坂本冬美の『モゴモゴ交友録』野口五郎さん(68)ーー怖すぎてできない、テレビで歌うときの “プロフェッショナルな流儀”

野口五郎、坂本冬美

 

 ここだけのお話です。

 

 大きな声では言えませんが、5学年の差があるあやちゃん(藤あや子)とわたしとでは、見ていたテレビ番組も、読んでいた漫画本も、夢中になっていたアイドルも違います。

 

 わたしが好きだったのは “たのきんトリオ” のトシちゃん(田原俊彦)で、あやちゃんは “新御三家” の野口五郎さん。若いコから見たら大差はないと思いますが、そこははっきりとさせておきたいのが女心というものです(笑)。

 

 五郎さんがデビューしたのは1971年で、デビュー曲は『博多みれん』という演歌でした。ポップスに大きく舵を切った2曲め『青いリンゴ』で大ブレイク! 当時、わたしは4歳ですから、うっすらと記憶があるだけです。

 

 

 その五郎さんと初めてお会いしたのは……ん!? いつだろう? 頭を振っても出てきません。はっきりと記憶しているのは、『うたコン』の前身『NHK歌謡コンサート』でご一緒させていただいたときに、こっそりお話ししてくださった言葉です。

 

 たまたま、横に並んだわたしに「じつはうちの父が、坂本さんの『あばれ太鼓』が大好きなんです」と、優しい笑顔で教えてくださって。いろんなことを忘れているわたしですが、よっぽど嬉しかったんでしょうね。その会話は、今でも、くっきりとはっきりと覚えています。

 

 信じたいものを信じるのが人という生き物ですが、記憶も同じで、嬉しかったことはいつまでも頭の中に記録されているようです(苦笑)。

 

 五郎さんはとにかく真面目でストイックで、ひとつのことをとことん突き詰めていくタイプだと思います。

 

 20代のころからご自宅にスタジオを持ち、録音からミキシングまで、すべてお一人でやられるという徹底ぶり。楽器も、ギター、ベース、ドラム、シンセサイザー……と、なんでもできちゃう。

 

 いや、できちゃうんじゃないですね。できるまで努力されたんですよね、きっと。歌以外、何をやっても上達せず、お稽古もサボりがちのわたしからすると、もうただただ尊敬です。

 

 そんな五郎さんに、いつか聞いてみたいと思いながらお伺いできていないのが、テレビで歌うときの返し(歌手が自分の歌声を確認するためのスピーカー)の音です。

 

 イヤモニを使うのが当たり前になった今でも、イヤモニは使わないというこだわりはわかります。でもその場合、返しの音を大きくしないと、自分の声や演奏の音が聴き取りづらくなり、音程は? ピッチは? 大丈夫かな? と、ふつうは不安になるものなんですが……。

 

 五郎さんの返しの音は本当に小さくて、これで大丈夫なの? ちゃんと聴こえてるのかなと、後ろで聴いているこちらが心配になるほど、ほぼほぼ生の五郎さんの声なんです。

 

 自分の声にリバーヴ(残響)をかけてもらい、心地よく返ってくるくらいの大きな音のほうが安心して歌えるし、歌っていても気持ちがいい。それなのにです。

 

 音に関して絶対的な自信がないと、返しの音をあそこまで小さくすることはできないし、五郎さん以外、イヤモニを使わず返しの音をあそこまで小さくしている歌手の方をわたしは知りません。さすがプロフェッショナル。

 

 先日、その五郎さんと森正明さんのギター、廣津留すみれさんのバイオリンで、『帰れない二人』を歌わせていただく機会があったのですが、もう最高に幸せでした!

 

 ひとつだけ心残りは、「今日はギターだけ」とおっしゃっていた五郎さんとご一緒に歌えなかったことです。次はぜひ、一緒に歌をお願いします。

 

さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『ほろ酔い満月』が好評発売中!

 

写真・中村 功
取材&文・工藤 晋

ジャンルで探す