「人間が考えられる絶望をすでに超えた」 ガザ地区では子どもが狙われ殺されている【報道1930】
トランプ次期大統領の仰天人事やロシアの新型ミサイル発射情報など目まぐるしくニュースが飛び交う中、報じられることが少なくなっているイスラエルによるガザ地区への攻撃。
人道状況は改善されてきたとアメリカ政府高官の発言はあるが、現地から離れた私たちには見えていない現実があるようだ。ガザ地区の死者数だけとってみても、ガザ保健当局の発表では約4万4000人となっているが、イギリス・ガーディアン紙の推計によると死者は既に約33万5000人に上るとされる。果たして、実情は…。
「遺体がバラバラなので70㎏分(の肉片)を集め1人と数えた」
ロシアとウクライナとの戦闘状態とは違いガザ地区で続いているのはイスラエル軍によるほぼ一方的な攻撃だ。今月17日にも北部への空爆で子どもを含む72人が死亡したと伝えられる。現地の状況がなかなかつかめない中、番組ではガザ地区で活動する二人の医師に話を聞くことができた。
ひとりは先日イギリス議会の公聴会でガザの現実を証言したイギリス人医師・マモード氏。
今年8月中旬から約1か月間ガザ地区の病院で治療活動に当たっていた彼は、目の当たりにしたガザ地区を“まるでヒロシマ・ナガサキを彷彿とさせる光景”と表現した。
ガザ地区で治療活動に当たった外科医 ニザム・マモード医師
「心をかき乱されたのは…、難民キャンプに爆弾が落とされ、そのあとドローンが降りてきて……、ドローンが狙ったのは民間人・子どもたちだった。ドローンが発射するのは小さなサイコロ上の弾丸で…、私は子どもたちの腹部から何個もそれを取り出した。私が手術した一番小さな子は3歳だったと思う。スナイパーに狙撃されたのを何人も見た。
頭に銃撃1発で他に傷がない。(流れ弾などではなく)イスラエルのスナイパーに狙われたことは明らかだ。そんなことが毎日続いた…(中略)私はこれまで世界各地の紛争地域で活動してきた。ルワンダ虐殺の時も現地にいた。しかし、ガザほどの状況は見たことがない」
マモート医師は英国紙の取材に「遺体がバラバラなので70㎏分(の肉片)を集め1人と数えた」と答えている。
証言を聞いて明治大学の特任講師ハディ ハーニ氏は「筆舌に尽くしがたいが、今に始まったことではない」と前置きして語る。ハディ氏はパレスチナ人と日本人を両親に持つ。
明治大学 ハディ ハーニ特任講師
「今回の10月7日以降のガザへの攻撃は第5次。これまで少なくとも4回ガザに対する大規模な攻撃が行われ、その度に国際的な人権団体や監視団が民間人への意図的な殺害などを報告してきた。それを国際社会が放置してきた結果がこれなんだろうなぁと…」
「私は今日のことしか考えられない…。絶望感はすでに限界」
今月16日、食糧支援物資を積んだトラック109台がガザ地区に入った。しかし無事に目的地まで到着したのはわずか11台だった。途中略奪に遭ったのだ。
ガザで活動する医師もう一人は日本人だ。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の保険局長を務める清田明宏氏は、略奪も一様に責められないという…。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) 清田明宏 保険局長
「本当に厳しい状況の中でちょっとしか入ってこない食料を略奪する、あるいは高価で売るということを現地の人たちのせいにするのは非常に酷だと思います。(中略―――物資不足は)危機的でして、例えば暑い夏で湿疹が出る、あるいは熱が出て解熱剤は必要である…。その人たちに処方する薬がない。
我々はいったい何をやってるんだっていう非常に悔しい思いをしています。我々既に薬は購入していて、ヨルダン、エジプトに在庫を置いていて、きちんと運べる時をまっているんです。平均で9か月以上の薬の量を確保している。例えば全部搬入できたら明日から薬の枯渇は全くなくなるんです」
食料も薬の輸送できずに物資不足が続く。略奪したものを高値で売ることで卵一個1500円ということもある。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) 清田明宏 保険局長 「ある人が言ってたんです。私は今日のことしか考えられない。明日のことは考えられないって…。つまりそんな余裕もなければ、考えたとしても何も解決できない。だったらもう今日のことしか考えない。絶望感はすでに限界…人間が考えられる絶望をすでに超えていて、絶望感すら感じないように過ごしているのではないかなぁと…。このようなことが21世紀の世界で起こっていいのかと非常に強く思います」
今回の悲劇的な状況を生むきっかけとなったのは10月7日のハマスによる武力攻撃だ。
このことを一般のパレスチナ人はどう思っているのだろうか?
明治大学 ハディ ハーニ特任講師
「(ハマスを支持するか否かは)これは死生観に関わる問題。(ガザのパレスチナ人はイスラエルに)人間の尊厳を踏みにじられる恰好で少なくとも十数年やってきたわけです。この状態でもとにかく生き延びることを選ぶのか、尊厳を取り戻すために抜本的(変革)なものを求めそのためなら命を投げ出すのか…」
つまり抑圧され我慢の限界に達し、この状態で生きてるくらいなら死んでもいいから勝負に出ようという人はハマスを支持し、今まで通り抑圧されようと、とにかく生き延びることを優先する人は“ハマスなんてことしてくれたんだ”と思う。
明治大学 ハディ ハーニ特任講師
「世論調査では(両論)推移しますがハマス支持が増えたこともある。真綿でじわじわ首を絞められるように死んでいくのか、あるいは今なにか光を見出そうとするのか…」
イスラエル人の歴史家も若者に取り囲まれ…
一方でイスラエル国内では今回のガザの危機的情報をどう捉えているのだろうか。
ホロコーストやジェノサイドの研究の第一人者で現在アメリカに住んでいるユダヤ系イスラエル人のオメル・バルトフ教授は、もはや自分が知らないイスラエルになってきているという。
去年、11月にニューヨークタイムズにジェノサイドがの可能性があると寄稿した。しかしその時は証拠はないしそこにイスラエルが転じてしまわないようにする時間はあるとしていた。
その後今年の6月イスラエルの大学に講演に行った時のこと。1時間若者に取り囲まれ話すことすらできなかったという。
オメル・バルトフ教授
「彼らは非常に怒っていました。私がジェノサイドについて警告し、可能性に言及していたのを彼らは読んでいたからです。10月7日に怒ったことに対する唯一の解決策はパレスチナ人を根絶やしにすることだと信じ切っていました」
バルトフ教授は、原因の一つとして軍隊で非常に宗教的で右派的な教育が進んでいることだという。そのため若者が右傾化しているという。ただ、今イスラエル国内の雰囲気は若者だけでない。バルトフ教授は友人からかけられた声がショックだったという。
オメル・バルトフ教授
「私はイスラエルで生まれイスラエルで育ちました。学校も大学もイスラエルで通い軍務にも就きました。私がこれまで付き合ってきたのは考えが近いはずの人たちでした。そんな彼らが、私がそこに住んでおらず10月7日を経験していないとして自分たちの心情など分からないと言ってきたのです…それは私にとってこれまでにない経験で右翼の若者に出会うことよりも衝撃的でした」
いまバルトフ教授は、イスラエルの反撃は最初からジェノサイド作戦だったのではないかと思っているという。
「我々は約束の地を手放してはいけないんだ」
一体出口はどこにあるのだろうか…。イスラエル側が考えていることの一端が明らかになった。
今年9月イスラエルの退役軍人らがある計画を提案した。ガザ北部の『将軍たちの計画』と呼ばれるものだ。
ガザ北部から住民を強制非難させ、残ったものはハマスと認定。その後北部の食糧・水などの供給を停止し完全封鎖し、飢餓状態に追い込み完全に殲滅するというものだ。
さらにイスラエル・スモトリッチ財務相は「人質が無事に戻らない場合は我々はガザ北部の主権者となり永遠にとどまるだろう」と述べたという。
2005年にガザから撤退したイスラエルだが、この流れを見ると再占領を狙っているようにも見える。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)でも活動した経験を持つイスラエル・パレスチナ情勢が専門の立山名誉教授は「まさにその通りだ」と答え、続けた…。
防衛大学校 立山良司 名誉教授
「その計画の中心となった人物は去年の秋にはすでに“ガザは人が住めないようにすればいい”って言ってた。それで何人かの退役軍人とでこの『将軍たちの計画』をあくまで私的な政策提言として出したんですが、ネタニヤフ首相がこれに飛びついたような感じです。
2005年に入植者がガザ地区から撤退した。これは失敗だった。我々は約束の地を手放してはいけないんだ。もう一回ガザをイスラエルの支配下に置くんだっていう意識が強くなってきていて…それが現在のガザ政策になっていて、それを民衆も支えてる」
“約束の地”という言葉が出てしまうと、宗教が薄い日本人にはなかなか理解が及ばない世界になってくる。間もなく訪れるトランプ時代、イスラエルがますます活気づくこと想像するに難くない。注視していきたい…。
(BS-TBS『報道1930』11月21日放送より)
11/24 17:16
TBS NEWS DIG