漫画『ウイングマン』作者・桂正和氏にインタビュー「ドラマの土台に口を挟みました」実写化にかける “譲れない” こだわりとは

 

《チェイング!》の掛け声とともに変身し、《悪裂!ウイングマン!!》の決め台詞で悪を討つ――。

 

 1983~85年の約2年半、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載されたヒーロー漫画の名作『ウイングマン』をご存じだろうか。本作は『電影少女』『I”s』『ZETMAN』など、数々のヒット作を世に送り出した漫画家・桂正和氏の連載デビュー作にして、代表作の一つである。

 

 

“正義の味方” に憧れる少年・広野健太が、異次元世界から逃げてきた美少女・アオイと出会い、どんな夢や願い事も具現化する「ドリムノート」を手にするところから、物語は始まる。自らが空想したヒーロー「ウイングマン」に変身する能力を身につけた健太は、次々と襲い来る邪悪な刺客たちに立ち向かっていく……というストーリーだ。

 

「『宇宙刑事ギャバン』『電子戦隊デンジマン』といった東映制作の特撮番組に影響を受けた作風ながら、等身大の中学生が本物のヒーローへと成長していく過程を描いた同作は、当時の読者の心をわし掴み。

 

 SFと学園ものが合わさった世界観、魅力的な美少女キャラたちとの眩しい恋模様など、従来のヒーローもののセオリーを打ち崩す革命的な内容でした。

 

 今なお根強い人気を誇り、1980年代の『ジャンプ』を代表する金字塔的作品といえるでしょう」(漫画編集者)

 

 そんな同作が生誕40周年を機に、満を持して実写ドラマ化する運びとなった(10月22日スタート/毎週火曜深夜0時30分~/テレビ東京)。

 

《42年前からの夢。ウイングマン実写化。感無量です。》

 

 番組公式サイトに、こうコメントを寄せた原作者の桂正和氏。企画が立ち上がった経緯から実写化にかける熱い思いまで、ご本人に伺った。

 

「2023年10月頃、ドラマ制作スタッフからお話をいただきました。今回、僕は原作者というより、制作者のひとりとして企画段階から参加しています。撮影はスペシャリストの方たちにお任せですが、ドラマの土台までは、徹底的に口を挟もうと思いまして。

 

 実写の場合、原作の80年代の匂いとか、ありとあらゆることを再現するのは、膨大な予算が必要となるから難しいんですよ。

 

 となると、漫画どおりにはできないので、一回解体して再構築が必要。その作業で参加できるのが、新しい作品を作っているみたいで楽しかったですね」(桂氏・以下同)

 

 ドラマの脚本に落とし込むに際し、原作者として “譲れないこだわり” も多々あったようだ。

 

「設定やストーリーに関しても、細かくチェックしてギリギリまで修正やアイディアを伝えていました。特にこだわったのは、ウイングマンが誕生する部分と、主人公・広野健太の性格だけは絶対変えないこと。

 

 漫画ではけっこうコミカルな部分や “80年代ノリ” があるんですけど、特撮ドラマやハリウッド映画のヒーローものが数あるなかで目立たせるにはどうしたらいいか? そう考えたとき、軽いノリだと子供向けになりそうな気がしたんですよね。

 

 深夜枠で大人も観るとなると、ある程度リアリティと整合性がないと無理だなと。だから、ヒロイン・アオイのキャラクターをもう少しシリアスにしたり、マイナーチェンジはしています」

 

 ドラマでは、藤岡真威人演じる主人公は高校2年生の設定だが、原作では中学生。この変更についても、リアリティ路線を重視した結果だという。

 

「主人公役の真威人さんは、『原作の健太が高校生に成長したらこうなりそう』とぴったりなイメージ。ただ、広野健太という主人公は、考え方が非常に幼稚なので中学生でちょうどよかったんですけど、同じセリフを高校生として語ったときにどう見えるかは心配。

 

『こいつ、気持ち悪い』じゃなくて、『高校生にもなってこんな行動とるなんて変わったやつだ』『主人公として面白いな』と感じてもらったら、成功かなと思います。完成した映像でどうなっているか、僕自身楽しみにしています」

 

 ウイングマンといえば、全身ブラックのスーツと、頭部と胸部に装着した青い翼風のパーツが特徴的なビジュアルだ。ドラマ版では、桂氏自らデザインを手がけた。

 

「デザイン周りに関しては、僕がやらなきゃいかんだろうと。実写の場合、動くことを考慮してアレンジが必要ですから。他のデザイナーさんがやって、『原作と違う』と言われるよりは、僕がデザインすれば原作ファンも、『それじゃしかたがない』ってなるでしょう(笑)。

 

 お話にしてもデザインにしても、変更が必要な場合、ほかの人が気を使いながらアレンジするより原作をもっとも理解している僕が手を加えるのが一番平和なんです(笑)。

 

 連載当時の健太は、紙や布とボンドで作った自家製のスーツを作ってましたけど、今はコスプレ技術も上がっているわけで。テレビのヒーローに近づけたクオリティの高い衣装になるだろうし、新しいウィングマンだからというよりは、健太が現代においてウィングマンを自分で作るとしたらこうなるだろうなと思い描いて、デザインしました」

 

 もし、漫画作品としてウイングマンをリメイクするとしたら、どんな作品になるだろうか。

 

「ヒーローものは、世の中でもう散々やり尽くしているじゃないですか。いまだったら、ウイングマンも『何かしらの映画や漫画のパクリじゃん!』なんて言われちゃう。

 

 もしリメイクするとしたら、当然ストーリーもノリも変わってくるでしょう。でも、ウィングマンの根底にあるのは明るさだと思っているので、近年よくある “闇落ち” とか絶対ないキャラクターだし、そこは貫きたい。

 

 たとえば、僕が幼いころ好きだった『ウルトラマン』は悩むことがない。あれこそ本当の正義の味方だと思っていて。だって、何の得があって、人間のために地球のために体張って戦っているのって話ですから。あんな自己犠牲の塊みたいな人、いないじゃないですか。何で戦ってるのか悩むこともなく、神みたいな存在ですよね。

 

 僕が原点に戻ってヒーローを描くとしたら、そういう悩まない人を描きたいですね。だから、ウイングマンは現代においてやるべき、面白いキャラクター。ある意味イカれてますけど、『正義の味方』であり続けることはブレませんから」

 

 漫画家である桂氏が、いま描きたいテーマを聞いてみた。

 

「いま一番興味があるのは、また高校生の『I”s』みたいな話を描きたいと思っています。やっぱり人間の未熟な感情を描きたいんですよね。それには、高校生がベスト。

 

 編集さんからは、『オフィスラブみたいな大人の作品をやりませんか』って提案されるけど、そんな大人のドロドロしたやつなんて描きたくないし、疲れるだけですよ!

 

 やっぱりピュアな、キュンとくるようなやつをいまだに描きたいなと思うし、そのへんに興味がありますよね」

 

 最後に、実写で躍動するウイングマンに期待する人に向けて、メッセージを――。

 

「健太の奮闘する姿を見て、『こんな不器用でまっすぐな奴いるんだ』と感じてもらえたら嬉しいですね。原作から根っこの部分は変えていないので、大いに楽しんでください。それが僕の願いです」

 

 往年のファンも初見の方も、令和の時代に蘇ったウイングマンをぜひ見届けてほしい。

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