【29年ぶり武道館公演】とんねるず 別格のパロディアルバム『成増』…評論家が語るカッコよかった「強烈なローカリズム」

 

 2024年11月8日、9日に、29年ぶりとなるとんねるずのコンサート「TUNNELS THE LIVE 2024 Budokan」が日本武道館で開催される。チケットは即完売し、あるチケットサイトでは25万円ものプレミア価格がつくほどの人気ぶりだ。

 

 帝京高校の同級生だった石橋貴明(63)と木梨憲武(62)は、『情けねえ』(1991年、73万枚)『ガラガラヘビがやってくる』(1992年、140万枚)『一番偉い人へ』(同、60万枚)など、シングル21枚、アルバム14枚(ミニアルバム含む)をリリースしているミリオンセラーアーティストである。そんな実績を持つお笑いコンビは、とんねるず以外に存在しない。

 

「デビューアルバム『成増』(1985年)を、こんなにも愛している音楽評論家は、ほかにいないと思います」

 

 

 こう力を込める音楽評論家のスージー鈴木氏が、彼らの歌の魅力を分析する。

 

「1972年のキャロル、1983年のチェッカーズ、1985年のとんねるずは、同格です。『成増』には、やんちゃ坊主たちがスターになって嬉しくてしょうがないというパワーが満ちあふれています」

 

『成増』は、作詞・秋元康、作編曲・見岳章のコンビによる不朽の名作である(1曲を除く)。いわゆる「パロディ音楽」なのだが、その質が異常に高い。題材は松山千春、内山田洋とクールファイブ、果てはプリンスの『パープル・レイン』である。そして、前奏、間奏、後奏にはコントの要素がちりばめられている。

 

「コミックソングは、そう何回もターンテーブルに載らないものですが、『成増』が別格なのは、貴さんのお笑い性とその歌唱力が、絶妙に音楽としてよくできていて、絶妙によくできてないところ。憲さんは、総じて歌がうまい。サウンドを含めて、絶妙な黄金律で構成されています。名曲『バハマ・サンセット』を例にすると、これは矢沢永吉の『時間よ止まれ』のパロディで、一聴すれば、元ネタが誰でもわかるように作られています。貴さんは矢沢さんのモノマネで“半分笑い”にしていますけど、リスペクトを感じます」

 

 お笑いタレントが企画モノの歌を作り、ヒットを飛ばす例は多数ある。ザ・ぼんち『恋のぼんちシート』(1981年)、イモ欽トリオ『ハイスクールララバイ』(同年)ほか、山田邦子、明石家さんま、ビートたけし、猿岩石、ポケットビスケッツ…。枚挙にいとまがないが、とんねるずが、歴代のお笑い歌手たちと決定的に違ったのは、ヒットシングルを連発し、アルバムも大ヒットしたことだ。

 

「1980年代前半は、今でいうところの『シティポップ』の時代、日本全国が”東京化”した時代なんですね。日本は港区と湘南だけでできてるっていう前提。みんな、おしゃれで小ぎれい(笑)。で、とんねるずの2人は東京出身なんだけど、貴さんは成増、憲さんは祖師ヶ谷大蔵から、都会の虚像を蹴っ飛ばすわけです。強烈な”東京ローカリズム”ですね。これがカッコよかった。とくに貴さんは、少年っぽさを長く維持している人です。『成増』に刻まれている貴さんのシャウトは、キャロルの『ファンキー・モンキー・ベイビー』の矢沢さんのシャウトと同じ構図です。既成の権威に対して“やってやんよ、首洗って待ってろ!” ってね」

 

 チェッカーズ、佐野元春、つのだ☆ひろ、テレサ・テン、安全地帯、Wink、ローリング・ストーンズ、キングトーンズ、ブルーハーツ、山下達郎、バブルガム・ブラザーズ…。アルバムでは日本の名曲をパロディ化し、シングルでは、『ガラガラヘビがやってくる』で、子供たちにも愛される存在になった。

 

「たしかに、万人に愛されるとんねるずという一面はありますが、反面、貴さんの危険なお笑いはかなり長く維持したと思いますね。中でも、『オナラじゃないのよ……』って、品性お下劣、ひどい(笑)。切っ先鋭い刃とお下劣な一面が共存する稀有なアーティストだと思いますね」

 

【スージー鈴木氏が選ぶ「とんねるず」3曲】

 

(1)『バハマ・サンセット』
断トツの1位。「茶きん寿司は京樽、レコード買うならスミ商会」など、実在する店が登場。東京出身なのに、港区的、渋谷的なパステルカラーなあれこれを、「馬鹿野郎!」と、蹴り飛ばしています。

 

(2)『青年の主張』(New Version)
芸能界でのし上がった勝利宣言の歌。「売れちゃった 儲かりすぎた」って(笑)。

 

(3)『やぶさかでない』
そもそもタイトルがいい。曲として好きです。

 

すーじーすずき
1966年11月26日生まれ 大阪府出身 早稲田大学卒業後、博報堂に入社。在職中より音楽評論家として活躍。『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)『桑田佳祐論』(新潮社)『EPICソニーとその時代』(集英社)ほか著書多数

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