元RADWIMPS・桑原彰「いまは『変なヤツが転売始めた』でいい」ヴィンテージTシャツ店開店への思いを語る

 

「開店してからの約10日間で、売れたTシャツは1日トータルで20点ほどです。僕が大切にコレクションしてきたものですが、売れるとスマホに通知が来て、とてもうれしいですね」

 

 そう語るのは、10月17日にロックバンド「RADWIMPS」を脱退した、元ギター担当の桑原彰(39)だ。桑原は翌18日、ヴィンテージTシャツ専門のネットショップ「KuwaKuwaT-shirts」を開店し、Instagramのアカウントも開設。10月28日、本誌が桑原を取材すると、冒頭のように手応えを語ってくれた。

 

 

「ネット上のやり取りなので、どういう方が買ってくださっているのかは詳しくはわからないのですが、30~50代で、Tシャツのバンドのファンが多いと思います。たまに、TikTokライブの配信中に注文があると『僕のことを知ってくれていた人が買ってくれたのかな』と思うことはあります」

 

 超人気バンドのギタリストから、古着業者に。桑原の突然の転身に、SNSの一部では「転売ヤーになったのか」と、批判や失望の声が投稿されているのも事実だ。桑原が、開店までの経緯を語った。

 

「バンドをやめることは、だいぶ前から決まっていたんです。ショップについても脱退が決まったあとに事務所に『こういうことをやるつもりです』と報告していて、9月には古物商の免許を取ったりと、準備を進めていました」

 

 脱退は大きく報じられ、ネットショップの開店についてもさまざまなメディアが取り上げた。

 

「タイミングは狙ったわけではありません。そんなに騒がれることもないかなと思って、Instagramのプロフィールにこっそりリンクだけ貼っておいたんですけど、そうしたらすぐに『やめて速攻、転売ヤーになった』と書かれて……。でもまあ、昔のバンドのファンの人にはイヤな思いをさせるかもしれませんが、がんばってなんとか成功させたいと思ってます!」

 

 もともと桑原は20代のころから、愛聴していたバンドや、持っていたCDジャケットの絵柄のバンドTシャツなどを、見つけては買っていたコレクターだった。

 

「最初は、好きなバンドのグッズを買う感覚で集めていました。ツアーで地方や海外に行くと、古着屋さんを見たりとかして。気づいたらけっこうな数になっていました。本格的にめちゃくちゃ買うようになったのは、ここ2年ぐらいですね」

 

 近年、ヴィンテージTシャツの市場価値が世界的に跳ね上がっている。高騰のきっかけは、ジャスティン・ビーバーやカニエ・ウエスト、トラヴィス・スコットら欧米のトップスターたちが、こぞって着始めたからだ。

 

 いまはとくに、1980年代後半から2000年代初頭までのバンドのTシャツに高値がついている。米国のレッド・ホット・チリ・ペッパーズやソニック・ユース、グランジロックを代表するニルヴァーナ、英国のオアシスやネオサイケデリックバンドのライドなどが人気で、なかには100万円前後で販売されるものもある。

 

「値上がりのスピードがめちゃくちゃ速くて、やっぱあのとき買っとけばよかった、と後悔することが何度もあったんです。当初は、投資目的というわけではなく、いまより高くなる前に買っておこうという思いでした」

 

 桑原がTシャツを購入するのは、おもに東南アジアだ。

 

「現地の古着屋さんやディーラーを紹介してもらったり、あとは自分からDMとかしたりて、関係を築き上げてきました。タイでは、ずっと通訳をしてくれてる日本人とのハーフの男性と、ストックのあるディーラーの家を回ったりします。向こうでは、普通に『Tシャツをよく買うヤツ』と認識されてて、僕がバンドをやっていることを知らない人も多いですね(笑)」

 

 一度に購入する量は増えていき、ボーカルの野田洋次郎は5月、自身のInstagramのストーリーズでこう苦言を呈していた。

 

《桑原の荷物増えてるなぁと思ったらタイでビンテージTシャツを100枚購入したらしい。まるでプロの動き。(中略)なんか同じメンバーとして嫌だなぁと思って本人にも伝えた》

 

「そのときも店をやるつもりはなくて、コレクションとして集めていたんです。『値段が上がっちゃうから、買っといたんだよね』って(野田に)説明したら、怒られちゃいました。でも、何千枚もストックがあるディーラーの家を訪ねたら、100枚なんかすぐ超えるんですよ。あのときも、本当は150枚くらい買っていました(笑)」

 

 そうして、コレクション目的でTシャツを買い集めていた桑原が、ショップを開店することになったのはなぜなのか。

 

「脱退が決まって、しばらくは音楽以外にもいろんなことに挑戦してみたかったんですよ。あと、僕の妹はニューヨークのパーソンズ美術大で本格的にファッションを学んだあと、自分のブランドを立ち上げたりしていたんですが、最近はずっとユニクロでアルバイトをしていたので、なにか一緒に始めたいなと思ったんです。いまはサイトの商品写真を撮ったり、梱包や発送などを手伝ったりしてもらっています」

 

 だが、予備知識なく「KuwaKuwaT-shirts」のサイトを訪れた人は、数万円から、なかには10万円を超えるものも珍しくない価格設定に驚くはずだ。

 

「たしかに、高いですよね。興味ない人からしたら、『Tシャツがなんでそんなにするの?』と思うのも当然で、よくわかんない世界だと思います。でも、3000円くらいで仕入れたものを何十万で売っているとか、そういう人はすぐにバレちゃいます。すごく昔に安く買っていたものが高くなることはあっても、いまは、東南アジアでの仕入れ値も高騰しています。僕のコレクションのなかでいちばん高い、このビョークのTシャツは、数十万円しましたしね」

 

 と、桑原は、アイスランドの女性シンガーソングライターの顔が大写しになった、ヨレヨレのTシャツを差し出した。販売中のTシャツのなかには穴が空いているのもあるが、ダメージも味のうちで、価格を大きく下げる要因にはならないそうだ。

 

「いつからを『ヴィンテージ』と呼ぶか、という議論があって、僕もショップを始めてから『1990年代は差し支えなくても、2000年代を“ヴィンテージ”として売るのは違うんじゃないか』と指摘をいただきました。それを訂正したり、僕はやっぱりまだまだ知識が足りませんから、勉強しながらやっています」

 

 ヴィンテージ市場には偽造品も紛れ込むが、桑原は自ら商品知識をあらためて学び直したり、仕入れは信頼の置ける店やディーラーからに限り、知人の業者にもダブルチェックしてもらったりして、対策しているという。

 

「偽物だとわかって売っている業者も、一部にはいますけどね。しかし、現地で偽物がひとつ出れば、ディーラー同士で検証し合ったりとか、プライドを持ってやっている人ばかりです。僕が競り落とそうとしたら、Tシャツに載っているバンドを指して『メンバー全員の名前を言えるのか』とか聞いてきたり(笑)。ただ売っているだけではなくて、そのバンドやTシャツが大好きだという思いは、みんな持っています」

 

 いまはオンラインショップを開店したばかりだが、今後は期間限定でスペースを借り、ポップアップストアを開くなどして、信頼度を高めていきたいという。

 

「いまは『変なヤツが転売始めた』みたいな入り口でいいんです。ヴィンテージTシャツが高い値段で取り引きされ、有名なアーティストやセレブが買いに来たりしている。そんな世界があることを知ってもらえるだけでも、今回、取材を受けた意義があると思っています」

 

 このブームがいつまで続くかはわからない。それでも、桑原はヴィンテージTシャツを多くの人に興味を持ってもらい、少しでもシーンを盛り上げたいと考えているのだ。

 

くわはらあきら
2001年の結成からRADWIMPSのギタリストとしてバンドを支え、2005年にメジャーデビュー。2024年10月17日にバンドを脱退後、「KuwaKuwaT-shirts」(https://tsrts.base.shop/)をオープン。公式Xは@kuwakuwakuwa444、公式Instagram、TikTokはともに@kuwakuwakuwakuwa0404

 

取材/文・鈴木隆祐 写真・保坂駱駝

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