「日本球界もう1人のレジェンド」『プロ野球ニュース』初代キャスターが語る「ONコンビと天皇陛下」
1976年にフジテレビ系で放送がスタートした『プロ野球ニュース』。その初代キャスターを務めていたのが、佐々木信也さん。10月12日に91歳になったが、今も元気ハツラツ。当時のことを、こう振り返る。
「生放送なので、何かしらハプニングが起こるだろうと、スタッフと毎日ミーティングして“これで完璧”と思って本番に臨んでいました。でもね、本番になると考えもしなかったトラブルが起きる。スタジオから甲子園球場に中継をつなごうとしたら、映像が切り替わらず、ずっと私が映ったままとかね。生放送は、いい勉強になりました」
ONコンビ秘話
当時は平日の放送を佐々木さんが、土日のキャスターはみのもんたが担当。みのが夏休みのときは、佐々木さんが代役を務めた。
「一度、油断したことがありまして。みのさんが夏休みで私が担当することになった土曜日、放送前に家族でディズニーランドに行ったんです。夜の生放送に間に合うよう、早めに切り上げたのですが、駐車場が混んでおり、外へ出るまでに40分かかった。その後も高速道路が大渋滞に。カメラの前に座ったのが放送開始1分前で、着替えずにそのまま出演したことがありましたね」
数々の名選手を取材してきた佐々木さん。やはり印象に残っているのは……、
「王貞治さんですね。球場内の応接間で取材をするのですが、私は先に到着して、チョコやビスケットやアメを並べて待つんです。そこに王さんがやって来ると、必ず食べる。試合後で身体が疲れているから、王さんは“この時間に食べるチョコはうまいんですよ”と、言っていました。そういうときは、ほかでは聞けないような、とっておきの話をしてくれるのです」
王について、今だから話せることがあるという。
「私は昔、知り合いと一緒に銀座でうどん屋さんを開いていたんです。その店に王さんが来てくれて。食べ終わった王さんが外で立ち話をしていたら、ネズミが出てきて、王さんの手にかみついたんです。これは大変だと、近くの病院に行ったけど、銀座の医者は患者が王さんだとわかると手が震えて何をやったらいいかわからない状態に。すると、王さんのお兄さんが医師だというので、そこに電話して治療してもらいました」
当時のスーパースターだった王と長嶋茂雄の“ONコンビ”。佐々木さんも「あの2人は特別でした」と言う。
佐々木さんは、神奈川県立湘南高校で甲子園優勝を果たしている。慶応大学に進学し、フィリピンで行われたアジア大会に東京六大学選抜メンバーとして参加。そこで長嶋氏と出会った。
「当時は私が4年生で、長嶋さんが立教大学の2年生。ホテルが同部屋でした。ベッドに横になって10分もたたないうちにドスンと音がして、何かと思ったら長嶋さんがベッドの下に落ちている。それでベッドに戻るのですが、今度は頭から落っこちて。当時の長嶋さんは、あまり話さない人で、野球談議をした記憶はないですね。でも、長嶋さんと過ごした2週間は楽しかった」
こんな思い出もあるという。
「フィリピンのお土産に長嶋さんと一緒に果物を買いまして。帰国して2人分に取り分けたけど、それを入れるモノがない。そこで私の母親が正絹のちりめん風呂敷を長嶋さんに貸してあげたのですが、返ってこなかったですね。私から“風呂敷を返して”とは言いにくいですし、長嶋さんなら、まあ仕方ないか、と(笑)」
“野球好き”天皇陛下との思い出
日本のプロ野球を見続けてきた佐々木さん。1969年には、こんな大役を任されたことも。
「今の天皇陛下、当時9歳の浩宮さまがオールスターの観戦に来られて、私が説明役を務めました。私が持っていったグローブを“貸してください”と言われて、お貸しすると気に入ったのかずっと離さない。可愛かったですね」
ほかにも、佐々木さんだからこそ知る、小学生時代の天皇陛下のエピソードも。
「オールスターは夏の暑い時季の開催で、試合観戦の途中で休憩を入れたのです。当時は荒川区にあった『東京スタジアム』が会場で、そこの名物がミックスジュース。みんなミックスジュースを飲むのですが、殿下はどうするのかと思っていたら、ミックスジュースには目もくれずに、ずっとチョコレートを食べていました」
“ON時代”からプロ野球選手として、また解説者、キャスターとして日本球界を見てきた佐々木さん。大谷翔平らメジャーリーグで活躍する日本人選手も増えてきたが、日本の野球について思うことがあるようだ。
「日本のプロ野球では、王さんと長嶋さん以来、真のスーパースターが育っていないのが不思議です。やっぱり、スーパースターがいないと野球はダメなんですよ」
日本プロ野球界のレジェンドとして、11月9日には東京・中野にある区民施設『なかのZERO』でトークライブを開催予定。まだまだ現役で球界の表もウラ側も語り尽くしていく。
10/26 16:00
週刊女性PRIME