“原爆を生んだ町” 博物館にはパネル1枚…「被爆者の声」反映されない実情 映画「オッペンハイマー」公開1か月

シリーズ「現場から、」です。映画「オッペンハイマー」をきっかけに改めて注目される原爆開発の歴史。原爆を生んだ町ではどのように伝えられているのでしょうか?

立ち上る巨大なきのこ雲。1945年7月、アメリカで行われた人類初の核実験、「トリニティ実験」です。

「マンハッタン計画」と呼ばれたこのプロジェクトを主導したのが、物理学者のロバート・オッペンハイマー博士です。

「一度使えば、核戦争…。おそらくすべての戦争を考えもしなくなる」

原爆の父と呼ばれる博士の半生を描いた映画「オッペンハイマー」。今年のアカデミー賞で作品賞など7冠に輝き、日本でも先月から上映されています。

ロケーションコーディネーター
「ここが『オッペンハイマー』の撮影が行われた場所だよ」

撮影は研究の中枢を担った町、西部ニューメキシコ州ロスアラモスの近くに、当時の様子を再現して行われました。先月からは観光客も受け入れています。

ロケーションコーディネーター
「1つのシーンが終わったらすぐ別のセットが用意されていた。見事だったよ」

ロスアラモスは現在も核兵器の研究などを行う国立研究所を中心に、研究所で働く人が多く暮らす町となっています。

オッペンハイマー博士の家が今も残されているほか、公園には博士の銅像も。映画公開後、観光客は1.5倍に増えました。

現地の博物館には、日本に投下された原爆のレプリカなどが展示されていますが…

記者
「原爆の被害については1枚のパネルが展示されているのみとなっていて、日本人としては違和感を抱かざるを得ません」

2015年にマンハッタン計画の関連施設が国立公園に指定された際、アメリカ政府は「被爆者の声にも耳を傾ける」としていましたが、反映されていないのが実情です。

博物館を訪れた人
「あなたに伝えるのは心苦しいが、日本が降伏する気がなかったから(原爆投下は)必要だったと思う」

マンハッタン計画に参加した科学者を訪ねました。

広島型原爆に必要な濃縮ウランの研究に携わった、ディーター・グルーエンさん(101)。「戦争終結のために原爆は必要だった」としますが、被害については展示すべきだと話しました。

原爆開発に携わったディーター・グルーエンさん
「当然、(被害を)見せるべきです。8月6日のことを知り、今後の世界情勢が変わってしまうと確信しました」

原爆投下の直後から関係者に書簡を送るなど、核兵器の使用禁止を訴えてきたグルーエンさん。世界で起こる衝突に懸念を示します。

原爆開発に携わったディーター・グルーエンさん
「ウクライナや中東で起きていることはあってはならないことです。エスカレートする可能性があるからです。私たちは文明を破壊するのに十分な核兵器を持っています」

被爆者をこれ以上生まぬよう、被害を含めた歴史の伝承が求められます。

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