えたことで多くの人を惹きつけたのである。

 ポップなエンタメに出続けていないと大衆はすぐにほかの俳優に目移りしてしまう。そのため、時々、エンタメ系のテレビドラマに出てつなぎつつ、テーマ性のある個性的な作品に出る。このバランスこそが俳優たちの生き残り戦略になっている。

 それにはやっぱり一歩深めた「愛する心」の表現による、セカンドブレイクが必須なのである。

(木俣 冬)

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