「大接戦」の予想がなぜ“早期決着”に?トランプ大統領が返り咲き 世界経済や日本への影響は?【news23】
投票前はハリス氏優勢とみられていた大統領選でしたが、トランプ氏が終始リードする結果に。その理由には何が挙げられるのでしょうか。そしてトランプ大統領誕生により、日本の経済にどのような影響があるのでしょうか。(11月6日「news23」午後11時10分すぎの放送より)
大接戦のはずが“短期決着”の理由
小川彩佳キャスター:
投票前は全体の世論調査でハリス氏がリードしており、7つの激戦州のうち2州でもハリス氏が優勢と伝えられていました。しかし、ふたを開けてみれば、日本時間6日午後9時現在、すべての州でトランプ氏が勝利か優勢となっています。
もっと大接戦で、結果が出るのは遅くなるのではないかといわれていましたが、これだけ早く出てきました。何が起きているのでしょうか。
樫元照幸 ワシントン支局長:
注目された激戦州で大きな差がついたという一言に尽きます。
ペンシルベニア州は最大の注目とされましたが、日本時間6日午後9時現在、約16万票の差があり、これは前回の約2倍です。
南部ジョージア州では、ハリス氏とトランプ氏の得票差は12万票弱です。前回は1万2000票弱ぐらいだったので、約10倍ということになります。
それだけハリス氏の支持が広がらなかった、ハリス氏には人気、地力ともなかったということに尽きます。若者や黒人、ヒスパニックをポイントとしていましたが、いずれのカテゴリーも、トランプ氏に相当な票が流れたとみられています。
最大の争点となった経済、そして不法移民問題は、最後まで批判の対象となり続けました。ハリス氏は「ページをめくろう」という前向きなメッセージや、変化、チェンジを前面に出して訴えましたが、有権者には響かなかったということです。
小川キャスター:
この支持の動きは、メディアも読み切れなかったところがあるのでしょうか。
樫元照幸 ワシントン支局長:
全体としては、サプライズはそれほどありませんでした。共和党が取るだろうと思われていた州を、民主党が取ったということはありません。
7つの激戦州の結果が左右するだろうという点は、見通しどおりだったわけです。しかし、その中身で相当な差がついたのはサプライズで、メディアもここまで読み切れてはいなかったのではないかと思います。
渡辺靖 慶應大学教授:
私も驚きました。トランプ氏が強いというよりは、ハリス氏が弱かったように思います。
バイデン政権の今の支持率は4割で、有権者の6割以上が、アメリカは悪い方向に行っていると言っています。やはり全体として政権与党に対しての逆風が吹いていたのだと思いますし、ハリス氏は当然、副大統領として連帯責任を問われる立場にありました。
バイデン氏から選手交代した当初は期待や刷新感もありましたが、「いったい何をするのか」「バイデン氏とどう違うのか」「なぜこれまでやってこなかったのか」と問われたとき、ハリス氏は上手く答えられていなかったと思います。やはり予備選を経験していないので、どう対応すればいいか、わからないところがあったのではないでしょうか。
“隠れハリス”はいなかった? トランプ氏の経済対策が刺さったか
藤森祥平キャスター:
一方でトランプ氏は、大統領経験者としては史上初めて刑事事件で起訴されました。しかも、4つの裁判を抱えています。
それでも“隠れトランプ”が多かったのか、“隠れハリス”はいなかったのか、いかがでしょうか。
樫元照幸 ワシントン支局長:
“隠れトランプ嫌い”がどれだけ伸びるかと思っていたのですが、伸びなかったということです。
たとえば南部の保守的な地域には、家族全員がトランプ氏を支持している一方で、女性の権利を大事にするハリス氏を支持したい“隠れハリス”の女性がいるのではないかということで、民主党は働きかけ、CMを打つなどしてきたわけですが、結果に影響を与えるような数に至りませんでした。
副大統領としてそれほど人気がないハリス氏を担ぎ出すことになりましたが、刷新感を演出しただけで勝てるほど、アメリカ大統領選挙は甘くないということです。
小川キャスター:
ハリス氏が候補となった当初は、初の女性で、しかも白人ではない大統領が誕生するのではないかという高揚感もあったように思います。
渡辺靖 慶應大学教授:
高揚感はあったと思いますし、私は女性がアメリカの大統領になる素地はあると思います。
ただ、今回の選挙戦でハリス氏は「女性である」と言いませんでした。言ってしまうと、かえって反発を買うかもしれないからということです。
本当は、その部分はもっと誇ってもいいことかもしれませんが、ハリス氏が前面に押し出せなかったところに、やはりまだアメリカの“ガラスの天井”はあるのかもしれません。
藤森キャスター:
アメリカの現状をみてみると、歴史的な物価高といわれています。
ガソリンの価格(1ガロン=約3リットルあたり)は全米平均で、2020年の約2ドルから、2024年は約4ドルと2倍になっています。
アメリカではガソリン価格は何よりも身近なもので、全米平均で1ガロン3ドルを超えることは大きな壁といわれているなか、一気に4ドルとなり、場所によっては5ドルや6ドルに上がった州もあったということです。
バイデン政権の物価高に対する懸念は、相当なものだったということでしょうか。
佐藤祥太 TBS経済部デスク:
世論調査の平均では、60%近くが経済運営は支持しないと答えていました。
コロナ後の巨額の財政出動や、需要の急回復にロシアのウクライナ侵攻も重なって、ガソリンも含む物価が跳ね上がりました。最大で9.1%ぐらい上昇したのですが、これは40年ぶりの水準です。物の値段が1割近く上がると、市民生活に直撃しますよね。
トランプ政権のもとでのコロナ対応でアメリカ経済が傷ついてしまったところがあり、それを立て直すためという側面もあったのですが、トランプ氏はそこで機を見るようなところがあります。「あれはバイデン政権の失策だ、ハリス氏もその連帯責任を」というような追及の仕方をしていました。
もとより経済対策が有権者の中での最大の関心事だったわけで、そこにトランプ氏の訴えが“刺さった”という言い方ができるかもしれません。
トランプ氏が支持得た要因 「民主党政権への不満」や「不法移民対策」か
藤森キャスター:
NEWS DIGアプリで、『アメリカ大統領選挙』について、アンケートを行ったところ、以下のような結果となりました。
Q.今回の選挙 トランプ氏が支持を得た最大の要因は?
「経営手腕」…7.4%
「外交手腕」…3.0%
「民主党政権への不満」…47.5%
「ハリス氏への抵抗感」…9.8%
「セレブへの反感」…1.8%
「“変化”を求めたから」…18.4%
「その他・わからない」…12.1%
小川キャスター:
トランプ氏が支持を得た要因の「民主党政権への不満」には経済対策も含まれると思いますが、他にはどういったことが考えられるのでしょうか。
渡辺靖 慶應大学教授:
やはり不法移民対策があると思います。バイデン政権が発足したころ、多いときは1日に5000~8000人ぐらいが国境沿いに集まってきていました。
アメリカの場合、審査している間は国内に滞在できるので、税金を使って移民の世話をしているのに、何の見返りもないということになります。そうした不満が、ハリス氏の敗因の一つになったと思います。
為替はドル高・円安基調に? どうなる日本経済
藤森キャスター:
トランプ氏が次の大統領になり、今後の4年間はどうなるのでしょうか。
【トランプ氏の主要な政策】
<関税>
●輸入製品に10%~20%
●中国には60%
<税金>
●法人税率の引き下げ
●個人所得減税など「トランプ減税」恒久化
<気候変動・エネルギー>
●パリ協定からの再度脱退
●化石燃料の生産拡大 コストダウン
輸入製品に10%~20%の関税をかける、中国には60%…と、かなり思い切った政策ですが、本当にやるのでしょうか。
渡辺靖 慶應大学教授:
もしかすると選挙中のいわゆるブラフかもしれません。
ただ、関税政策は大統領の権限でできないことはないので、本当に中国に60%の関税をかければ、中国も黙っていないでしょう。相当な貿易戦争になると思います。
藤森キャスター:
トランプ氏は散々、バイデン・ハリス政権の物価高について批判を強めていました。こういった関税政策や税金の引き下げは、物価高を招くことになるのではないかと専門家が指摘しています。
佐藤祥太 TBS経済部デスク:
関税について前回は、中国や、競争力が比較的ある日本を含めた国を狙っていました。しかし今回、トランプ氏は幅広く関税をかけると言っており、そうすると物の値段が上がってくる可能性が高いです。
また、減税すると景気がよくなり、景気がよくなると金回りがよくなり、物の値段が上がる可能性があります。散々インフレを批判していた割に、インフレを呼び起こすような政策をするというところで辻褄が合っていないのですが、この矛盾についてはトランプ氏らしいというか、説明はされていません。
藤森キャスター:
日本への経済の影響は、どうなるのでしょうか。
佐藤祥太 TBS経済部デスク:
6日の昼過ぎごろからトランプ氏が優勢だということが意識され、日本も株高になり、円も154円台半ばに。NYダウも4万2000ドル前半ぐらいまで上がっています。
当面はトランプ氏が掲げる規制緩和などに対する期待感で、株価は分野別ですが上がるところも多いと思います。為替はドル高・円安が基調になってくるのではないかとみています。
「当選すれば24時間以内にウクライナでの戦争を終わらせる」政策どう実現?
藤森キャスター:
トランプ氏の他の移民や外交政策もみていきます。
【トランプ氏の主要な政策】
<移民政策>
●史上最大の強制送還
●就任初日にメキシコ国境封鎖
<外交>
当選すれば24時間以内にウクライナでの戦争を終わらせる
本当に実行しようとしているのでしょうか。
樫元照幸 ワシントン支局長:
前回の政権ではトランプ氏に対し、ブレーキ役を務めようとした人がいましたが、今回は側近をイエスマンで固めるだろうとみられています。
まさに大衆、庶民の支持を得て大統領になったポピュリストのトランプ氏としては、さまざまな政策を実現していこうとするでしょう。ワシントンの常識では進められないようなものでも、そういう案件だからこそ前に進めようとすることがあるかもしれません。
私が注目したいのは外交分野で、「ロシアのウクライナ侵攻をあっという間に片付ける」ということを言っていますが、実際どのように動こうとするのか。ウクライナにとって、和平ではなく、敗北という形にならないか、注視していかなければいけません。
中東問題についても、イランと向き合うなかで、トランプ氏の持論である“強さの外交”、場合によっては“脅しの外交”が垣間見えてくる部分があると思います。
一方で、中東では「アブラハム合意」という、アラブ首長国連邦とイスラエルの国交を実現した自負もあります。中東の衝突は拡大する一方ですが、この流れを変える可能性もあります。
アメリカと中国、アメリカとロシアの関係も変化していくでしょうし、北朝鮮との外交を再び動かそうとするかもしれません。
そのなかで日本とどのような関係を作っていくのか、どのような連携をしていくのかというのもポイントになってくると思います。
前回との違い?“今のアメリカ”が鮮明に 「分断がトランプ氏を生んだ」
小川キャスター:
8年前は大統領としてまったく未知数な状況で勝利したわけです。当時、取材した際、選挙参謀の方は「選挙に勝つことが目的で、『あとは野となれ山となれ』ではないか」と言っていました。
今回は大統領だったトランプ氏を国民たちがわかったうえでの勝利となるわけで、8年前とは状況が違います。この意味合いをどうみていますか。
佐藤祥太 TBS経済部デスク:
前回は泡沫候補からのスタートで、急進的でエリート的なオバマ政権を引き継ごうとするクリントン氏への嫌悪感や怒りをベースにし、格差や移民、中国を絡めて支持を拡大していきました。
しかし、今回は少し違うと思います。選挙前、ある民主党の幹部にお話を聞いたところ、「トランプ氏が分断を招いたのではなく、分断がトランプ氏を生んだ」と言っていたのが非常に印象的でした。
自分の利益を確保するためならば、乱暴な言動で混乱を招くリーダーであったとしてもよしとするという、今のアメリカの一側面が改めて鮮明になったと思います。
日本や日本企業は、それを踏まえてどういう距離感で付き合っていくのか、考えていくのかを改めて問われているように思います。
渡辺靖 慶應大学教授:
トランプ氏の2期目は、自分が本当に信頼できる、裏切らないと忠誠を誓う人で周りを固めると思います。そして今回、上院も共和党が取っているので、トランプ氏が好きな人をどんどん任命していけるということです。
今後の鍵は下院がどうなるかです。下院まで共和党が多数派になると、トランプ氏をストップするものは何もなくなりますが、逆にねじれると、大統領といえども好き勝手にはできなくなると思います。
小川キャスター:
政策に対しての思いや実行しようとする意志は強くなっているということですね。
渡辺靖 慶應大学教授:
「前回、邪魔されたので、今回は復讐してやろう」という気持ちは強いと思います。
小川キャスター:
政策一つひとつが実現されるのかどうなのか、どのように実現されるのか。各国でさまざまなシミュレーションをしていると思いますが、そのとおりに行くのかどうかも未知数というなかで、それに合わせて世界が動いていきます。日本としての向き合いは、つぶさに試されるということになるでしょう。
『アメリカ大統領選』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『アメリカ大統領選』について「みんなの声」を募集しました。
Q.今回の選挙 トランプ氏が支持を得た最大の要因は?
「経営手腕」…7.4%
「外交手腕」…3.0%
「民主党政権への不満」…47.5%
「ハリス氏への抵抗感」…9.8%
「セレブへの反感」…1.8%
「“変化”を求めたから」…18.4%
「その他・わからない」…12.1%
※11月6日午後11時11分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは7日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
渡辺靖さん
慶應大学教授 ハーバード大学博士号を持つ
専門は現代米国論・広報文化外交論
樫元照幸
TBS報道局外信部 ワシントン支局長
佐藤祥太
TBS経済部デスク 元ワシントン特派員
8年前の米大統領選を現地で取材
11/07 01:51
TBS NEWS DIG