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大統領・社長続々、「仏エリート養成校」の正体

日産自動車のカルロス・ゴーン氏、フランス大統領のエマニュエル・マクロン氏…。世界で活躍するフランスのエリートは、大学ではなく「グランゼコール」と呼ばれる高等教育機関で学ぶ。その知られざる実態とは?(撮影:大澤誠)

高校卒業後、「将来のために、さらに勉強したい」と思えば、日本では大学に進学するのが普通だろう。ところが、フランスではエリートコースを志望する人は、大学には進まない。

私がフランスに滞在していたとき、日本とは異なるフランスの進学事情をよく理解しておらず、フランス人の知人を困惑させてしまったことがある。知人宅に招かれ、高校生の息子さんを交えて昼食を取っていたときのことだ。

「大学ではどんな勉強をするつもりなのですか」と、息子さんに尋ねた。ごく普通の質問をしたつもりだったのに、知人と息子さんは顔を見合わせ、困ったような表情だ。

しばしの沈黙の後、知人が説明する。

「フランスには大学以外にグランゼコールという高等教育機関があって、息子はそこを志望しているのです」

名だたる政治家、経営者が「グランゼコール」出身

フランスの歴代大統領や企業幹部の多くは、実はこのグランゼコール出身者だ。グランゼコールの定義ははっきりとはしていないが、グランゼコール会議には223校が加盟している。修業年限は通常3年で、少人数教育を特長とする。

複数のグランゼコールで学ぶエリートも多く、元大統領のジャック・シラク氏とフランソワ・オランド氏や、現大統領のエマニュエル・マクロン氏は、パリ政治学院とENA(国立行政学院)を卒業している。オランド氏は、加えて高等商業専門学校でも学んだ。日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏は理工科学校と国立高等鉱業学校を卒業している。

グランゼコールに入学するためには、高校卒業後、高校に併設されているプレパ(グランゼコール準備級)に進学する。高校で良い成績を修めなければ希望するプレパには入れないので、猛勉強しているという。おまけに、通っている高校では、毎週土曜日の午前中にテストがあるので、いつも気が抜けない。

フランスにも塾はあるが、基本的に学習に困難を抱える子ども向けで、日本のように受験対策をする場所ではない。成績優秀な子どもは問題集などを使って、自分で計画的に勉強する。家庭教師を頼む家庭もあるが、知人宅では頼んでいなかった。

「でも、勉強ばかりでなく体力もつけないとね。土曜日の午後に息子はテニスをしています」と知人は言う。日本のような部活動はないので、体力づくりも各家庭で工夫するようだ。

ただ、プレパに進むためには(大学に進む場合も)、まずバカロレア(大学入学資格試験)に合格しなければならない。高校2年修了時にフランス語など一部の科目の試験が実施される。高校3年修了時の6月に残りの科目の試験があり、最終的な合否が決まる。受験料は無料だ。

日本の大学入試では、志望する大学に願書を提出し、センター試験や各大学で実施される個別試験を受ける仕組みになっている。何校も併願すれば、それぞれに受験料を支払わなければならないし、それぞれの試験を受けなければならない。

一方、フランスの高等教育機関への出願システムは合理的で、志願者の負担が少ない。プレパに進学したい人も大学に進みたい人も、アドミシオン・ポスト・バック(APB)という国営サイトに登録する。登録料は無料で、最大で24校まで進学先の希望を出せる。

合否はサイトに登録された志願者の高校時代の成績や高校2年修了時に実施されたバカロレアの試験結果などから判断される。高校3年修了時のバカロレアの試験結果が発表される前に、ネットを通して志願者に通知される。

そうして志願者は、入学を許可された高等教育機関のうち、原則として志望順位が最も高い学校へ進学することになる。したがって、APBに登録する志望校のリスト作りが重要になる。リスト作りのためには、高校の教師や保護者、生徒で3者面談を重ねるという。

フランスのエリートが予備知識なく20分話せる理由

プレパに入学することができたグランゼコール志望者は、1年から3年の間ここで学ぶ。「フランスのエリートはまったく予備知識のないテーマでも、20分間話すことができる」と聞くが、プレパの授業の形式を知って、その理由の一端がわかった。プレパでは毎週、生徒が教師の前で授業で学んだ事柄についてプレゼンをするという。学習内容をきちんと理解しているか、プレゼンの良し悪しで判断される。

プレパを経て、いよいよグランゼコールの入試を受ける。試験の内容は各校で異なるが、筆記試験に加え、面接試験を課す場合もある。プレパの授業形式は、面接試験にも対応した形になっている。難関とされるグランゼコールの入試は、「3回まで」などと各校で受験回数の制限をしており、不合格が続いた場合は、大学に編入したりするという。

フランスの大学はほとんどが国立で授業料は無料だが、グランゼコールでは公立も私立も授業料を徴収する。ただ、高等師範学校、理工科学校とENAでは、準公務員として給料がもらえる。ただし、卒業後は一定の期間公務員として働かなければならず、途中で民間企業に転職した場合は給料を返還しなくてはならない。

猛勉強を重ねて競争に打ち勝ち、グランゼコールを卒業すれば、官僚や企業の幹部としての未来が開ける。高収入も期待できる。

エリートたちは週35時間の法定労働時間に縛られずに猛烈に働き、責任も重くなる。年5週間の法定有給休暇を取得することもままならない場合もある。普通の仕事につければワーク・ライフ・バランスの取れた生活を送り、年5週間のバカンスを楽しむことができるフランスだが、こうした一部のエリートたちは一般の市民生活とはかけ離れがちだ。はたして、どちらを選ぶのが幸せな人生なのだろうか。