『海のはじまり』有村架純や大竹しのぶの演技に大号泣も…目黒蓮に常にモヤモヤしてしまうわけ

目黒連

 

 Snow Man・目黒蓮のファンにケンカを売るつもりはないし、そもそも彼の責任ではないのだが、正直、どうにも主人公に魅力がないと思えてしまう。

 

 突然、小1の娘がいることを知らされた主人公・夏(目黒)が、幼い我が子と向き合っていくという親子愛がテーマの月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)。2022年に社会現象を巻き起こした『silent』(フジテレビ系)の脚本家・生方美久氏の最新作だ。

 

 8月5日(月)に第6話まで放送されているが、TVerでの本編見逃し配信とスピンオフ動画の再生数が早くも累計3000万回を突破しており、大ヒットしている。

 

 

 そんな『海のはじまり』に、今回はあえて苦言を呈したい。

 

■バイタリティあふれる三者三様の女性キャラがいい!

 

 主人公・夏は平凡な会社員ながら、恋人の弥生(有村架純)と幸せな日々を送っていた。

 

 そんなある日、大学時代に交際していたものの8年も疎遠になっていた元彼女・水季(古川琴音)の訃報を受け葬式に参列。葬儀場で、夏はもうすぐ7歳になる少女・海(泉谷星奈)と出会う。そして元彼女の母で海の祖母・朱音(大竹しのぶ)から、海が夏の娘であることを知らされる。

 

 夏は戸惑いながらも自分が “父親” になるべきなのか、幼い娘とどう向き合っていくべきなのかを真剣に考え続けている。一方、実は過去の彼氏との間で妊娠し、堕胎手術の経験がある弥生は、夏が海の “父親” になるのであれば、自分が “母親” になることも選択肢に入れてほしいと伝えていた。

 

 ――誤解しないでもらいたいのだが、筆者はこのドラマをかなり良質なドラマだと思っているし、毎回楽しみに視聴している。

 

 祖母・朱音を演じる大竹、現彼女・弥生を演じる有村、今は亡き元彼女・水季を演じる古川の助演が非常に光っているからだ。この3女優が演じる女性たちは、三者三様ながらバイタリティあふれる魅力的なキャラクターで、心の芯に刺さるエモいシーンを生み出しており、物語を牽引してくれている。

 

■有村と古川、時間差で同じイスに座る “共演” が胸熱

 

 たとえば第5話の朱音の振る舞いには、じ~んとさせられた。

 

 夏がまだ海の存在を自分の両親に明かしていないことに対して、朱音がビシッと夏の手を叩き、「さっさと言いなさいよ」と叱責。事情を説明する夏だが、朱音には言い訳のように聞こえたのか、小言を続ける。

 

 しかし、それは母親がだらしない息子を叱るような、まるで “親子の会話”。そんな2人のやりとりに海と祖父が目を見合わせてクスクス笑う。

 

 物語序盤の2人は微妙な関係性で、朱音が夏に冷たい視線を向けるようなこともあり、不穏な雰囲気も漂っていた。そこから海を通じて徐々に向き合っていくことで、いつの間にか親子のような空気感に。

 

 この物語は、夏と海が父娘になるだけでなく、夏と朱音たちが本当の家族になっていく物語なのかもしれないと思わせる、琴線に触れるニクいシーンだった。朱音を演じる大竹の母親感は、ごくごくナチュラルでありながら鮮烈なのだ。

 

 第6話にも珠玉の名シーンがある。

 

 堕胎するつもりだった水季が翻意して、産み育てると決意した理由が回想シーンで描かれた。

 

 中絶手術のために訪れた病院の待合室でふと手に取った「ご意見ノート」。そこには、中絶後のある女性の《どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです。あなたの幸せを願います。》という言葉が綴られており、心動かされた水季は出産を決意。

 

 実は、このノートの女性は手術直後の弥生だったことが視聴者にだけ明かされた。

 

 弥生と水季はいっさい面識がないし、自分がノートに書いた想いによって水季が出産を決意したことなど弥生は知るよしもない。けれど、その言葉によって海がこの世に生を享け、その海がいま弥生の目の前にいるという運命。

 

 中絶を選択した弥生と出産を選択した水季。対称的な存在として描かれているのかと思ったが、弥生の選択から得た経験により水季は選択を変え、命がつながれていたわけだ。

 

 偶然が重なりすぎていて、少々ご都合主義すぎるとは思ったものの、筆者はこのシーンで涙腺崩壊。有村と古川は同じ画面に映っての共演はないが、時を別にして待合室の同じイスに座るという2人の “共演” には鳥肌が立った。

 

■目黒演じる主人公の魅力が薄く、牽引力を感じない

 

 このように3女優の名演によって感動シーンが多々あるのだが、本来ストーリーを引っ張っていくべき主人公・夏の魅力が薄く、あまり牽引力を感じない。

 

 夏はやさしく誠実ではあるが、同時に優柔不断で生返事が多いタイプ。めんどくさいこと、頭を使うことなどを避けるようにして生きてきたキャラクターだ。

 

 元彼女の死という、つらい出来事と、突然の娘の登場という人生を左右する出来事が重なり、目の前の状況に懸命に対応していこうとする姿が描かれている。

 

 そんな主人公だが、夏の言動で大きな感動が生まれたりスカッとしたりするシーンが少なく、作品全体としてモヤモヤした消化不良感が常につきまとっているように感じる。

 

 夏の選択・決断にはこれといった落ち度はないし、優柔不断ながら自分のペースでじっくり真剣に向き合っているのはわかるが、簡単に言うとヒロイックな発言や行動はほぼナシ。

 

 ……それがこのドラマが描きたいリアリティなのだと言われてしまえば、反論はできない。

 

 たしかに夏は、この令和という時代、どこにでもいそうな “普通に優しい好青年” といったキャラクター。あまり自己主張せず、しゃべったとしてもボソボソと聞き取りづらかったり、できるだけ他人に合わせ、思考停止でやりすごそうとしたりするスタンスは、現代の若者像を現実的に投影しているのかもしれない。

 

 しかし、前述した3女優の役柄がそれぞれ個性的に輝いているため、そんな脇を固める女性キャラクターの魅力によって、主人公の存在感が陰ってしまい、いまいち際立っていないのだ。

 

 今夜の放送回は第7話、後半戦に突入する。そろそろヒロイックな目黒蓮が観られるのか、それとも最終話まで変わらないのか――今後も気になるドラマなのは間違いない。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

ジャンルで探す