奈緒の情緒がバグッてる?『あのクズを殴ってやりたいんだ』共感できずまったくハマれない、ただ1つの理由

 

『あのクズを殴ってやりたいんだ』というタイトルはキャッチーでいいし、観始める前はすごく興味をそそられた。

 

 だが、タイトルとなっている根幹の設定が腑に落ちなくて、全然ハマれない。主人公の根っこの動機に共感できないから、ストーリーに入り込めないのだ。

 

 10月22日(火)に第3話まで放送されている奈緒主演の火曜ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)。

 

 主人公のほこ美(奈緒)が、とあるクズ男に騙され、その相手を殴ってぎゃふんと言わせるために、ボクシングを習い出すというラブコメ作品である。

 

 

■第1話ラストで「あのクズ」が明らかに

 

 第1話のラストで、ほこ美が殴りたい相手が明らかになるため、第1話のおさらいをしておこう。

 

 物語はほこ美の結婚式当日からスタート。幸せ絶頂だったはずのほこ美だが、婚約者が式場から逃げ出してしまい、みじめにフラれてしまう。しかも、婚約者は浮気相手の女とラブラブで、結婚式費用の半額(約150万円)も支払わないままバックレていた。人生のどん底だ。

 

 そんなとき、ほこ美の結婚式のカメラマンを務める予定だった金髪イケメン・海里(Kis-My-Ft2・玉森裕太)が現れ、婚約者を探し出すために協力すると申し出てくれる。

 

 海里のおかげで、浮気相手の女とバーでイチャついていた婚約者を発見。ほこ美が文句を言って詰め寄ると、逆ギレしつつ乱暴に振る舞って立ち去ろうとするも、かつてボクサーだった海里があっさり制圧。

 

 こうして、海里のおかげで150万円を取り返せたほこ美は、やさしい彼にどんどん惹かれていき、キスまでする関係に。

 

 しかし、実は海里はたくさんの女をたぶらかしては貢がせているチャラ男で、ほこ美にはおもしろ半分で近づいてきただけで、そのうち貢がせるつもりだったことが発覚。ほこ美とキスした後に、べつの女と平然とキスをしまくる海里にほこ美はブチギレ。

 

 ほこ美は「あのクズを殴ってやりたいんです!」とボクシングジムに入会した。

 

■殴りたい玉森裕太はたいしたクズじゃない

 

 要するに、主人公を救ってくれたイケメン王子様かと思ったら、その相手こそ殴ってやりたいクズ男だったという展開だったのだが、やはりどうしても腑に落ちない。

 

 ほこ美が恨む “優先順位” に納得いかないのだ。

 

 簡単に言うと、海里はそこまでクズじゃないし、どう考えても婚約者のほうが激烈クズなのに、そっちはもうスルーしていることに違和感アリアリなのである。

 

 たしかに海里は、ほこ美の気持ちをもてあそび、貢がせる魂胆だったので、「いい人」とは言えないかもしれない。けれど、姿をくらましていた婚約者の居所を突き止めてくれたし、彼が婚約者をこらしめたから150万円が戻ってきた。

 

 海里に騙されたマイナス値よりも、彼に助けてもらったプラス値が圧倒的に上回っているように思うのだ。

 

 一方、婚約者には人生を狂わされているので、大幅にマイナスのはず。半額は返ってきたが150万円は無駄に自腹を切らされているし、式当日に逃げられて親戚や友人の前で赤っ恥を掻かされ、職場でも知れ渡って腫れ物扱いされている。

 

 この男に費やしたお金や時間はすべて無駄になって消えていき、プライドもズタボロ。海里もクズだが、婚約者にはその10倍はひどいことをされたのに、婚約者への恨みはあっさり消え去っている。情緒がバグッているように感じてしまい、感情移入できないのである。

 

■制作陣の都合で主人公の人間性に共感できず

 

 この主人公の根底の動機が腑に落ちないのは、率直に言って脚本家ら制作陣のせいだろう。

 

 第3話までをざっくり説明しておくと、ほこ美は海里に反発しつつも、彼にやさしい一面があることや隠された過去があることを知り、不覚にもときめいて、再び惹かれていくというストーリーになっている。まあ大方の予想どおり、ほこ美と海里のラブストーリーが展開されていく模様。

 

 2番手キャストである玉森が演じるキャラを、「殴りたい相手」兼「恋のお相手」にすることが前提で企画がスタートしたことは想像にかたくない。ただ、復讐対象と恋愛対象を一人のキャラクターに集約させようとした結果、無理が生じているのだ。

 

 海里を婚約者のように真正ガチクズにしてしまうと、ほこ美が惹かれていくストーリーにできなくなる。そのため、海里のことは、“ワケありでクズになったが実はやさしい男” というキャラにせざるをえなかったのだろうが、おかげで婚約者のクズ度合いを大幅に下回る現象が起きている。

 

 結果、まだまだ感謝してもいいぐらいの恩人を憎み、まだまだ仕返しすべき非道な婚約者はスルーするという、おかしな主人公像に。制作陣の都合によって、人間性に共感できないヒロインになっており、演技巧者である奈緒がなんだかかわいそうだ。

 

 今夜放送の第4話以降で婚約者を再登場させて、もっときっちり復讐するようなシーンが描かれれば、ストーリー全体に筋がとおって観やすくなるように思うが、はたしてどうなるか。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

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