「影の戦争」から直接攻撃 イスラエルとイランが互いに一線超え…中東の混迷一段と

【カイロ=佐藤貴生】イスラエルが19日、イランを攻撃し、昨年10月以降のパレスチナ自治区ガザを巡る紛争が中東の地域大国間の衝突に発展する懸念が一段と高まった。イスラエルの反撃は限定的だったとされるが、破壊工作や代理勢力による戦闘という「影の戦争」を続けてきた両国が今回、互いの領土を直接の標的にした。中東の混迷は深まる一方だ。

米紙ワシントン・ポストはイランへの反撃について「イラン領土内に攻撃できる能力を示す狙いがあった」とのイスラエル当局者の話を伝えた。

イランが13~14日にイスラエルに実施した報復は、米英などの協力で被害を最小限に抑えたとはいえ、300以上ものミサイルや無人機を使った激しいものだった。アラブ諸国と過去4度に及ぶ戦争を経て「中東最強」の地位を確立したイスラエルとしては、断固とした姿勢をみせる必要があったとみられる。

イスラエルのネタニヤフ政権には対外強硬派が顔をそろえ、連立に加わる極右政党からは「(イランを)粉砕するような反撃」(ベングビール国家治安相)を行うべきだとの声も上がっていた。

ネタニヤフ首相は、パレスチナ自治区ガザでイスラム原理主義組織ハマス掃討を半年以上続けているが、組織は壊滅できず、連行された人質も救出できていない。厳しさを増す国内世論を考慮した可能性もある。

19日の反撃について、米メディアなどは「限定的」だったとの見方を示しており、米欧からの自制要求をイスラエルが一定程度、考慮した可能性はある。イスラエルはイランの核施設を避けたとみられ、軍事基地を攻撃対象にしたとするイランからの攻撃との均衡を取ったともいえる。

イラン側は現時点でイスラエルへの即座の再報復を否定し、双方も本格的な衝突は望んでいないとみられる。ただ、これまで回避していた直接の領土攻撃という一線を互いに越え、今後、事態がどのように発展するかは見通せない。

イランとイスラエルの衝突激化で特に不安視されるのは「核」だ。イスラエルは事実上の核兵器保有国。イラン革命防衛隊の司令官の一人は18日、「イスラエルの全核施設に関する情報を得ている」とし、イラン国内の核施設が攻撃されたら、イスラエルの核施設が「最新兵器の攻撃対象になる」と述べた。

イランが今後、抑止力として核兵器開発を加速するとの分析もある。その場合、サウジアラビアなどの周辺国を交えた核開発競争を誘発しかねない。

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