天安門事件に関する著書出版後、当局「祖国を裏切る文章を書くな」と中国に住む家族へ圧力

 中国湖南省出身で日本国籍を持つ現代中国文学者、 劉燕子リウイェンズー さん(58)(大阪市在住)が民主化運動が武力弾圧された1989年の天安門事件から35年に合わせて日本で著書を出版した後、中国に住む家族が中国当局から脅迫的な圧力を受けていたことがわかった。

劉燕子さん

 劉さんによると、湖南省に住む母親(87)宅を今月20日に地元の国家安全当局者が訪れ、「愛国的でない本を書くな」と要求した。厳しい言論統制を続ける中国当局は、中国出身者の日本での言論活動に対しても、中国に残る家族への圧力で干渉を強めている。

 5月末に出版された新著の「不死の亡命者」(集広舎)は、80年代の民主化運動で指導的役割を果たして米国に亡命した天文物理学者の方励之氏、中国国内にとどまる少数民族チベット族の作家ツェリン・オーセル氏ら内外の知識人約10人について記述している。

 中国の当局者3人は一人暮らしをしている母親宅を訪れ、「祖国を裏切るメチャクチャな文章を書くな。ろくでもない連中と付き合うな」と劉さんへの伝言を指示した。応じない場合について、「どうなるか知らないぞ」と威嚇したという。

 劉さんは91年に来日し、天安門事件などの研究を続けている。2017年に帰省した際、国家安全当局に呼び出された。日本国籍を取得したことについて「日本がお前を守ってくれるのか」と言われたという。それ以降は安全を考慮して帰郷せず、昨年亡くなった父親の葬儀には参列できなかった。

 劉さんは「同時代の人々を記録したいだけなのに、母親に会えない覚悟をしなければならない。当局は弱みにつけ込んで心理的圧力を加え、筆を鈍らせようとしている。主権を無視し、言論統制を他国に広げようとしている」と語った。

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