坂本冬美の『モゴモゴ交友録』さだまさしさん(72)ーー「ラジオ番組風にやろう!」テレビ収録で “母からの手紙” というサプライズ

坂本冬美、さだまさし

 

 おもしろくて、茶目っ気があって、いつでもいたずら心を持っていらして…溢れるほどの才能と、少年の心を併せ持つアーティスト。それが、さだまさしさんです。

 

 あれはデビュー10年め、NHKの『ふたりのビッグショー』に出させていただいたときのことです。

 

『NHK紅白歌合戦』『輝く!日本レコード大賞』(TBS系)、『年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京系)などなど、一人前の演歌歌手になった証しとして、そのステージに立ちたいと思う番組がいくつかありますが、『ふたりのビッグショー』もそのひとつです。

 

 

 これまで小林旭さん、夏ちゃん(伍代夏子)、あやちゃん(藤あや子)、平尾昌晃さん、石川さゆりさん、西城秀樹さん、村田英雄さん、JAYWALKさん、長山洋子さん、山本譲二さん、北島三郎さん、細川たかしさん、堀内孝雄さん……錚々たる方々とご一緒させていただきましたが、目の玉が飛び出そうなほど、びっくらこいたのは、さださんがいちばんです。

 

「いつもどおりにやるのもいいんだけど、今日はラジオ番組風にやろうよ」

 

ーーうわっ、おもしろそう!

 

 思った瞬間、わたしはまんまと、さださんの罠(?)にハマっていました(苦笑)。

 

「衣装としてお着物を用意してきたんですけど、どうしましょうか?」

 

「ラジオで着物? う〜〜〜〜ん。普段着っぽいほうがよくない?」

 

 細部にまでこだわるところが、さださんです。とはいえ、急にそう言われても用意がありません。

 

「いいじゃん、それで?」

 

 それって、もしかして……家を出るときに着て来たこれのことかしら? いや、いや、いや、いや、いくらなんでも、普段着すぎませんか?

 

「ラジオなんだから、それくらいがちょうどいいんじゃないかな」

 

 さださんにそう言われて「そうかも」と思ってしまうところが怖いところですが(笑)、ラジオ番組風であって、実際はテレビ収録です。しまった! と思ったときには、もう収録がスタートしていました。

 

 当日、会場に足を運んでくださったお客様からいただいたコメントだと思いますが、さださんがリスナーからのおハガキ風に読み、その後、歌に行くというスタイルで収録は進んでいきます。

 

 デビュー曲の『あばれ太鼓』、坂本冬美の代名詞ともいえる『夜桜お七』…普段着姿で歌う歌はどこか頼りなく、スースーする感じは否めませんが、ステージに立ったら、そんなことは言っていられません。

 

 最後まで、全力でーー。

 

 番組も終盤に差しかかり、あとちょっと…というところで、さださんがこの日のために仕掛けた最大のサプライズが発動しました。

 

 歌わせていただいたのは、さださんが山口百恵さんのために書き上げられた母への想い、愛、感謝の気持ちを歌った『秋桜』です。

 

 これまでと同じように、まず、さださんがリスナーからのハガキとして、手紙を読み始めます。

 

 うん、うん、うん。心の中で頷きながら、耳を傾けていましたが、ん!? 何かへんです。これって……もしかして……。

 

 そうです。リスナーからの手紙ではなく、正真正銘、紛れもなく、わたしの母からの手紙でした。母は手紙を書くような人ではなかったので、手紙をもらったのは、このとき一度だけです。

 

 涙を堪えて懸命に歌いながらふと横を見ると、さださんが「うん、うん。してやったり」という満足気な笑みを浮かべながら、頷いていらっしゃいました。

 

さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『ほろ酔い満月』が好評発売中!

 

写真・中村 功
取材&文・工藤 晋

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